うんちく
あらすじ
かんそう
劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’18-04
『はじめてのおもてなし』(2016年 ドイツ)
『善き人のためのソナタ』のプロデューサーと『デッド・フレンド・リクエスト』などのサイモン・ヴァーホーヴェン監督がタッグを組み、難民の青年を家族の一員として迎え入れることで人生を見つめ直し、再生していく家族の軌跡を描いたコメディドラマ。2016年度ドイツ映画興行収入NO.1を記録し、本国のアカデミー賞で観客賞を受賞した。『戦争のはらわた』などのセンタ・バーガー、『ドレスデン、運命の日』などのハイナー・ラウターバッハ、『君がくれたグッドライフ』などのフロリアン・ダーヴィト・フィッツらが出演。
ミュンヘンの閑静な住宅地に暮らすハートマン一家。教師を定年退職し、生き甲斐をなくした妻のアンゲリカ、大病院の医長の座にしがみつく夫のリヒャルト。弁護士の長男は妻に逃げられ、その息子はゲームとラップに夢中、長女は31歳になっても大学生である。ある日曜日、家族全員が揃ったディナーの席で、アンゲリカが難民の受け入れを宣言。家族の猛反対を押し切って、ナイジェリアから来た亡命申請中の青年ディアロを自宅に住まわせるが……
この数年はヨーロッパの難民問題を扱う映画が増えている。2015年頃、押し寄せてくる中東やアフリカ大陸からの難民に翻弄されるヨーロッパ諸国のなかで、メルケル首相の積極的な人道支援方針により難民の大量受け入れが決定されたドイツ。その結果、都市人口に匹敵する数の難民が殺到し、大混乱を招く事態となった。「ヒトラーを生んだ罪悪感」から人道支援には積極的なドイツだが、ここにきて難民排他主義の動きも活発になっている。その反面で、海外の掲示板に「最近の難民たちのほうが、20年前に来たやつらよりはずっといい」と書き込むドイツ人もいる。移民や難民の問題は、今に始まったことではないのだ。本作ではそのあたりの事情も非常によく描かれており、ハートマン家と彼らを取り巻く環境は、現代ドイツ社会の縮図のようだ。戦禍に全てを奪われ天涯孤独となったディアロは、人間としてどう生きるべきか、幸せの本質を知っている。価値観が複雑化した現代社会で大切なことを見失い、五里霧中で彷徨うハートマン家のひとりひとりに素朴な疑問を投げかける、ディアロのシンプルな言葉が心に響く。シリアスなテーマを、ユーモアと風刺で軽やかに描いた良作。
劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’18-02
『ブリムストーン』(2016年 オランダ,フランス,ドイツ,ベルギー,スウェーデン,イギリス,アメリカ)
ヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門に選出され、その強烈な内容が批評家の間でも大きな議論を巻き起こしたスリラー。19世紀アメリカの西部開拓時代を舞台に、時代と信仰に翻弄された一人の女性の生き様を描く。監督・脚本はオランダの名匠マルティン・コールホーヴェン。主演は『アイ・アム・サム』『リリィ、はちみつ色の秘密』などのダコタ・ファニング、『L.A.コンフィデンシャル』『メメント』などのガイ・ピアーズ。エミリア・ジョーンズ、カリス・ファン・ハウテン、キット・ハリントンらが共演。
19世紀、西部開拓時代のアメリカ。小さな村で、年の離れた夫と二人の子供と暮らす美しい女性リズ。ある事情で言葉を発することができないが、村では助産師として人々からの信頼を寄せられ、概ね幸せに暮らしていた。そんなある日、鋼のような肉体と信仰心を持つ牧師が村にやってくる。リズの過去を知る牧師から「汝の罪を罰しなければならない」と告げられ、秘めていた壮絶な記憶を蘇らせた彼女は、家族に危険が迫っていることを夫に伝えるが……
深淵を覗いてしまった。「Brimstone」は”地獄の業火”のことである。硫黄(sulfur)の英語の古名であり、「Burn-stone(燃える石)」を意味する古英語「Brynstān」が元になっているそうだ。また、「女神の添え名であるBrimoが語源。意味は「怒り狂う者(raging one)」で、女神の破壊者としての面を表している。錬金術で硫黄を表すシンボルは女神アテーナーのシンボルと同じで、十字の上に三角形が乗ったものである。これはヴィーナスのシンボルと同様、男性性器の上に女性性器が乗っているしるしである」とのこと。「Fire and Brimstone」は旧約聖書の『創世記』などに登場する「灼熱地獄(Inferno)」の訳語となり、”地獄の責め苦”をあらわす。このタイトルが全てを物語っているが、アメリカ西部開拓時代とプロテスタントの宗教的背景をある程度知っておいたほうが理解しやすいだろう。
狂信により歪められた聖なる言葉でサディスティックに虐げられる女性たち。暴力が”持たざる者”を支配する過酷な時代に翻弄されながら、その運命に屈することなく自分の意思を生きようとした女性の壮絶なクロニクルである。「Revelation(啓示)」「Exodus(脱出)」「Genesis(創世)」「Retribution(報復)」という4章で成り立っており、リズとは一体何者なのか謎を残したまま、彼女が犯した「罪」とは何か、過去に遡り紐解かれていく構成が見事。目を背けたくなるほど凄惨でおぞましい記憶を辿りながら、片時も目が離せない地獄めぐりは悪夢のよう。その瞳で、その全身全霊でこの受難を演じきったダコタ・ファニングの素晴らしさ。観る者の心に拭えないトラウマを残す問題作。
劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’18-01
『キングスマン:ゴールデン・サークル』(2017年 イギリス)
2014年に世界的ヒットを記録したイギリスのスパイ映画『キングスマン』の続編。どの国にも属さない世界最強のスパイ組織「キングスマン」に属するエージェントが、謎の組織ゴールデン・サークルの陰謀を阻止しようと奮闘するさまを活写する。前作に続き、制作総指揮のマーク・ミラーとタッグを組み、マシュー・ヴォーンが監督を務める。主演のタロン・エガートンをはじめ、コリン・ファース、マーク・ストロングらが続投するほか、『めぐりあう時間たち』などのジュリアン・ムーア、『チョコレート』などのハル・ベリー、『マジック・マイク』などのチャニング・テイタム、エルトン・ジョンら豪華キャストが新たに参加している。
ロンドンのサヴィル・ロウにある高級テーラー「キングスマン」は、どの国にも属さない世界最強のスパイ組織の本拠地であったが、世界的麻薬組織「ゴールデン・サークル」の攻撃により壊滅させられてしまう。残されたのは、一流エージェントに成長したエグジーと教官兼メカ担当のマーリンだけだった。二人はアメリカに渡り、バーボン・ウィスキーの蒸留所を拠点にしている同盟スパイ組織「ステイツマン」と合流するが……
2018年の映画初め。ちなみに去年の映画初めは『ダーティ・グランパ』というロバート・デ・ニーロがひたすら下ネタをまくし立てる破廉恥な作品をチョイスする痛恨のエラー。故に今年は、”Manners maketh man.”――マナーが人を作る、そんな英国紳士の精神が宿ったスタイリッシュでエキサイディングな英国製スパイ映画『キングスマン』の続編を。って、やっぱ人がめっちゃ死ぬ!めっちゃ不謹慎!マシュー・ヴォーンのバカ!でも、めっちゃ面白かった・・・。今回もイカしたスパイガジェットが数多登場、007顔負けのスケールで展開するアクションが最高に楽しい。キングスマンの兄弟組織である米国のスパイ機関“ステイツマン”が登場するが、英国との文化の違いがユーモラスかつアイロニックに描かれていて面白い。チャニング・テイタムが絵に描いたようなアメリカンでずるい。エルトン・ジョンの存在がずるい。とにかくずるい。エリザベス女王からナイトの称号もらった御仁(御歳70)に何させとんねん。こんなん笑うしかないし、もはやエルトン・ジョンしか思い出せない。もう一回観たいなぁ、そしてハンバーガー食べたい。