銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】バービー

映画日誌’23-36:バービー

 

introduction:

ドールの世界に革命を起こし、世界中で愛され続ける「バービー」を、『レディ・バード』『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』のグレタ・ガーウィグが映画化。グレタ・ガーウィグノア・バームバックが共同で脚本を手掛ける。マーゴット・ロビーが主演を務め、ライアン・ゴズリングアメリカ・フェレーラらが共演。公開からわずか17日で累計興行収入が10億ドルを突破し、記録的大ヒットとなっている。(2023年 アメリカ)

 

story:

すべてが完璧で今日も明日も明後日も夢のような毎日が続く「バービーランド」。住民の誰もが「バービー」であり、誰もが「ケン」と呼ばれる世界で、おしゃれが大好きなバービーは、ボーイフレンドのケンとともに完璧でハッピーな毎日を過ごしていた。そんなある日、彼女の身体に異変が起こる。困ったバービーはその原因を探るため、ケンとともに人間の世界へと旅に出る。しかしロサンゼルスに辿り着いた彼らを待ち受けていたのは、完璧とは程遠い人間の世界だった。

 

review:

レディ・バード』『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』のグレタ・ガーウィグがバービーを実写映画化だと・・・?マーゴット・ロビーはともかくライアン・ゴズリング・・・?(個人の感想です)と映画ファンなら首がもげるほど首を傾げる事案だったが、観終わってみて、バービー人形をルッキズムの象徴にしてしまっていたのは我々だったのだと思い知らされる。

 

公開寸前で炎上騒ぎがあったが、これは完全に配給会社SNSマーケティング部門の落ち度であり、作品のメッセージやクオリティとは全く関係がない。もしこのことで鑑賞を諦めている人がいるならば、考え直してほしい。そういう人にこそ、痛快なストーリーにおバカなギャグとファビュラスなエンタメをてんこ盛りにして、現代社会が男女に負わせる生きづらさを痛烈に皮肉ったグレタ・ガーウィグの凄みを体感してほしいのだ。

 

まず、とある名画のオマージュで始まるオープニングが最高。遊びの中でさえ母親役を押し付けられてきた女の子たちの解放をダイナミックに描き、また、この作品が大人向け、そして女性だけでなく男性にも向けられて制作されたことを意図している。また、全編を通して過去の名作たちに捧げるオマージュが散りばめられており、グレタ・ガーウィグの映画オタクぶりが存分に発揮されていてとてもよい。

 

そしてバービー(女性)たちが活躍するバービーランドと現実世界のギャップがあまりにもグロテスク。黒づくめのスーツ男しかいない社長室、筋トレと出世の話しかしないビジネスマンなんて悪夢だが、これが世界共通のリアルだ。家父長制的構造、有害な男らしさ、ミソジニールッキズム、行き過ぎた資本主義、ブルシットジョブなどあらゆる社会問題への批判が込められており、その記号を読み解く知識があれば尚、見応えがあろう。

 

1959年、ルース・ハンドラーがマテル社の男性幹部たちの反対を押し切って生み出したバービー人形は「You can be anything」というブランドメッセージに基づいて、多様性を表現してきた。「多様性に富むバービーが誕生した理由と背景を伝えたい」と語るグレタ・ガーウィグは、ルッキズムの象徴になってしまったバービーが持つ、“女性をエンパワーメントする”という本来の存在意義を取り戻すことに成功した。先人たちの闘いの歴史に想いを馳せつつ、私も俄然バービー人形を自宅に飾りたくなり、Amazonでポチろうとしているところ・・・。

 

trailer: