銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】エンドレス・ポエトリー

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劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’17-72

エンドレス・ポエトリー』(2016年 フランス,チリ,日本)

 

うんちく

『エル・トポ』や『ホーリー・マウンテン』などでカルト的人気を誇る鬼才アレハンドロ・ホドロフスキー監督の自伝的作品『リアリティのダンス』の続編。世界に潜む「マジック・リアリズム」を追い求め続けるホドロフスキー監督の新作は、世界中のファン約1万人からクラウド・ファンディングで資金の多くを集めて製作された。末の息子アダンが青年となったアレハンドロを、長男のブロンティスがその父親を演じる。『恋する惑星』などのウォン・カーウァイ監督作品で知られるクリストファー・ドイルが撮影を担当。
 

あらすじ

故郷トコピージャから首都サンティアゴへと移住したホドロフスキー一家。青年となったアレハンドロは、自分への自信のなさと抑圧的な両親との葛藤に苦悩し、自分の道を求めてもがいていた。そんあある日、彼は従兄のリカルドの案内で芸術家姉妹の家を訪れる。そこには何にも縛られない、自由な若き才能たちが共に暮らしていた。ステジャ・ディアスとの初めての恋や、後に世界的な詩人となるエンリケ・リンやニカノール・パラらとの出会いと交流によって、それまで自分が囚われていた現実から解放され、自己を確立してゆくが...
 

かんそう

「生きろ!」と耳元で囁かれ、”真なる生”を突きつけられる強烈な映像体験をした。映画は単なるエンターテイメントではなく、一つの経験なのだとホドロフスキーが言っているように。
アレハンドロが一夜でおじさんになるので度肝抜かれるが、相変わらず父親は抑圧的で支配的、そして人生を嘆いて歌うように話す母親。道化、占い師、フリークスたち。88歳になったホドロフスキーの瑞々しい感性で描かれる、生々しく幻想的な、残酷で美しい、生き死にの全て。でも何が凄いって、芸術や哲学、倫理すら超越して、映画として圧倒的に面白いこと。誰かが模すれば必ず陳腐になりそうな手法であっても、ホドロフスキーの手にかかると決して陳腐になず、見事に芸術へと昇華する。その創造性は唯一無二にして、まるで魔法のようである。なぜこんなに心を鷲掴みにされ、この作品のことを思い出すだけで、幸福感に胸が震えて泣きそうになるのか。「世界を変えるために映画を作っている」と言うホドロフスキーの才能に感謝するとともに、その魂と共鳴する感性を持ち合わせた人間で本当に良かったと、その幸運を噛み締めていたい。”君が、詩が、僕の行く道を照らしてくれる──燃えさかる蝶のように。”
 
最後に、劇場公開の映像にモザイクがかかっていなかったことについて。この作品における「性」の描写に芸術性が認められたこと、まさに日本の映画興行史に残る素晴らしい決断である。この決断をした映倫委員、そして諦めなかったアップリンク代表の浅井さんに感謝したい。