銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】ニューヨーク・オールド・アパートメント

映画日誌’24- 02:ニューヨーク・オールド・アパートメント

introduction:

オランダ人作家アーノン・グランバーグの小説『De heilige Antonio』を原作に、アメリカの移民問題を背景に親子の絆を描いたドラマ。短編「ボン・ボヤージュ」が第89回アカデミー賞短編映画賞にノミネートされたマーク・ウィルキンス監督の長編デビュー作となる。オーディションで選ばれたペルー出身の双子アドリアーノマルチェロ・デュランが主演を務め、『悲しみのミルク』のマガリ・ソリエルらが共演する。(2020年 スイス)

story:

祖国ペルーを捨てアメリカへ渡り、ニューヨークで不法移民として暮らすデュラン一家。母ラファエラはウェイトレスとして働き、息子のポールとティトも語学学校に通いながら配達員の仕事で家計を支えていた。街から疎外される自分たちを「透明人間」だと憂う息子たちは、ある日学校で謎めいた美女クリスティンと出会い、恋に落ちる。しかしクリスティンはコールガールという一面を隠し持っていた。そして生活に疲弊していた母ラファエラは、白人男性の誘いに乗りアパートでデリバリーの飲食業を始めるが・・・。

review:

大都会ニューヨークの片隅で肩を寄せ合い生きる、不法移民のペルー人母子がたどる数奇な運命が描かれる。強制送還の恐怖に怯えながら小銭を稼ぐ貧しい生活、市民権も持たず、誰からも見向きもされない透明人間のような存在の彼ら。ちょっとした日常の描写から、彼らが常にさらされている差別や、置かれている環境が伝わってくる。そんなある日、母と息子たちはそれぞれ恋に落ち、生きる意味を見出していこうとするが、そうは問屋が卸さねぇという物語。

移民問題をシリアスに描くのかと思っていたら、予想を超えるドラマチックな展開で面白かった。息子たち、一昔前のキムタクとマツジュンみたいな雰囲気なんだが、双子という設定がいい。1人だと厳しい状況でも2人だと深刻になりすぎず、微笑ましくもある。そして彼らが暮らすニューヨークの街の描写は、雑踏のゴミゴミしさで息が詰まるよう。と思ってたら、まさかの展開でペルー。ペルー!!ってつい心の中で叫びたくなるような、その雄大な自然に絶望すら感じる。圧倒的に貧しく、そこに彼らの居場所はない。そりゃ危険を冒しても国境を超えるよなぁ。

どこか頼りなげでかわいらしいラファエラ母さん、あの『悲しみのミルク』のファウスタではないか・・・!!ペルー近現代史のトラウマをその身に背負った一人の女性の姿を通して、ペルーの忌まわしい過去から連なる現在、そして未来への希望を映し出す秀作で、強烈に印象に残っている。いつかのファウスタさん、ちょっとフォルムが変わってて肝っ玉母さんになってるから気付かなかったけど、息子たちが言う通り美人なのよ。あの佇まい、あのムード、納得。演技も素晴らしい。

そんなラファエラ母さんに擦り寄ってくるスイス人野郎、憎めないクズ加減が絶妙。スイスのベテラン個性派俳優らしい(実はこの作品、監督はスイス人だしスイスの映画である)。ニューヨークには移民の女性をカモにするクズがいっぱいいるのだろう。またその逆もあるのだろう。欲望渦巻く大都会で、ひたむきに生きる人々がカモにされる。理不尽で不条理なこの世界でで踏みつけられるように暮らしていても、失われないもの、奪われないものはあるのだと教えてくれる。3人が再会して、また明日に向かって歩き出せますように。いい映画だった。

trailer: