銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】息子の面影

映画日誌’22-21:息子の面影
 

introduction:

メキシコ国境付近を舞台に、出稼ぎのため家を出たまま行方不明になった息子を捜す母親の旅路を描いた人間ドラマ。監督を務めたフェルナンダ・バラデスをはじめ、ほぼ無名のキャストで構成されているが、2020年サンダンス国際映画祭で観客賞と審査員特別賞を受賞するなど、世界各地の映画祭で高く評価された。(2020年 メキシコ/スペイン)
 

story:

メキシコの貧しい村に暮らすマグダレーナ。ある日、貧困から抜け出すため友人とともにアメリカへと旅立った息子ヘススが消息を絶ってしまう。多くの若者が国境を越えようとして命を失うことが多い中、マグダレーナは息子を捜すため、たった一人で村を出発する。かろうじて得た情報を頼りにある村へと向かう道中、息子と同じような年恰好の青年ミゲルと知り合い、彼が母親を探していると知ったマグダレーナは彼と行動を共にするが...
 

review:

メキシコとアメリカの国境付近を舞台に描かれたこの人間ドラマは、荒涼としたメキシコの大地を美しく映し出しつつ、今なおメキシコに残る貧困問題をはじめとした社会問題を鋭く描き出し、無名の監督、無名のキャストながら世界中の映画祭で絶賛されたそうだ。
 
アメリカ=メキシコの国境は、合法、非合法を合わせて世界で最も多い数の横断がおこなわれる。毎年100万人以上の不法入国者がいると見られているが、国境越えを果たせず命を落とす者も多いそうだ。渡河の溺死、水や食糧不足が主因だが、国境付近には麻薬の運び屋などが多く集まり、移動中の犯罪や事故に巻き込まれるケースも多いという。
 
少々凝りすぎている気もしつつ、詩的な映像が印象的だ。結末に向かって少しずつ焦点が絞られていく演出は見事だし、巧みなストーリー展開で、悪魔が潜むメキシコ国境のリアルを疑似体験する。しかし、人間ドラマと呼ぶには叙情性が乏しく、サスペンスと呼ぶには緊張感に欠ける。娯楽性はゼロなので、映画慣れしていない人は退屈するだろう。
 
一切の説明を排した静謐なトーンで描かれるため、コンディションが悪い状態で観賞すると序盤で睡魔とランデブーする恐れがある。ところがこの日の私は、奇跡的に調子が良かった。中弛みしつつ意識を正常に保ったままメキシコの情景を堪能していたら、衝撃的な結末で茫然自失。ずっしりと重たい余韻にすべてを持っていかれてしまった。そういう意味では、秀作と言えるだろう。
 

trailer: