銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】クライ・マッチョ

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映画日誌’22-01:クライ・マッチョ
 

introduction:

半世紀以上にわたり俳優として活躍しながら、『許されざる者』『ミリオンダラー・ベイビー』で監督として2度のアカデミー賞に輝いたクリント・イーストウッドが監督・主演を務め、N・リチャード・ナッシュの小説を原作に描くヒューマンドラマ。落ちぶれた元カウボーイが、少年とメキシコを横断しながら心を通わせていく。ナッシュと『グラン・トリノ』などのニック・シェンクが脚本を担当し、『ミリオンダラー・ベイビー』などのアルバート・S・ラディらが製作を手掛ける。(2021年 アメリカ)
 

story:

アメリカ、テキサス。ロデオ界のスターとして君臨したマイク・マイロは落馬事故をきっかけに落ちぶれ、家族は離散。競走馬の種付けの仕事をしながら一人で暮らしていた。ある日、マイクは元雇い主から、別れた妻に引き取られてメキシコにいる彼の息子ラフォを連れ戻すよう依頼される。単身メキシコに向かい、親の愛を知らない生意気な不良少年のラフォと出会と出会ったマイクは、アメリカ国境への二人旅を始めるが...
 

review:

2022年の映画初めである。クリント・イーストウッド大先生の新作であり、監督50周年40作目のアニバーサリー作品を心して観る。うむ、マッチョであった。イーストウッド作品にハズレなしと思っていたけど、やや説明くさい台詞、時折わざとらしい演出、荒唐無稽な映画的展開に、あれ・・・?先生、ちとヤキが回った・・・?と思ったのが正直なところ。
 
だが、それでも血が通った物語になるあたり、さすがはイーストウッド先生・・・?全体を通して見れば、優しくて素敵な時間だったのである。馬場VSブッチャーの試合を眺める気持ちで眺めていたという点を差し引いたとしても、温かい気持ちになったのある。オスカーを獲った2作品や『グラン・トリノ』ほどの切れ味がないのは事実だけど、全くの駄作かというとそうとも言い切れない。馬場VSブッチャーの(以下同文)
 
イーストウッド先生演じるマイク・マイロ氏、落ちぶれたとはいえ一世を風靡したカウボーイである。今のうちにカウボーイやっときたかったのかなと邪推するし、原点でもある西部劇に回帰しつつこれまでの集大成とも言える仕上がりだったので、遺作にならないか心配でならない。これが遺作とかダメ絶対。
 
と思うけど、何かとマッチョマッチョうるさいラフォ少年に対して、みんな強さを誇張しすぎだ、と優しく諭すイーストウッド先生、何かとマッチョマッチョさんざん言われてきたイーストウッド先生が世界にむけてかました盛大な”にぎりっ屁”なのではないかという気がしてきた。まあ、だとしたら、これが最後だよって舌を出して笑ってくれていればいいかな。いやダメだろ。
 

trailer:

【映画】キングスマン:ファースト・エージェント

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映画日誌’21-56:キングスマン:ファースト・エージェント
 

introduction:

スタイリッシュな英国紳士が過激なアクションを繰り広げる人気スパイアクション『キングスマン』シリーズの第3弾。第1次世界大戦を背景に、世界最強のスパイ組織「キングスマン」誕生の秘話を描く。監督、脚本、製作はシリーズ全作を手がけるマシュー・ボーン。『シンドラーのリスト』『イングリッシュ・ペイシェント』や『ハリー・ポッター』シリーズでも知られる英国の名優レイフ・ファインズ、『ブルックリンの片隅で』などのハリス・ディキンソン、個性派俳優のリス・エバンスらが出演する。(2021年 アメリカ)
 

story:

表向きは高級紳士服テーラーだが、実体は世界最強のスパイ組織である”キングスマン”。国家に属さないこの秘密結社の最初の任務は、世界大戦を終わらせることだった——1914年。イギリス、ドイツ、ロシアといった大国間の陰謀が渦を巻き、第一次世界大戦勃発の危機が迫ろうとしていた。戦争を回避すべく、世界情勢を裏で操る闇の組織に立ち向かう英国貴族のオックスフォード公と息子コンラッドだったが、ロシアの怪僧ラスプーチンらが立ちはだかり...
 

review:

大ヒットスパイアクション、”キングスマン” の始まりの物語である。ジャンルの異なる映画を3本、ぎゅっと押し込めてダイジェストにしたような濃密さ。取り止めがなく、言い換えればとっ散らかっている。いくらなんでもエピソード盛り込みすぎだろ。が、何と言っても”キングスマン” の始まりの物語だからね、楽しかったし面白かったしね、いいよね。という気分になるから不思議。
 
舞台は20世紀初頭のイギリス。オーランド・オックスフォード公爵はイギリス陸軍大臣キッチナーに請われ、当時イギリス国王だったジョージ5世の相談に乗る。ジョージ5世はいとこである、ドイツ皇帝ヴィルヘルム2世、ロシア皇帝ニコライ2世との関係が悪化し、戦争へと発展しそうなことに頭を悩ませていた。
 
そう、イギリス国王ジョージ5世、ドイツ皇帝ヴィルヘルム2世、ロシア皇帝ニコライ2世の3人はイギリス女王ビクトリアの孫にあたり、いとこ同士。第一次世界大戦は親戚同士でケンカしていたというわけである。特に母親が姉妹であるジョージ5世とニコライ2世は見分けがつかないほど容姿が似ていたと言われ、今作ではトム・ホランダーが一人三役で演じており、ちょっとした見どころとなっている。
 
イギリス陸軍大臣キッチナーは実在の人物であり、また、第一次世界大戦のきっかけとなった「サラエボ事件」の主犯格ガブリロ・プリンツィプ、ドイツとフランスの二重スパイとして暗躍し高級娼婦でもあったマタ・ハリらが登場。史実に基づいたエピソードに ”キングスマン” 誕生秘話を絡めていくストーリーテリング、歴史好きにはたまらない内容に仕上がっている。
 
オックスフォード公爵の息子コンラッドが父の反対を押し切って陸軍に入隊するのだが、『ハクソー・リッジ』か『1917 命をかけた伝令』かよと思うほど生々しい前線の様子が描かれる。あまりにもシリアスな展開に、さっきまでとはちがう映画観てるような気分になる。おかしい、さっきまでラスプーチンで笑ってたのに・・・!
 
というか、記憶のほとんどがラスプーチン。実在の人物で、シベリア貧農の出身ながら、ロシア皇帝と皇后の絶大な信頼を得て宮廷で影響力を持ち、ロシア帝国の崩壊を招いたとされる怪僧である。胡散臭い異様な容姿と、ロマノフ家にうまく取り入ったことで貴族たちの嫉妬を買い、たいそう嫌われていたらしい。しかしその一方で、圧倒的な精力と立派なイチモツで貴婦人方の熱狂的な信仰を集めていたという。13インチ(33センチ)ですってよ奥さん。
 
この強烈なキャラクターを体現したリス・エバンス最高だったし、コサックダンスから殺人技を繰り出す戦闘シーンも最高だった。ラスプーチンが辿る運命もほぼ歴史で伝えられている通り、というのも憎い。てかこれ、史実なんかい!という驚きもひっくるめて面白かった。所々思いっきりCGですやん・・・という仕上がりと多少の中弛みは片目をつぶるとして、大胆なカメラワークもキレッキレでこれぞ ”キングスマン” 。高所恐怖症の方は覚悟して観るがよろし。
 

trailer:

【映画】ダンサー・イン・ザ・ダーク 4Kデジタルリマスター版

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映画日誌’21-55:ダンサー・イン・ザ・ダーク 4Kデジタルリマスター版
 

introduction:

デンマークの鬼才ラース・フォン・トリアー監督がアイスランドの歌姫ビョークを主演に迎え、チェコ移民のシングルマザーが過酷な運命に翻弄されながらも、息子のために全てを投げ打つ姿を描いた人間ドラマ。カトリーヌ・ドヌーヴらが共演する。カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールと主演女優賞に輝いたほか、第73回アカデミー賞主題歌賞ノミネート、第58回ゴールデングローブ賞最優秀主演女優賞および最優秀主題歌賞にもノミネート果たした。2021年12月、4Kデジタルリマスター版でリバイバル公開。(2000年 デンマーク)
 

story:

アメリカの片田舎。チェコ移民のセルマは女手一つで息子ジーンを育てながら、工場で働いている。 セルマを見守る年上の親友キャシー、何かと息子の面倒を見てくれる隣人であり大家でもあるビルとその妻リンダ、セルマに想いを寄せるジェフ。周囲の友情に支えられながら慎ましくも幸せな日々を暮らしていたが、セルマには誰にも言えない悲しい秘密があった。遺伝生の病で視力を失いつつあり、手術を受けない限り息子ジーンも同じ運命を辿ることになるのだ。愛する息子に手術を受けさせるため、懸命に働くセルマ。しかしある日、コツコツ貯めた手術代が盗まれてしまい...
 

review:

21世紀初頭、世界中を激しく鬱にした問題作が4Kデジタルリマスター版で帰ってきたよ・・・。あかんやつが帰ってきたよ・・・。劇場で予告編を観て動揺し、観るか観るまいか迷いに迷った。一度観たことがある人ならば、この葛藤の意味がわかるだろう。生涯忘れることが出来ない作品だけど、もう一度対峙するには勇気がいる。
 
しかし2022年6月に国内上映権が終了するため、今回が最後の劇場ロードショーとなるとのこと。ぐぬぬ、劇場のスクリーンで観たければ今回がんばるしかないのか。というわけで、意を決して生涯2度目のセルマを観てしまったよ。ぐおー、手持ちカメラの映像がゆらゆら揺れて酔う!生々しくて、まるでその場に居合わせているみたいじゃないか。
 
改めて観ると、ああ、こんな物語だったのかと驚く。あまりにも衝撃的だったからか、ショックで記憶をなくしていたらしい。記憶違いもあり、全く記憶にない人物もいた。隣人の警察官、こんなテリーマンみたいな顔だったっけ。極悪人みたいに思ってたけどそんなに悪い人じゃないし、自分も歳を取ったせいか、追い詰められてしまう気持ちが分からんでもない。
 
展開を知っていて冷静に受け止められる分、細部がよく見えて登場人物のひとりひとりに感情移入してしまう。セルマの中にも、テリーマンの中にも、キャシーの中にも、自分の片鱗を見つける。そして展開を知ってるだけに、セルマ歌ってる場合ちゃう!!ってヤキモキするけど、周囲の人々がセルマにとても優しく寄り添っているのが伝わってきて、余計に胸をえぐられる。エグい。どんだけエグいんだ、この映画。
 
母親失格だとか身勝手だとか、はたまたセルマは知能が足りないだとかお門違いなアンチコメントも散見するが、それはこの作品の存在意義そのものをミスリードしている。トリアー監督は、母の無償の愛を描いて人々を感動させようなんて思ってない。トリアー作品『奇跡の海』のベスも同様だが、あのあり得ないほど純粋な直向きさは、トリアー監督のファンタジーであり、メタファーなのだろうと考える。
 
無垢であるほどにわがままで、無垢な魂ほど蹂躙される、この世界なのだ。だから我々は深く絶望し、自分もその世界の一部であることを突きつけられて憂鬱になるのだ。泣いた。嗚咽が漏れるほど、頭が痛くなるほどに泣いた。本当に酷い映画だ。どうしたらこんな酷い映画が創れるんだ。しかし私は、この作品のことを生涯忘れないだろう。
 

trailer:

【映画】ダーク・アンド・ウィケッド

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映画日誌’21-54:ダーク・アンド・ウィケッド
 

introduction:

父の最期を看取るため農場を営む生家に帰郷した姉弟を襲う怪異を描いたホラー。監督は『ストレンジャーズ/戦慄の訪問者』『ザ・モンスター』などのブライアン・ベルティノ。『アイリッシュマン』『最後の追跡』などのマリン・アイルランドと、『ディック・ロングはなぜ死んだのか?』のマイケル・アボット・Jrが主演する。シッチェス・カタロニア国際映画祭2020で最優秀女優賞と撮影賞を受賞した。(2020年 アメリカ)
 

story:

農場を営むテキサスの実家からそれぞれ離れて暮らしているルイーズとマイケルの姉弟は、父の病状が悪化したとの報せを聞き、久々に故郷を訪れる。父は母に見守られながらひっそりと最期を迎えようとしていた。ところが母は「来るなと言ったのに」と彼らを突き放し、二人は両親の要数がおかしいことに気付く。その夜、母は自ら首を吊って死亡。やがて姉弟は、想像を絶する恐怖に晒されていくことになる。
 

review:

観るか観るまいか散々迷って、観て後悔した。一言で言うと地味なB級ホラー。恐くないB級ホラーは笑えてナンボだが、しかし、笑えるところはない。お母ちゃんがキッチンで自分の指を包丁でズタズタにするのはびっくりしたけど、人間には骨というものがあってだな。ゴア描写にリアリティがない。終始不穏な雰囲気を醸し出すだけで冗長。まったりしたテンポで意味不明な描写が続くと、当たり前だけど睡魔が襲ってくるよ・・・羊が一匹・・・・羊が二匹・・・・・・画面のあれはヤギ・・・・・・・
 
って油断してると突然ジャンプスケアでビックリさせちゃうぜ!というホラー映画のお手本みたいな作品だが、ストーリーや演出に斬新な何かがあるわけでもない。キリスト教の知識が必要って書いてる人も見かけたけど、もう、それ以前の問題じゃない?って思ったりもする。が、確かに、十字架や讃美歌や信心深さが全く役に立たず、心の拠り所である聖職者の姿を借りて”邪悪なもの”が目の前に現れたら、キリスト教圏の皆さんには恐怖かもしれないなぁ。
 
何か禍々しいものに魅入られてしまっても寺社仏閣に駆け込めば何とかなる!と思ってる日本にお住まいの皆さんに例えると、力のある神主さんやお坊さんに「邪悪すぎて私たちの手に負えない」って言われて門前払いされる話はよく(?)聞くが、それどころか、彼らの姿をして家に来るのである。こええー。そんなのもうおしまいだろ・・・。自分の感覚に置き換えてみると、まあ、分からんでもないという気がしてくるが、それにしても恐くない。ルイーズとマイケルの姉弟が悪魔と対峙してるのを尻目に、睡魔と闘う映画であった。
 

trailer:

【映画】ラストナイト・イン・ソーホー

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映画日誌’21-53:ラストナイト・イン・ソーホー
 

introduction:

ベイビー・ドライバー』のエドガー・ライト監督によるタイムリープ・サイコホラー。ロンドン・ソーホー地区の異なる時代を生きる二人の女性の人生がシンクロし、不思議な出来事が起こり始める。主演は『ジョジョ・ラビット』『オールド』などのトーマシン・マッケンジーNetflixドラマ「クイーンズ・ギャンビット」などのアニャ・テイラー=ジョイの他、『コレクター』などのテレンス・スタンプ、『女王陛下の007』などのダイアナ・リグらイギリスを代表する俳優たちが共演する。(2021年 イギリス)
 

story:

ファッションデザイナーを夢見るエロイーズは、ロンドン・ソーホー地区にあるデザイン学校に入学する。しかし同級生たちとの寮生活に馴染めず、一人暮らしを始めることに。新居で眠りにつくと、夢の中で1960年代のソーホーで歌手を夢見る魅惑的なサンディと出会い、次第に肉体も感覚も彼女とシンクロするようになってしまう。やがてそれは現実世界にも影響を与えるようになり、充実した毎日を送れるようになったエロイーズだったが、ある夜、夢の中でサンディが殺されるところを目撃してしまう。その日を境に謎の亡霊が現れ始め、エロイーズは徐々に精神を蝕まれていくが...
 
review:
スウィンギング・ロンドン。1960年代に一世を風靡した、ファッション、音楽、映画、建築などにおけるロンドン発のストリートカルチャーのことである。ミニスカートやサイケデリック・アート、カーナビー・ストリート、ビートルズ、ツィギー、ヴィダル・サスーン、マリー・クワント。イギリス若者文化の黄金時代、そしてロンドンが活気に溢れていた時代。間違いなく、世界のポップカルチャーの中心だったのだ。
 
イギリス・ロンドンのシティ・オブ・ウェストミンスターに位置するソーホー地区は、「スウィンギング・ロンドン」の中心地であり、輝かしいショービズ界の中心でもあり、ストリップクラブや売春宿などが軒を連ねる歓楽街でもあった。20世紀初頭には移民が安価な飲食店を出すようになり、1930年代から1960年代初期にかけては、ソーホーのパブは毎晩、酔っ払いの作家や詩人、芸術家であふれていたという。裏通りには娼婦やペテン師など怪しい人々が集い、ありとあらゆる不道徳が蔓延る  ”悪の巣窟” だった。
 
エドガー・ライト監督は、1960年代のソーホーと現代をリンクさせ、”輝かしい”時代への憧れとともに、その裏で虐げられてきた女性たちの存在を炙り出した。スポットライトを浴びたければ男性好みの曲を歌わされ、慰みものにされ、屈辱に晒される。男は全部爆発したらいいよね的な、闇に葬り去られてきた女性たちの怨念が謳われている。全然怖くないので無意識だったけど、一応ホラー。サイコスリラーみたいな雰囲気もある。面白さもあったし悪くもないが、身も蓋もないこと言うと、別に観なくても良かったなぁ・・・。
 
設定とテーマはともかく、ホラーとしてはイマイチだし、ファンタジーとしても人間ドラマとしてもどこか中途半端だし、映像が抜群にスタイリッシュな訳でもないし、ラストの展開は凡庸で陳腐だし、ていうか、ママがそこに存在し続ける意味は何なんだ。ああ、『ベイビー・ドライバー』で期待度上げすぎた。ライトくん、君何でこの映画作ったんや。何が言いたかったんや。って小一時間くらい詰め寄りたい。スウィンギング・ロンドンのおしゃれ感だとか、『ベイビー・ドライバー』のグルーヴ感に誘われて観ちゃった人、もげるほど首を捻ったに違いない。
 

trailer:

【映画】ローラとふたりの兄

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映画日誌’21-52:ローラとふたりの兄
 

introduction:

さまざまな問題を抱えてぶつかり合いながらも支え合う、3人兄妹の日常を描いたヒューマンコメディ。監督は『愛しき人生のつくりかた』などのジャン=ポール・ルーヴ。『セラヴィ!』などで俳優としても活躍し、本作にも出演している。主演は『8人の女たち』のリュディビーヌ・サニエ。『ボン・ボヤージュ 家族旅行は大暴走』のジョゼ・ガルシアの他、ラムジー・ベディア、ポーリーヌ・クレマンらが共演する。(2018年 フランス)
 

story:

フランス西部の都市・アングレーム。弁護士のローラにはちょっと困った2人の兄がいる。ロマンチストで神経質な眼鏡士ブノワと、職人気質で不器用な解体業者ピエールだ。彼らは毎月一度亡くなった両親の墓前に集まることが習慣だが、兄ブノアの結婚式に大遅刻をしてきたピエールの失礼なスピーチが原因で兄弟喧嘩が勃発。そんな中、離婚調停の依頼人だったゾエールと恋に落ちたローラは、病院で予想だにしない診察結果を受け取り...
 

review:

二人の兄と末っ子の妹が繰り広げる兄弟愛の物語だ。しっかり者の末妹ローラ、いい雰囲気になった依頼人とのランチデートで「君の弱点は?」と聞かれて「兄が二人いること」と答える。どうやら仲の良い兄妹なのだが、長兄ブノワの結婚式をきっかけに始まった兄弟喧嘩はこじれ、それでも月イチ両親のお墓参りには律儀に顔を揃え、お墓の前で口論する。いつも近くで墓参りしている老人から「君たちは喧嘩するために墓に来ているのか?」とツッコミが入るほど。
 
解体業者のピエールは仕事でシリアスな問題を抱え、息子の名門校留学にも暗雲が立ち込める。眼鏡士のブノワは新婚早々妻とすれ違い、別居問題へと発展する。ローラは幸せな恋に落ちたはずが、体調不良でかかった医者から思いがけない診断を受けてしまう。それぞれが問題と葛藤を抱え、些細なことでぶつかり合い、すれ違い、兄弟だからこそ肝心なことは言い出せない。そんな家族の機微を映し出し、観る者は自分ごとのように引き込まれてしまう。
 
たまにはフランスの軽いコメディでも観ようとそれほど期待せずに観たが、脚本がよく練られており、思いがけず奥行きがあって面白かった。ドラマチックな展開や派手な盛り上がりはないが、二人の兄と末っ子の妹をとりまく人々の日常をつぶさに、ユーモラスに描く。それぞれの人生の転機を通してプチ・ブル(中産階級)の実生活、フランス社会の明暗をも浮き彫りにし、繊細で味わい深い人生ドラマに仕上がっている。
 
ラストシーンは少々あざとさを感じたが、暖かい気持ちになった。私も3人兄弟だ。仲が良い分、どうでもいい痴話喧嘩もたくさんしてきた。でも、仕事がツラくて独りで生きてるのがしんどかった時、姉に「仕事やめたら転がり込んでいい?」って泣き付いたら即答で「いいよ」と言ってくれた。結果転がり込んだりはしてないが、その言葉にとても救われた。兄弟とは有難い存在である。兄弟の絆、家族のかたちはそれぞれ。血が繋がっていてもいなくても家族は家族。要するに、ほのぼのする映画は良い映画。
 

trailer:

【映画】悪なき殺人

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映画日誌’21-51:悪なき殺人
 

introduction:

『ハリー、見知らぬ友人』『マンク ~破戒僧~』などの鬼才ドミニク・モルが、ある女性の失踪事件を軸につながっていく5人の男女の物語を描いたサスペンス。『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』などのドゥニ・メノーシェ、『パパは奮闘中!』などのロール・カラミー、『レ・ミゼラブル』などのダミアン・ボナールのほか、ナディア・テレスキウィッツらが出演する。カンヌ国際映画祭では、脚本賞助演女優賞にノミネートされ、東京国際映画祭で観客賞と最優秀女優賞を獲得している。(2019年 フランス,ドイツ)
 

story:

フランスの山間にある寒村で、吹雪の夜、一人の女性が失踪し殺害された。事件の犯人として疑われたのは、農夫のジョセフ、彼と不倫関係にあったアリス、彼女の夫ミシェル。レストランで偶然出逢ったマリオンとエヴリーヌ、そして遠く離れたアフリカのコートジボワールで詐欺を行うアルマン。それぞれに秘密を抱えた男女の関係がひとつの殺人事件を介して絡まり合い、次第に事実が明らかになっていく。
 

review:

ドミニク・モルの作品は初めて観たけれど、秀逸なミステリーでかなり面白かった。サスペンスだが、重層的な人間ドラマでもある。農夫ジョセフと不倫しているアリス、妻アリスに隠れてネット恋愛するミシェル・・・みんな秘密を隠している。後ろめたさを抱えた孤独な人々が、報われることのない「愛」を必死に追い求める姿、滑稽で愚かな人間のどうしようもなさが、どこかユーモラスに描かれる。
 
本作は5つの「愛」の物語で構成しています。誤解や秘密、妄想、失望、幻滅から生じたフラストレーションの溜まった非対称の愛の物語です。どのキャラクターも愛したい、そして愛されたいという衝動にかられて行動しています。愛を求め、愛を信じ、愛を分かち合い、愛に生きる。それを叶えたくて彼らはみな理想を想像し、その想像が彼らを動かします。それが良い方向に転じる場合もあれば、悪い方向に転じることもあるのです。——ドミニク・モル
 
人間は「偶然」には絶対に勝てない——人々の思惑が交錯し、偶然が連鎖し、予期せぬ事態を引き起こしていく。行き場のない、報われない愛が絡まり合う男女、数えてみたところ、8人。そのうち、アリス、ジョセフ、マリオン、アマンディーヌ、それぞれの視点で物語が紡がれる。ひとつの事象を複数の視点で描くこの手法は、黒澤明の『羅生門』が始まりとされ「ラショーモン・アプローチ」と呼ばれている。って『最後の決闘裁判』でも書いたな。
 
全く予想しない、怒涛の展開に圧倒される。固唾を呑んでその顛末を見守る。視点が変わるごとに、絡まり合った糸が少しずつ解きほぐされ、散りばめられた伏線がすべて回収されていく。螺旋を描いて、パズルのピースが埋まっていくカタルシスに酔う。何を書いてもネタバレになるのでこの辺りで切り上げるが、見事なストーリーテリングであった。何の予備知識もなく、鑑賞することをおすすめする。
 
原作を読み、このユニークな設定をすぐ映画化したいと思いました。 物語は猛吹雪の夜に行方不明になったある女性の謎の失踪事件を軸に、それぞれ秘密を抱えた5人のキャラクターを中心にした5つのストーリーが展開していきます。いかにそれぞれが絡み合い、補い合い、かつ、矛盾しているか。彼らがどう紐づいていて、失踪事件の真相は一体何なのか、この謎めいた世界観に、読んでいて好奇心がどんどん掻き立てられました。原作を3分の2以降で、物語の舞台が雪で覆われたフランスの山間の町から、突如、灼熱のアフリカに移り、驚かされました。私たちにとって物語の中心は、失踪事件の真相解明ではなく、登場人物たちと、彼らが取ってきた行動を通して彼らがそれぞれどんな夢を抱き、どんな世界に生きているかを描くことにあるのです。——ドミニク・モル
 

trailer: