映画日誌’24-01:ファースト・カウ
introduction:
現代アメリカ映画の最重要作家と評されるケリー・ライカートが、A24とタッグを組んで放つ長編7作目。ライカート監督作の脚本を多く手がけてきたジョナサン・レイモンドが2004年に発表した小説「The Half-Life」を原作に、監督とレイモンドが共同で脚本を手がけた。主演は『マネー・ショート 華麗なる大逆転』のジョン・マガロ、香港出身の俳優オリオン・リー。イギリスを代表する名俳優トビー・ジョーンズ、『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』で注目を集めたリリー・グラッドストーンらが共演する。(2022年 アメリカ)
story:
1820年代、西部開拓時代のオレゴン。アメリカンドリームを求めて未開の地にやってきた料理人のクッキーと、中国人移民のキング・ルーは意気投合し、やがてある大胆な計画を思いつく。それは、この地に初めてやってきた“富の象徴”である、たった一頭の牛から盗んだミルクでつくったドーナツで、一攫千金を狙うというものだった。
review:
2024年の映画初めは、はからずもA24作品であった。ケリー・ライカート監督はアメリカのインディペンデント映画作家として最も高い評価を受けている一人とのことだが、その作品が日本の劇場で公開されるのは初めてとのこと。西部開拓時代のアメリカ・オレゴン州を舞台に、成功を夢見た男たちの運命が描かれる。
1820年のアメリカは「Go West, young man(若者よ、西部を目指せ。そして、国と共に育て)」の時代である。政府は人口過密や労働問題で苦しむ東部の若者に西部開拓を呼びかけ、人々はネイティブアメリカンの部族を追い出しながら、森林と荒野の平原を西へ前進し続けた。そして当時のオレゴン州には、一攫千金を夢見ていろんな国籍の人々が集っていたのである。
未開の無法地帯で、東部からやってきたユダヤ系の料理人クッキーは、9歳で母国中国を出て世界をめぐってきたキング・ルーと出会う。やがて二人は意気投合し、紅茶にクリームを入れたいイギリス人のために連れてこられた雌牛からミルクを盗み、ドーナツを作って売ることを思いつく。そのドーナツは、いつか米軍基地のお祭りで食べたファンネルケーキを思い出させる。
主演の二人の佇まいが素晴らしいのだが、もはや大御所トビー・ジョーンズ、『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』で高い評価を受けたリリー・グラッドストーンらが脇を固めており、作品にムードをもたらす。ついでに『トレインスポッティング』のスパッドことユエン・ブレムナーが登場し、生きとったんかいワレェという気持ちになる。
全体的に画面が暗く、モソモソと物語が転がっていくので、ちょっとだけ眠くなるのはご愛嬌。かと思えば、時にスリリングな展開にハラハラさせられたりする。とにかく観る人を選ぶ作品であるが、ラストシーンにすべてを持っていかれる。甘い成功を夢見た二人の友情と行く末、アメリカという大国の歴史が一気に押し寄せてきて息を呑んだ。何という秀作。よい映画初めであった。