銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】雨の日は会えない、晴れた日は君を想う

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劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’17-11
『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』(2016年 アメリカ)

うんちく

ダラス・バイヤーズクラブ』などのジャン=マルク・ヴァレ監督が、『ナイトクローラー』『サウスポー』のジェイク・ギレンホールを主演に迎え、妻を亡くしても哀しむことが出来ないほど無感覚になってしまった男が、身の回りにあるものを破壊することで自分を再生させようと葛藤する姿を描いた人間ドラマ。『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』『追憶の森』のナオミ・ワッツ、『アメリカン・ビューティー』『アダプテーション』のクリス・クーバーらが共演。

あらすじ

ウォール街のエリート銀行員として順調に出世し、富も地位も手にしたデイヴィスは、高層タワーの上層階で空虚な数字と向き合う日々を送っていた。そんなある日、突然の交通事故で美しい妻が他界。ところが、哀しみが湧き上がって来ず、涙の一滴すら流せない無感覚な自分に気付いてしまう。「心の修理も車の修理も同じことだ。まず隅々まで点検して、組み立て直すんだ」という義父の言葉をきっかけに、身近なものを壊し始め...

かんそう

ダラス・バイヤーズクラブ』はもちろんのこと、『カフェ・ド・フロール』『わたしに会うまでの1600キロ』と、ジャン=マルク・ヴァレの作品に裏切られたことがない。しかも主演がジェイク・ギレンホールだなんて。焼肉とお寿司を一緒に食べろと言われている感覚である(すたみな太郎のことではない)。さて本作であるが、西川美和永い言い訳』を彷彿とさせる。「妻の死に悲しみを感じられない男」の再生の物語だからだ。しかし出発点もアプローチも違えば、辿り着く場所も異なる。どちらが好きかなんて比べるものではないけれど、私はデイヴィスに感情移入した。所々わざとらしい演出が鼻につくが、はっとするほど美しく印象的なシーンがいくつもあり、薄氷の上を歩くように揺れ動くジェイク・ギレンホールの繊細な演技が映える。クリス・クーパーナオミ・ワッツの存在が作品に平衡感を生み出す。終盤があっさりしていることに加え、全体に詩的で抽象的な作品なのでややもすれば消化不良を起こしそうだが、反芻することでじわじわと腹落ちするのだ。そして相変わらず、ヴァレの映像と音楽のセンスが素晴らしかった。