銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】ノクターナル・アニマルズ

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’17-67
ノクターナル・アニマルズ』(2016年 アメリカ)
 

うんちく

ファッションアイコンとして世界中の注目を集めるトム・フォードが、2009年『シングルマン』から7年振りに手掛けた監督第二作。オースティン・ライトの小説「ミステリ原稿」を大胆なアレンジで映画化したサスペンス。『メッセージ』などのエイミー・アダムスと『ナイトクローラー』などのジェイク・ギレンホールが主演を務め、『ドリーム ホーム 99%を操る男たち』などのマイケル・シャノン、『ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ』などのアーロン・テイラー=ジョンソンらが共演。エイミー演じるスーザンが着用する衣装のほとんどは映画のために製作されたオリジナルデザイン。ヴェネチア国際映画祭審査員グランプリ、アーロン・テイラー=ジョンソンがゴールデングローブ賞助演男優賞を受賞、マイケル・シャノンアカデミー賞助演男優賞にノミネートされた。
 

あらすじ

アートディーラーとして成功を収めているスーザン。夫ハットンと裕福な暮らしを送っていたが、夫婦関係はほころび、心に虚無感を抱えていた。そんなある日、彼女のもとに20年前に離婚した元夫のエドワードから、小説の原稿が送られてくる。「夜の獣たち(ノクターナル・アニマルズ)」と名付けられ、彼女に捧げられたその小説は、暴力的で衝撃的な内容だった。スーザンは不穏なストーリーに不安を覚えながらも、精神的な弱さを軽蔑していたはずの元夫が秘めていた才能を読み取り、再会を望むようになるが…
 

かんそう

鮮烈なインパクトを残す、凄まじい映画。緻密に構図を計算されたのであろう、ひとつひとつのカットが息を呑むほどに端正で美しく、全く飽きることなくそれを眺めていることができる。時代の寵児トム・フォードの美学が細部にまで宿っている。この才能溢れる美しい男が創り出す、誰も観たことのない、狂気じみた愛と復讐の物語。虚構と現実と夢想が複雑に折り重なり、その解釈についてはさまざまな憶測を生むが、美の概念を覆すオープニングがきっと、そのどれもが正しくないことを示唆している。トム・フォードブルジョワの虚無に寄り添うようにしながら、その俗物性と浅ましさを炙り出す。この繊細で美しい悪夢のような物語の登場人物はなぜか、誰1人として美しくないのだ。それなのに心を鷲掴みにされ、その濃密な世界に飲み込まれてしまう。時折ふっと思い出しては、やるせなく甘美な気持ちになる。まごうことなき傑作。
 
「人生の中で私たちがなす選択がもたらす結果と、それを諦めて受け入れてしまうことへの、警告の物語です。すべてが、人間関係すらも、あまりに安易に捨てられる廃棄の文化にあって、この物語は、忠誠、献身、愛を語ります。私たちみなが感じる孤独、私たちを支えてくれる人間関係ををめぐる物語なのです。」──トム・フォード