銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】オフィサー・アンド・スパイ

映画日誌’22-20:オフィサー・アンド・スパイ
 

introduction:

戦場のピアニスト』などのロマン・ポランスキーが、ロバート・ハリスの小説を原作に、19世紀フランスの冤罪事件“ドレフュス事件”を映像化した歴史ドラマ。巨大権力と闘った男の不屈の信念を描き、第76回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞(審査員グランプリ)を受賞した。『アーティスト』などのジャン・デュジャルダン、『グッバイ・ゴダール!』などのルイ・ガレル、『告白小説、その結末』などのエマニュエル・セニエ、『潜水服は蝶の夢を見る』などのマチュー・アマルリックらが出演する。(2019年 フランス/イタリア)
 

story:

1894年、フランス。ユダヤ人の陸軍大尉ドレフュスが、ドイツに軍事機密を流したスパイ容疑で終身刑を宣告される。その後、対敵情報活動を率いるピカール中佐がドレフュスの無実を示す衝撃的な証拠を発見するが、キャンダルを恐れ隠蔽を図ろうとする軍上層部から左遷されてしまう。真実と正義を追い求める彼は作家のエミール・ゾラらに支援を求め、国家権力や反ユダヤ勢力との闘いに身を投じていく。
 

review:

ポランスキーといえば『ローズマリーの赤ちゃん』『戦場のピアニスト』など、映画史に残る名作を残した巨匠であるが、同時に、1977年に当時13歳の子役モデルへの淫行でアメリカの裁判所から有罪判決を受けた疑惑の人でもある。ポランスキー監督は冤罪を訴え、仮釈放中にヨーロッパへ脱出したが、米国当局は今も彼の身柄引き渡しを求めている。
 
そして彼は、アウシュビッツを生き抜いた人でもある。つまり冤罪を訴えているユダヤ人が、根強いユダヤ人差別を背景にした冤罪事件を撮ったわけだ。2019年、#MeToo運動の流れで複数の女性がポランスキー監督からの性的被害を訴え、彼の過去が再び取り沙汰されるなかで公開された本作は、フランスで大ヒットを記録。セザール賞の授賞式では『燃ゆる女の肖像』のアデル・エネルが「恥を知れ」と叫び退場したという曰く付きだ。
 
物語は、ユダヤ人士官アルフレッド・ドレフュスの軍籍剥奪式から始まる。うやうやしく”権威”が引き剥がされていく様子は興味深い。が、中盤まで実に淡々と物語が進行するのでやや退屈する。かと思えば終盤で急に時空をワープするし、なんともバランスの悪い緩急よ・・・。睡魔と闘ってたら唐突に決闘が始まるしさ・・・。
 
フランス国内を二分するほどの歴史的大事件だったと言うが、その社会的背景についてはさほど描かれない。よってフランス国内を二分するほどの歴史的大事件だったことが伝わってこない。ポーリーヌとの色恋沙汰よりもっとドラマチックに描くことがあるだろうよ。
 
ピカールは自分の信念に従い、軍の考えに服従するより真実を知ること選まびした。ドレフュスがスパイとされたことに疑念を持ち、ピカールは軍の制止を振り切り捜査を続け、真犯人を示す証拠を見つけるのですが、核心に迫るほど、軍の過ちがもたらした問題の渦中に自分がいることを畏れるようになります。
 
と、ポランスキー語りき。史実に基づいているのでモヤァ・・・とする展開が待ち受けており、それで時空をワープしたりするわけだが、いやもっとカタルシスを得られる描き方ができないものかねポランスキー君。反ユダヤ感情による歴史的冤罪事件に自身の冤罪の訴えを重ね合わせて有耶無耶にしようとしているのか、どうにも歯切れが悪い。
 
信念を貫くピカールの人間像が少しずつ浮き彫りになっていく描写は良かったし、その究極と言えるラストシーンは観る価値があるが、それにしても人物描写が浅いのだよなぁ。煙に巻かれたような2時間だったが、19世紀末フランスの世相や文化に触れ、ドレフュス事件について知ることができたのは良かった。
 

trailer: