銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】The NET 網に囚われた男

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劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’17-2
『The NET 網に囚われた男』(2016年 韓国)

うんちく

『嘆きのピエタ』『メビウス』などで知られる韓国の鬼才、キム・ギドクが描く社会派ヒューマンドラマ。朝鮮半島の南北分断をテーマに脚本・製作を担当した『プンサンケ』『レッド・ファミリー』を経て、ギドク自らメガホンを取り、事故で北朝鮮と韓国の国境を越えたために理不尽な運命にさらされる漁師の姿を追う。主演はアクション俳優としても評価の高い個性派俳優リュ・スンボム。注目の若手俳優イ・ウォングンのほか、『殺されたミンジュ』のキム・ヨンミン、『メビウス』のイ・ウヌが脇を固める。

あらすじ

北朝鮮で妻子とともに貧しくも平穏な毎日を送っていた漁師ナム・チョル。ある朝、唯一の財産である小さなモーターボートで漁に出るが、魚網がエンジンに絡まり故障してしまい、意に反して韓国側へ流されてしまう。韓国警察に拘束され彼は、スパイ容疑で執拗で残忍な尋問を受けることに。一方、チョルの監視役を務めていた警護官のオ・ジヌは、彼の家族への思いを知り、次第に潔白を信じるようになる。韓国への亡命を強要されたチョルは妻子の元に帰りたい一心で北への帰還を訴え続け、ジヌもそんな彼を擁護しようとするが...

かんそう

キム・ギドクの作品は、肉体的にも精神的にもグロテスクな描写が特徴だ。『嘆きのピエタ』『メビウス』などはその最たるもので、どれだけ後味の悪い思いをしただろう。しかし今作においては「肉体的な」残虐表現を限りなく封印することで、描くべきテーマにまつわる「精神性」をくっきりと映し出している。不自由な独裁国家の平穏な暮らし、繁栄と抱き合わせの不公平さが蔓延する自由主義国家。果たしてどちらが幸せなのか、正しさとは何か。家族との幸せな暮らしだけを望む罪無き市井の人が、国家間の思惑に翻弄され身も心も蝕まれてしまう様子をキム・キドクの鋭くシニカルな視点で描き、幸福や善悪に対する価値観を激しく揺さぶられる。凄まじい映画。


「我々は知ることだろう。分断された朝鮮半島によって、犠牲を強いられている我々のあり様を。そして、分断がもたらす大いなる悲哀を。」ーキム・ギドク