銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】シック・オブ・マイセルフ

映画日誌’23-46:シック・オブ・マイセルフ

 

introduction:

強烈な承認欲求に取り憑かれた女性の破滅的な自己愛を、シニカルにそして極端なまでにコミカルに映し出した異色の寓話的ホラー。本作が長編第2作となる新鋭クリストファー・ボルグリが監督、脚本を手掛け、『ホロコーストの罪人』のクリスティン・クヤトゥ・ソープが主演を務める。2022年カンヌ国際映画祭「ある視点」部門出品。(2022年 ノルウェースウェーデンデンマーク・フランス合作)

 

story:

ノルウェーの首都オスロ。人生に行き詰まり、何者にもなれないカフェ店員のシグネは、長年にわたり競争関係にあった恋人トーマスがアーティストとして脚光を浴びたことで激しい嫉妬心と焦燥感に駆られる。彼女は自身が注目される「自分らしさ」を手に入れるため、ある違法薬物に手を出してしまう。思惑通り薬の副作用で入院することになり、恋人からの関心を勝ち取ったシグネだったが、その欲望はさらにエスカレートしていき…..

 

review:

一言で言うと、胸糞悪い系である。愛されなかった子どもの悲劇、いわゆる「ミュンヒハウゼン症候(自らに負わせる作為症)」に陥った女性の顛末だ。「自らに負わせる作為症」とは虚偽性障害に分類される精神疾患の一種。症例として周囲の関心や同情を引くために病気を装ったり、自らの体を傷付けたりするといった行動が見られる、とのこと。名前の由来は「ほら吹き男爵」の異名を持ったドイツ貴族、ミュンヒハウゼン男爵だ。

そんな人いるの?って思う人もいるかもしれないが、身近に似たような人がいる場合は、既視感満載だろう。自分が特別扱いをされるために多少話を盛ったり、周囲の注目を集めるため小さな嘘をついたり、なんていうのは厨二病を拗らせている時期にありがち。大抵はそんなことをしていると信用を失うことに気付いて成長とともに補正されていくが、境界性や自己愛性のパーソナリティ障害を抱えている人はそのまま承認欲求を拗らせていったりする。

どこにでもいるカフェ店員のシグネが、新進気鋭のアーティストとして注目を浴びていく恋人トーマスに嫉妬し、承認欲求モンスターと化していく様子が描かれる。息を吐くように嘘をつき、トーマスが主役の席で自分に注目を集めるためアレルギーを装って騒ぎを起こし、終いにはロシア製の薬物で皮膚疾患を装い、その行動はエスカレートしていく。何で別れないんだろうと思うんだが、結局トーマスも注目を集めるために手を汚すタイプだし、とってもお似合いなんだよなぁ。

それなりに面白かったけど、展開に意外性は少なく、結末もやや生ぬるいので、もう少しインパクトが欲しかったというのが正直な感想。ただ、承認欲求をこじらせている人にありがちな認知の歪みなんかはうまく描いていると思うし、願望まじりの妄想や夢が混然としていく様は、シグネの倒錯した精神状態を体感させられて嫌。とても嫌。不愉快。何なのこの人・・・。

相変わらずの遅筆でこれを書いている現在、軒並み劇場公開は終わっているが、怖いもの見たさで配信で鑑賞するくらいで丁度良いのかも。なお、公式サイトによると「脚本・監督を務めたクリストファー・ボルグリは、早くも次回作『DREAM SCENARIO』がA24製作×『ミッドサマー』のアリ・アスターによるプロデュースで話題を呼ぶ今後注目の新鋭」だそう。次回作も観てみようかな、という気にさせるくらいの魅力はあった。

 

trailer: