劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’19-41
うんちく
『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』『スイス・アーミーマン』などで知られる演技派俳優ポール・ダノが監督を務め、ピューリッァー賞作家リチャード・フォードが1990年に発表した「WILDLIFE」を映画化。『ルビー・スパークス』で共演したパートナーのゾーイ・カザンと共同で脚本・製作も手がけ、幸せな家庭が崩壊していくさまを、14歳の息子の視点を通して描く。ブロークバック・マウンテン』『ナイトクローラー』などのジェイク・ギレンホール、『わたしを離さないで』『ドライヴ』などのキャリー・マリガン、『ヴィジット』などのエド・オクセンボールドが出演。
あらすじ
1960年代、カナダとの国境にほど近いモンタナ州の田舎町。14歳のジョーは、ゴルフ場で働く父ジェリーと、家庭を守る母ジャネットのもとで幸せに暮らしていた。ところがある日、突然ゴルフ場の仕事を解雇されてしまったジュリーが、家族を養うため、山火事を食い止める危険な出稼ぎ仕事に旅立ってしまう。残された2人もそれぞれ働くことを余儀なくされ、ジャネットはスイミングプール、ジョーは写真館でのアルバイトを見つける。しかし生活が安定するはずもなく、やがて優しかった母が不安と孤独に苛まれ、生きるために形振り構わなくなっていく姿を目の当たりにしたジョーは...
かんそう
ポール・ダノとの最初の接点は、珠玉の名作『リトル・ミス・サンシャイン』だ。テストパイロットになるためにアメリカ空軍士官学校に入るという夢を実現させるまでに「沈黙の誓い」を立てている不幸な15歳を演じ、クセの強い独特の存在感で強烈な印象を残した。その後も『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』『プリズナーズ』『スイス・アーミーマン』など、ポール・トーマス・アンダーソン、ドゥニ・ヴィルヌーヴら鬼才とのコラボレーションを重ねてきた個性派俳優である。彼が出演しているだけで、何となくその作品を観てみようかなと思うくらいには注目している。そんなポール・ダノがジェイク・ギレンホールとキャリー・マリガンをキャスティングして映画を撮ると言われれば、観るしかないだろう。それにしても初監督作品にしてこのクオリティとは流石である。「いつの日か映画を作る時は、きっと、家族についての映画を撮るだろうと思っていた」と語るダノの、研ぎ澄まされた感性、この世界を優しく、深く見つめる眼差しで丁寧に紡がれる、父と母、息子の変わりゆく家族のかたち。切ない余韻を残すラストシーンは、実に彼らしくもあり、見事である。ちなみにダノが製作・主演を務めた『ルビー・スパークス』で共演、本作では脚本を共同執筆し、プラベートのパートナーでもあるゾーイ・カザンは、名匠エリア・カザン監督の孫。今後も2人のコラボレーションで生み出されるものに注目していきたい。
——『ワイルドライフ』は、両親が変化し、夫婦が崩壊していく姿を見つめる息子の目を通して描かれていきます。両親の関係性は崩れていきますが、彼は成長しなくてはならない。母親、父親、そして息子。この3人全員が大人になっていく物語です。苦悩し、傷つき、幻滅するけれど、愛に導かれた映画でもあります。(ポール・ダノ)