銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】燃ゆる女の肖像

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映画日誌’20-46:燃ゆる女の肖像
 

introduction:

18世紀のフランスを舞台に、望まぬ結婚を控える貴族の娘と彼女の肖像を描く女性画家の愛を描き、第72回カンヌ国際映画祭脚本賞クィアパルム賞を受賞したラブストーリー。デビュー作『水の中のつぼみ』が、第60回カンヌ映画祭「ある視点部門」に正式出品され高い評価を受けたセリーヌ・シアマが脚本と監督を手掛ける。撮影監督は『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』やNetflix 映画『アトランティックス』などで多数のノミネート・受賞をしているクレア・マトン。『ブルーム・オブ・イエスタディ』『午後8時の訪問者』などのアデル・エネル、『英雄は嘘がお好き』『不実な女と官能詩人』などのノエミ・メルランらが出演する。(2019年 フランス)
 

story:

18世紀、フランス。画家のマリアンヌはブルターニュの貴婦人から、娘のエロイーズの見合いのための肖像画を依頼され、孤島の城を訪れる。しかしエロイーズは結婚を拒んでいた。マリアンヌは正体を隠して彼女に近付き、密かに肖像画を完成させるが、真実を知ったエロイーズから絵の出来栄えを否定されてしまう。書き直すと決めたマリアンヌに、エロイーズは意外にもモデルになると申し出る。キャンバスをはさんで見つめ合い、美しい島を散策し、音楽や文学について語り合ううちに、恋に落ちていく2人だったが...
 

review:

18世紀のフランスといえば、マリー・アントワネットが「パンが無ければケーキを食べればいいじゃない」と言ったとか何とかで、その後フランス革命が起き、バスティーユで銃弾に倒れたオスカルが「アンドレが待っているのだよ・・・」「フランス万歳」という言葉を遺してこの世を去った時代である(雑)。要するに絶対君主制のもと、宮廷の貴族文化が花開いた時代でもあったが、貴族の娘は政治の道具でしかなく、結婚に自分の意思など入る余地はない。また、文才や画才があったとしても、女性が自分の名で作品を世に出して真っ当に評価されることなどなかった。
 
そのような時代に生きた、3人の女性。自ら命を絶った姉の身代わりとして修道院から呼び戻され、望まぬ結婚を強いられる貴族の娘。父親の名前でないと展覧会にも出品できない女性画家。望まぬ妊娠をするメイド。男性はほとんど登場しないが、彼女たちが男性優位社会のうちに生きていることを、生々しく描き出す。そしてこの映画は、「眼差し」がもたらす官能と、喪失を描いた物語だ。ギリシア神話オルフェウスとエウリュディケーの物語(オルフェウスは死んだ妻を取り戻しに冥界に入るが、地上に戻る寸前に「冥界を抜けるまで決して後ろを振り返ってはならない」という冥界の王ハーデースとの約束を破り、妻を永遠に失う)が重要なメタファーとして登場し、ストーリーに奥行きを出している。
 
フランス・ブルターニュ地方の孤島に実際に残っていた城を舞台に撮影され、吹き抜ける風、草原、波が砕けちるさま、夜に揺らめく焚火・・・どこを切り取っても絵画のような映像美が、儚い刹那の恋を映し出す。また音楽は、劇中でたった2曲しか使われていない。2人の愛を象徴するヴィヴァルディ協奏曲第2番ト短調 RV 315「夏」。そして島の女性たちが焚き火に集い合唱する「La Jeune Fille en Feu」だ。民族音楽のような原始的かつ呪術的な響きに、トリップしてしまいそう。2人、そして3人の人間関係とうつろう心のうちが、繊細に、丁寧に紡がれており、ただ身を任せて見惚れるほかない。素晴らしい映画体験だった。
 
が、修道院育ちの深窓の令嬢エロイーズを演じたアデル・エネルが、どうにもマッチョで男気溢れてるんだな〜。逆に言うと中性的色気はあるのだが、どう見ても親の言いなりに結婚するタイプには見えない。筆一本で生きていかんとする職業画家のほうが役柄的に似合ってるし、何なら画家マリアンヌと逆のほうがしっくりくるような気がする。この時代に男に頼らず細腕で生きていこうとする女性画家の心と体を、腕っぷし強そうな深窓の令嬢が絡めとってしまうという、何ともチグハグなんだが、この違和感こそがリアリティだったのかもしれない・・・。
 

trailer: