銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】悪なき殺人

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映画日誌’21-51:悪なき殺人
 

introduction:

『ハリー、見知らぬ友人』『マンク ~破戒僧~』などの鬼才ドミニク・モルが、ある女性の失踪事件を軸につながっていく5人の男女の物語を描いたサスペンス。『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』などのドゥニ・メノーシェ、『パパは奮闘中!』などのロール・カラミー、『レ・ミゼラブル』などのダミアン・ボナールのほか、ナディア・テレスキウィッツらが出演する。カンヌ国際映画祭では、脚本賞助演女優賞にノミネートされ、東京国際映画祭で観客賞と最優秀女優賞を獲得している。(2019年 フランス,ドイツ)
 

story:

フランスの山間にある寒村で、吹雪の夜、一人の女性が失踪し殺害された。事件の犯人として疑われたのは、農夫のジョセフ、彼と不倫関係にあったアリス、彼女の夫ミシェル。レストランで偶然出逢ったマリオンとエヴリーヌ、そして遠く離れたアフリカのコートジボワールで詐欺を行うアルマン。それぞれに秘密を抱えた男女の関係がひとつの殺人事件を介して絡まり合い、次第に事実が明らかになっていく。
 

review:

ドミニク・モルの作品は初めて観たけれど、秀逸なミステリーでかなり面白かった。サスペンスだが、重層的な人間ドラマでもある。農夫ジョセフと不倫しているアリス、妻アリスに隠れてネット恋愛するミシェル・・・みんな秘密を隠している。後ろめたさを抱えた孤独な人々が、報われることのない「愛」を必死に追い求める姿、滑稽で愚かな人間のどうしようもなさが、どこかユーモラスに描かれる。
 
本作は5つの「愛」の物語で構成しています。誤解や秘密、妄想、失望、幻滅から生じたフラストレーションの溜まった非対称の愛の物語です。どのキャラクターも愛したい、そして愛されたいという衝動にかられて行動しています。愛を求め、愛を信じ、愛を分かち合い、愛に生きる。それを叶えたくて彼らはみな理想を想像し、その想像が彼らを動かします。それが良い方向に転じる場合もあれば、悪い方向に転じることもあるのです。——ドミニク・モル
 
人間は「偶然」には絶対に勝てない——人々の思惑が交錯し、偶然が連鎖し、予期せぬ事態を引き起こしていく。行き場のない、報われない愛が絡まり合う男女、数えてみたところ、8人。そのうち、アリス、ジョセフ、マリオン、アマンディーヌ、それぞれの視点で物語が紡がれる。ひとつの事象を複数の視点で描くこの手法は、黒澤明の『羅生門』が始まりとされ「ラショーモン・アプローチ」と呼ばれている。って『最後の決闘裁判』でも書いたな。
 
全く予想しない、怒涛の展開に圧倒される。固唾を呑んでその顛末を見守る。視点が変わるごとに、絡まり合った糸が少しずつ解きほぐされ、散りばめられた伏線がすべて回収されていく。螺旋を描いて、パズルのピースが埋まっていくカタルシスに酔う。何を書いてもネタバレになるのでこの辺りで切り上げるが、見事なストーリーテリングであった。何の予備知識もなく、鑑賞することをおすすめする。
 
原作を読み、このユニークな設定をすぐ映画化したいと思いました。 物語は猛吹雪の夜に行方不明になったある女性の謎の失踪事件を軸に、それぞれ秘密を抱えた5人のキャラクターを中心にした5つのストーリーが展開していきます。いかにそれぞれが絡み合い、補い合い、かつ、矛盾しているか。彼らがどう紐づいていて、失踪事件の真相は一体何なのか、この謎めいた世界観に、読んでいて好奇心がどんどん掻き立てられました。原作を3分の2以降で、物語の舞台が雪で覆われたフランスの山間の町から、突如、灼熱のアフリカに移り、驚かされました。私たちにとって物語の中心は、失踪事件の真相解明ではなく、登場人物たちと、彼らが取ってきた行動を通して彼らがそれぞれどんな夢を抱き、どんな世界に生きているかを描くことにあるのです。——ドミニク・モル
 

trailer: