銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】サーミの血

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’17- 53
 

うんちく

第29回東京国際映画祭で審査委員特別賞と最優秀女優賞を受賞し、世界各国の映画祭で絶賛されているヒューマンドラマ。北欧スウェーデン少数民族サーミ人の少女が、差別や困難に抗いながら成長していく姿を追う。サーミ人とは、ラップランド地方でトナカイを飼い暮らし、フィンランド語に近い独自の言語を持つ先住民族。映画の主な舞台となる1930年代、スウェーデンサーミ人は他の人種より劣った民族として差別されていた。主演はノルウェーでトナカイを飼い暮らしているサーミ人のレーネ=セシリア・スパルロク。劇中の民族衣装、小道具、トナカイの扱いなどはすべて正確に再現されている。サーミ人の血を引くアマンダ・シェーネル監督が自らのルーツに迫った。
 

あらすじ

1930年代、スウェーデン北部の山間部ラップランドで暮らす先住民族サーミ人は、劣等民族として差別され迫害されていた。サーミ語を禁じられた寄宿学校に通う少女エレ・マリャは、勉強熱心で成績も良く高校進学を望んでいたが、教師に「あなたたちの脳は文明に適応できない」と告げられる。そんなある日、サーミ人であることを隠して忍び込んだ村祭りで、都会的なスウェーデン人の少年ニコラスと恋に落ちてしまう。トナカイを飼いテントで暮らす生活を、見世物のように眺められる日々から抜け出したいと願っていたエレは、彼を頼って街に出るが……
 

かんそう

「福祉大国」「理想的社会」のイメージが強いスウェーデンにおいても、先住民に対するこのような人種差別が存在し、長きに渡り理不尽に虐げられてきた人々がいるという事実を目の当たりにして、ぎくりとする。それだけでも充分、観るに価する作品であるが、重厚な物語と美しいラップランドの風景、エレ・マリャを演じたレーネ=セシリア・スパルロクから放たれる溢れんばかりの生命力に胸が震える。スウェーデン人からの激しい差別や辱めに心身をさらされ、サーミ人としてのアイデンティティと羞恥心が鬩ぎ合う苦悩、怒りと悲しみ、そして思春期のゆらぎが、息が詰まるような閉塞感とともに描かれ、心が押し潰されそうになる。不条理な境遇から抜け出し運命を切り拓くため、自らのルーツを否定し続けなければいけなかったエレ。生まれついた運命を受け入れ、サーミ人としての人生を全うした妹のニェンナ。ふたりの人生が再び交わる瞬間、サーミ人としてのエレが解き放たれるラストシーンは圧巻だ。