或る映画凝屋の手記

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】ヒトラーへの285枚の葉書

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劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’17-37
ヒトラーへの285枚の葉書』(2016年 ドイツ,フランス,イギリス)
 

うんちく

ドイツ人作家ハンス・ファラダゲシュタポの記録文書を基に、わずか4週間で書き上げたと言われる『ベルリンに一人死す』を、『天使の肌』で監督も務めた俳優のヴァンサン・ペレーズが映画化。実在したハンペル夫妻をモデルにしたこの小説は、アウシュヴィッツ強制収容所からの生還者であるイタリアの著名作家プリーモ・レーヴィに「ドイツ国民による反ナチ抵抗運動を描いた最高傑作」と評され、1947年の初版発行から60年以上経た2009年に初めて英訳されたことで世界的なベストセラーとなった。『父の祈りを』『ラブ・アクチュアリー』のエマ・トンプソンと『ブレイブ・ハート』『ギャング・オブ・ニューヨークブレンダン・グリーソンが主演を務め、『グッバイ、レーニン!』のダニエル・ブリュールが共演。
 

あらすじ

1940年6月、フランスへの戦勝ムードに沸くベルリンで慎ましく暮らしている労働者階級の夫婦オットーとアンナのもとに、一通の封書が届く。それは最愛のひとり息子ハンスが戦死したという知らせだった。心の拠り所を失った二人は深い悲しみに暮れるが、ある日、ペンを握り締めたオットーは「総統は私の息子を殺した。あなたの息子も殺されるだろう」というアドルフ・ヒトラーとその政権に対する怒りと非難のメッセージをポストカードにしたため…。
 

かんそう

戦後70年以上が経ち、この数年は特に第二次世界大戦下におけるナチスドイツをテーマにした作品が数々生み出されているが、本作は軍隊やレジスタンスではなく、どの組織にも属さない労働者階級の夫婦、市井の人々の視点を通して戦時下のベルリンを映し出している。原題は“ALONE IN BERLIN”、原作のタイトルは「ベルリンに一人死す」。この作品が訴えているのは、ヒトラーの独裁政治に対する非難だけではない。ヒトラーというおぞましい怪物に熱狂し、それを支持した市民の罪深さだ。ベルリン市民は誰1人として、夫妻の行動に共感しなかった。285枚のうち、267枚が警察に届けられたのだ。名もなきドイツ人労働者の絶望的で孤独な闘い、ペンと葉書だけを武器にした命がけの抵抗運動が、美しく端正な映像で寡黙に描かれる。余計なものを一切削ぎ落とすことで、1人息子を戦争に奪われた夫婦の怒りと哀しみがくっきりと浮かび上がり、ずしりと重く心にのしかかってくる。それは波紋のように胸の奥底に広がり、深い余韻を残す。後世に残したい秀作。