銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】皮膚を売った男


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映画日誌’21-47:皮膚を売った男
 

introduction:

チュニジアのカウテール・ベン・ハニア監督が、芸術家ヴィム・デルボア氏が2006年に発表した作品「TIM」に影響を受け、オリジナル脚本を書き上げた人間ドラマ。自由を求めて自らがアート作品となる契約を交わした男の運命を描く。普段はシリアで弁護士をしているヤヤ・マヘイニが映画初出演で主演を勤めたほか、『オン・ザ・ミルキー・ロード』などのモニカ・ベルッチ、『Uボート:235 潜水艦強奪作戦』などのケーン・デ・ボーウらが出演する。第93回アカデミー賞国際長編映画賞ノミネート、第77回ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門男優賞受賞。(2020年 チュニジア,フランス,ベルギー,スウェーデン,ドイツ,カタール,サウジアラビア)
 

story:

内戦の続くシリアから脱出し難民となったサムは、偶然出会った芸術家から驚くべき提案をされる。それは、大金と自由を手に入れる代わりに、背中にタトゥーを施し彼自身が「アート作品」になることだった。美術館に展示されれば世界を自由に行き来できるようになり、サムは離れ離れになっていた恋人に会いにいくためそのオファーを受け入れる。世界中の注目を集め、高額で取引される身となったサムだったが、やがで精神的に追い詰められていき...。
 

review:

本作はベルギーのネオ・コンセプチャル・アーティスト、ヴィム・デルボア氏が2006年に発表した作品「TIM」に影響を受けている。「作品」となったティム・ステイナー氏は、年に何度か展覧会に「出展」される。また、2008年に個人のアートコレクターに購入されており、彼の死後はタトゥー部分を額装しアート作品として提供する契約を結んでいるそうだ。
 
シリア難民の男性が離れ離れになった恋人に会うため、自らアート作品となることで「自由に」外国を行き来できる権利を手に入れる。プロットはとても興味深いのに、如何せん映画のつくりが全体的に雑。そしてサムとアビールの関係が腑に落ちない。文化の違いなのか、生き抜くためにはそうするしかなかったのかもしれないが、互いをかけがえなく思い合っているようには見えないし、二人の絆も感じられず脚本に説得力がない。
 
その上、どの役者も下手でやや興醒める。納得づくで契約してるはずなのに自分の役割をきちんと果たそうとせず、何かと自我を出し、挑発的な態度のサムにイライラさせられる。サムに振り回されてるこの金髪の派手なおばちゃん気の毒と思ってたら、イタリアの至宝モニカ・ベルッチやないかいー!いつかのボンドガールが全然美しく映ってないのもギルティ。
 
ただ、人間の自由、尊厳とはなにかということを唸るほど考えさせられた。そういう意味では見応えがあった。シリア国外に脱出したサムが働くヒヨコの工場は、支配され運命を自分で決められない人間のメタファーだろうか。自らの肉体と引き換えに手に入れたはずの自由は幻想にすぎず、もっと不自由な身の上になってしまう。そして塀の中に舞い戻ることで自由になる皮肉。
 
恵まれた人と呪われた人とで交わされる契約を通して、難民問題をめぐる偽善や現代アートにはびこる知的欺瞞を描いているものの、風刺と呼ぶには中途半端で社会派ドラマとは呼べるものではない。が、理不尽な世界をシニカルに描き、エンターテイメントとしては面白さがあった。
 

trailer: