銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】オッペンハイマー

映画日誌’24-19:オッペンハイマー

introduction:

インターステラー』『TENET テネット』などの衝撃作を送り出してきたクリストファー・ノーラン監督が、「原爆の父」と呼ばれた天才科学者オッペンハイマーの栄光と没落の生涯を描いたドラマ。『インセプション』などノーラン監督作品に出演してきたキリアン・マーフィーが主演を務め、ロバート・ダウニー・Jr.、エミリー・ブラントマット・デイモン、フローレンス・ピュー、ジョシュ・ハートネットケネス・ブラナーなど豪華な顔ぶれが脇を固める。本作ではIMAX65ミリと65ミリ・ラージフォーマット・フィルムカメラとを組み合わせた、最高解像度の撮影を実践。第96回アカデミー賞では同年度最多となる13部門にノミネートされ、作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞編集賞、撮影賞、作曲賞の7部門を受賞した。(2023年 アメリカ)

story:

第二次世界大戦下のアメリカ。極秘に立ち上げられたプロジェクト「マンハッタン計画」に参加した物理学者のJ・ロバート・オッペンハイマーは、優秀な科学者たちを率いて世界初の原子爆弾を開発に成功する。しかし、原爆が実戦で投下され、その恐るべき惨状を聞いたオッペンハイマーは深く苦悩する。戦後、さらなる威力をもった水素爆弾の開発に反対するようになるが、冷戦や赤狩りなど、激動の時代の波に飲み込まれていく。

review:

1945年7月16日、アメリカ合衆国ニューメキシコ州で、人類最初の核実験がおこなわれた。「トリニティ実験」と呼ばれたこの核実験をもって、世界は「核の時代」に突入した。人類の活動が地質や生態系に影響を与えるようになった地質年代として提案されている「人新世」の始まりとされることもある。そしてその実験から数週間後、8月6日に高濃縮ウランを用いた原子爆弾リトルボーイ」が広島に、その3日後の8月9日にはプルトニウムを用いた原子爆弾「ファットマン」が長崎に投下され、1945年末までに広島で約14万人、長崎で約7万4千人もの市民が命を落としたのである。

第二次世界大戦下、ナチス・ドイツが進める核兵器開発への危機感を背景に誕生した国家軍事プロジェクト「マンハッタン計画」の科学部門を率いて「トリニティ実験」を成功に導き、「原爆の父」と呼ばれたロバート・オッペンハイマー。鬼才クリストファー・ノーランが、ピュリッツァー賞を受賞したノンフィクションをベースに、世界の運命を握ったこの天才科学者の栄光と没落の生涯を描き、2023年7月に全米公開されると世界興収10億ドルに迫る世界的大ヒットを記録。「バーベンハイマー」の炎上騒ぎなどもあり、大手が配給を見送ったため日本国内での公開が危ぶまれたが、ビターズ・エンドの英断によって2024年3月29日の劇場公開に至った。

広島・長崎への原爆投下による凄惨な被害状況を伝えるシーンが出てこないことへの批判もあるようだが、クリストファー・ノーランは、世界が変わった瞬間に我々を立ち合わせた。「戦争を終わらせ、息子たちを家に帰すため」という大義名分によって、原爆が米国社会に歓迎されているさまが映し出され、日本人としては少々複雑だ。しかしその熱狂のはざまで、知的探究の果てに一線を超える破壊兵器を設計してしまった科学者の呵責と葛藤をくっきりと描き出しており、彼が生涯その十字架を背負って生きていたことを知る。きっと世界で唯一の被爆国で暮らす我々こそ、「神の火」を盗んで人類に与えたプロメテウスの顛末を目の当たりにするべきなのだ。

彼の物語は私たち全員に関わるものです。彼らの行動は、良かれ悪かれ、私たちの世界を規定し、私たちはその中で生き続けている。だからこそ、彼の物語をできるだけ大きなスクリーンにかけ、できるだけ多くの人に観てもらうことが、この映画の望むことなのです。——クリストファー・ノーラン

ノーランのストーリーテラーとしての求心力、映像の力は言わずもがな。賞レース総なめも納得の最高傑作、IMAXで体験することをお勧めする。アホなので人間関係の整理が追いつかなかったけど、実力派揃いのメインキャストはもちろん、ゲイリー・オールドマンケイシー・アフレックラミ・マレックなどのオスカー俳優がちょい役で出てきて贅沢なキャスティングに驚く。『戦場のメリークリスマス』のロレンス、世界一美しいターザンことアレクサンダー・スカルスガルドの弟グスタフも発見。どうでもいいけど、私の青春(笑)『メンフィス・ベル』のマシュー・モディーンがおじいちゃんになってて衝撃だったわい・・・。そしてアジアの星キー・ホイ・クァンを無視したロバート・ダウニー・Jr.のことは許さない。

trailer: