銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】ドライビング・バニー

映画日誌’22-40:ドライビング・バニー
 

introduction:

経済的事情を抱える母親が、幼い娘を取り戻すため奮闘する姿を描いた人間ドラマ。本作が長編映画デビューとなるニュージーランド在住の中国人映画監督ゲイソン・サヴァットがメガホンをとる。『ベイビーティース』でオーストラリア・アカデミー賞助演女優賞を受賞したエシー・デイヴィスが主演を務め、『ラストナイト・イン・ソーホー』などで注目される新鋭トーマシン・マッケンジーが共演した。2021年・第20回トライベッカ映画祭で審査員特別賞を受賞。(2021年 ニュージーランド)
 

story:

ある事情から妹夫婦の家に居候している40歳のバニー。幼い娘とは監視つきの面会しかできないが、娘の誕生日までに新居に引っ越して一緒に暮らすことを夢見て、車の窓拭きをしながら必死に働いている。そんなある日、妹の新しい夫ビーバンが継娘のトーニャに言い寄る光景を目撃。ビーバンを問い詰めたバニーは家を追い出されてしまう。家も金も失ったバニーは、救い出したトーニャと共に、愛する娘を奪い返すべく立ち上がる。
 

review:

全然ロードムービーじゃない。ミスリードする邦題をつけて、主題をわからなくさせる日本の配給会社はギルティ。日本国内向けビジュアルの青空みたいな爽やかな展開は皆無、ケン・ローチ風味のゴリゴリ社会派ドラマなのに「家なし、金なし、仕事なし!?バニーの生き様があなたに勇気を届ける!奮闘と希望のミラクル・ロードムービー」て、どんな神経ならこのコピーが書けるのよ・・・。
 
「The justice of Bunny king」という原題通り、バニーが貫いた正義について描かれた物語だ。とある事情で子どもと離れて暮らし、条件付きでしか面会も許されないバニー。生活を立て直して子どもを取り戻すため、路上で車の窓拭きをして日銭を稼ぎ、妹夫婦の家に居候して貯金している。社会の底辺でもがくように生きている経済的弱者の現状が、延々と描写される。
 
つらい。大きな愛情と優しさで子どもたちを思い、必死に生きているのに報われない。ところが本作のレビューを覗くと、バニーの言動に苛立つ、自分がやるべきことを考えろって書いてる人が多くて驚いた。そんなスマートな人間だったら社会的弱者になってないでしょうよ。看護師という資格職に就き家庭を築いている妹と比較しても、生い立ちが原因ではない。
 
なぜ過ちを繰り返し、貧困に陥っているのか。衝動的、感情的で約束を守れない、原因と結果を結びつけて考えることができないバニーの特徴を鑑みれば明白。生きづらさを抱える人たちが、どうしたら幸せに暮らせるのか考えるべきなのではないか。彼女の小さな罪なき願いすら叶えられない世界だ。レビューに溢れる自己責任論も、この映画の一部のような気がしてならない。
 

trailer: