銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】WAVES/ウェイブス

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映画日誌’20-23:WAVES/ウェイブス
 

introduction:

名匠テレンス・マリックの元で腕を磨いてきた、『イット・カムズ・アット・ナイト』などのトレイ・エドワード・シュルツが監督・脚本を務めたドラマ。制作は『ムーンライト』、『レディ・バード』、『ミッドサマー』など、次々と話題作を発表する気鋭の映画スタジオ”A24”。『イット・カムズ・アット・ナイト』に続きシュルツ監督とタッグを組むケルヴィン・ハリソン・Jrが主演を務め、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』『ベン・イズ・バック』などのルーカス・ヘッジズNetflix「ロスト・イン・スペース」で注目を集めたテイラー・ラッセルらが共演する。(2019年 アメリカ)
 

story:

フロリダで高校生活を送るタイラーは、成績優秀なレスリング部のエリート選手で、美しい恋人アレクシスもいる。厳格な父親ロナルドとの間に距離を感じながらも、恵まれた家庭に育ち、何不自由ない日々を暮らしていた。そんなある日、肩の負傷により医者から選手生命の危機を告げられる。そして追い討ちをかけるように、恋人の妊娠が判明。人生の歯車が狂い始めた彼は自分を見失い、やがて家族の運命を帰る悲劇が起こってしまう。一年後、心を閉ざして過ごす妹のエミリーの前に、すべての事情を知りつつ好意を寄せるルームが現れ...
 

review:

一言で言うと”A24っぽい”し、なるほど、テレンス・マリックのもとで修行を積んだ人っぽい。悪くないんだけど、嫌いじゃないけど、心が震えるような映画体験ではなかった。場面によって、画面サイズがシネスコ、ビスタ、スタンダードと切り替わる。360度回転したり、独創的なカメラワークだったように思うが、とにかく音楽や映像がガチャガチャしているのだ。
 
「超豪華アーティストによる今の時代を映す名曲の数々。ミュージカルを超えた<プレイリスト・ムービー>の誕生。」との触れ込みで、フランク・オーシャン、ケンドリック・ラマー、H.E.R.、チャンス・ザ・ラッパー、カニエ・ウェスト、SZA、レディオヘッドエイミー・ワインハウスなど、今の音楽シーンを牽引するアーティストたちの31曲が挿入される。シュルツ監督が作成したプレイリストをもとに脚本を着想し、製作されたんだそうだ。
 
ある意味ミュージカルのような、と監督は語っているが、これが不思議なほどに、音楽に陶酔できない映画なのだ。私だけだろうか。演出とは言え、音が割れるほどの大音量では楽曲を楽しめるわけもなく。H.E.R.の”Focus”も、あの美しい旋律が台無しだったし、音楽と映像の美しさを楽しもうと期待していた分、いささか残念であった。
 
兄、妹のパートに切り分けられた構成も、きっと良さもあるのだろうが、過去と未来を行き来させるか、妹と兄の思いが交錯するような演出のほうが感情移入したような気がする。なぜなら、妹とその恋人の物語には共鳴したけど、どこか幼稚な兄とその恋人には何にひとつ共感しなかったからである。題材やプロットは悪くないのに、構成次第で深みや奥行きが出ていないのだ。家族の再生の物語だが、親子の絆どころか兄妹の絆すら、伝わってこないのも残念だ。
 
そんで、この子たち、やたらと走ってる車から顔や足を出すの。『へレディタリー/継承』を思い出すからやーめーてーーーー。と言うわけで、どこか吸引力に欠ける作品ではあったが、実験的な、という意味では、実に”A24らしい”作品だったように思う。A24の看板背負ってるだけで、エッジが効いててアーティスティックでおもしろいんじゃないかって気になってくるけどな。

trailer: