銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】DOGMAN ドッグマン

映画日誌’24-16:DOGMAN ドッグマン

introduction:

『レオン』のリュック・ベッソンが実際の事件に着想を得て監督・脚本を手がけたバイオレンスアクション。“ドッグマン”と呼ばれるダークヒーローの壮絶な人生を描く。『アンチヴァイラル』『ゲット・アウト』などのケイレブ・ランドリー・ジョーンズが主演を務め、『アルゴ』などのクリストファー・デナムらが共演する。2023年・第80回ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品。(2023年 フランス)

story:

ある夜、一台のトラックが警察に止められる。運転席には負傷した女装した男、荷台には十数匹の犬。“ドッグマン”と呼ばれるその男は、拘留所で自らの半生について語り始める。犬小屋で育てられた男ダグラスは、成長していくなかで恋を経験し、世間になじもうとするも失恋によって深く傷ついていく。犬たちの愛に何度も助けられてきた彼は、生きていくために犬たちとともに犯罪に手を染めるが、「死刑執行人」と呼ばれるギャングに目をつけられてしまう。

review:

「レオンの衝撃から30年」って間のキャリアがなかったことにされているリュック・ベッソンの新作観てきた。ジャン=ジャック・ベネックスレオス・カラックスとともに「恐るべき子供たち」と呼ばれ、ヌーヴェル・ヴァーグ以後のフランス映画界に「新しい波」をもたらしたはずの天才は、2000年代には映像作家としての輝きを失っていったように思う。そういえば広末とすったもんだした『WASABI』ってあったねぇ。2018年頃には性的暴行容疑で告発されたりもして、世の中的には「終わった人」の印象も強い。

そんなリュック・ベッソンが、父親によって犬小屋に監禁されていた少年の実話に触発されて「ドッグマン」というダークヒーローを誕生させ、完全復活を果たした(と言われている)。父親によって犬小屋に放り込まれ、激しい暴力に晒されながら育ち、失恋や裏切りに傷付き絶望しながらも、生きる術を求めて犬たちと共に犯罪にすら手を染めてしまう「ドッグマン」ことダグラス。精神科医との対話を通して、運命に見放された彼の数奇で凄絶な生い立ち、長い苦しみが淡々と回想されていく。

家族や社会に虐げられ、心身ともに満身創痍になりながらも人間性と尊厳を損なわないダグラスの生き様に心を掴まれてしまう。生活苦の果てにドラッグクイーンとして才能を開花させつつ、これが想像を絶するわんこ使いなのである。彼が犬たちと以心伝心だとして、いくらなんでも犬が賢すぎるが、そこはベッソン先生のファンタジーということでいいじゃないか。んな馬鹿なと思うけど、映像の力と面白さのほうが上回って不思議な説得力がある。そして宗教的なモチーフで描かれる意味深なラストシーンが、いっそう物語の寓話性を呼び起こす。

世界を慈しんでいるようでどこか物哀しい、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズのムードがいい。ジェンダーレスな透明感を持ち、神秘的。17歳の時コーエン兄弟の『ノーカントリー』でスクリーンデビューを飾ったらしい。その他『ゲットアウト』『フロリダプロジェクト』『スリービルボード』などちょいちょい出演しておられるんだけど、完全にノーマークだったなぁ。この無二の存在感、今後が楽しみ。どうでもいいけどマリリン・モンローに扮した姿はIKKO氏と空目してフフッてなったよね。まぼろし

trailer: