銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】たかが世界の終わり

f:id:sal0329:20170507220759p:plain

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’17-8
『たかが世界の終わり』(2016年 カナダ,フランス)

うんちく

2009年の監督デビュー作『マイ・マザー』で世界のカルチャーシーンを騒然とさせたのは弱冠19歳のとき。その後、『わたしはロランス』『Mommy/マミー』など新作を発表するたびに、眩いほどの才能を世界に見せつけてきた若く美しき天才、グザヴィエ・ドラン。待望の最新作は、ジャン=リュック・ラガルスの戯曲『まさに世界の終り』をもとに、愛しているのに傷つけ合う〈ある家族の1日〉を通して、誰もが抱く絶対の孤独を描き出した。ギャスパー・ウリエル、レア・セドゥ、ヴァンサン・カッセルマリオン・コティヤール、ナタリー・バイという、フランスを代表する一流の俳優たちが集結。

あらすじ

劇作家として成功したルイは、自分の死期が近いことを家族に伝えるため、12年振りに帰郷する。母のマルティーヌは息子の好きだった料理をテーブルに並べ、幼い頃に会ったきり兄の顔を覚えていない妹のシュザンヌは慣れないお洒落をして、ルイの到着を待っている。そわそわと浮き足立つ2人とは対照的に、素っ気ない態度の兄アントワーヌ、ルイとは初対面の兄嫁のカトリーヌ。久しぶりの再会に戸惑い、すれ違い、ぎくしゃくする空気。ルイが何かを告白するのを恐れるように、ひたすら続く意味のない会話。兄アントワーヌの苛立ちを引き金に、家族は罵り合い...

かんそう

ただ、凄い映画だった。グザヴィエ・ドランの才能に魅せられてしまったら、もう抗えないのだ。彼の映像世界はいつだって我々を驚喜させ、感情の奥深いところを揺さぶる。12年振りに帰郷したルイを囲みながら、誰一人、ルイの話を聞いていない。いつ打ち明けるのだろうと固唾を飲んで見守るしかなく、結果それが、最後まで絶えることのない緊迫感を生み出すのだ。家族だからこその葛藤と愛憎がせめぎ合い、家族は壮絶に罵り合う。この家族に一体何があったのか、はっきりとしたことはわからない。想像するしかない。でもそれでいいのだ、いつだって言葉は虚しく空を切り、肝心なことは何一つ伝わらない。愛している人に愛していると伝えることは、かくも難しいことなのだ。こんなにも全力で感情をぶつけ合って対話していながら、それぞれが絶対的な孤独の中にいる。すべての人間が平等に背負っているこの哀しき業を、これほどまでに鮮やかに、つぶさに、そして密やかに描くのだ、この美しき天才は。