銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】ローラとふたりの兄

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映画日誌’21-52:ローラとふたりの兄
 

introduction:

さまざまな問題を抱えてぶつかり合いながらも支え合う、3人兄妹の日常を描いたヒューマンコメディ。監督は『愛しき人生のつくりかた』などのジャン=ポール・ルーヴ。『セラヴィ!』などで俳優としても活躍し、本作にも出演している。主演は『8人の女たち』のリュディビーヌ・サニエ。『ボン・ボヤージュ 家族旅行は大暴走』のジョゼ・ガルシアの他、ラムジー・ベディア、ポーリーヌ・クレマンらが共演する。(2018年 フランス)
 

story:

フランス西部の都市・アングレーム。弁護士のローラにはちょっと困った2人の兄がいる。ロマンチストで神経質な眼鏡士ブノワと、職人気質で不器用な解体業者ピエールだ。彼らは毎月一度亡くなった両親の墓前に集まることが習慣だが、兄ブノアの結婚式に大遅刻をしてきたピエールの失礼なスピーチが原因で兄弟喧嘩が勃発。そんな中、離婚調停の依頼人だったゾエールと恋に落ちたローラは、病院で予想だにしない診察結果を受け取り...
 

review:

二人の兄と末っ子の妹が繰り広げる兄弟愛の物語だ。しっかり者の末妹ローラ、いい雰囲気になった依頼人とのランチデートで「君の弱点は?」と聞かれて「兄が二人いること」と答える。どうやら仲の良い兄妹なのだが、長兄ブノワの結婚式をきっかけに始まった兄弟喧嘩はこじれ、それでも月イチ両親のお墓参りには律儀に顔を揃え、お墓の前で口論する。いつも近くで墓参りしている老人から「君たちは喧嘩するために墓に来ているのか?」とツッコミが入るほど。
 
解体業者のピエールは仕事でシリアスな問題を抱え、息子の名門校留学にも暗雲が立ち込める。眼鏡士のブノワは新婚早々妻とすれ違い、別居問題へと発展する。ローラは幸せな恋に落ちたはずが、体調不良でかかった医者から思いがけない診断を受けてしまう。それぞれが問題と葛藤を抱え、些細なことでぶつかり合い、すれ違い、兄弟だからこそ肝心なことは言い出せない。そんな家族の機微を映し出し、観る者は自分ごとのように引き込まれてしまう。
 
たまにはフランスの軽いコメディでも観ようとそれほど期待せずに観たが、脚本がよく練られており、思いがけず奥行きがあって面白かった。ドラマチックな展開や派手な盛り上がりはないが、二人の兄と末っ子の妹をとりまく人々の日常をつぶさに、ユーモラスに描く。それぞれの人生の転機を通してプチ・ブル(中産階級)の実生活、フランス社会の明暗をも浮き彫りにし、繊細で味わい深い人生ドラマに仕上がっている。
 
ラストシーンは少々あざとさを感じたが、暖かい気持ちになった。私も3人兄弟だ。仲が良い分、どうでもいい痴話喧嘩もたくさんしてきた。でも、仕事がツラくて独りで生きてるのがしんどかった時、姉に「仕事やめたら転がり込んでいい?」って泣き付いたら即答で「いいよ」と言ってくれた。結果転がり込んだりはしてないが、その言葉にとても救われた。兄弟とは有難い存在である。兄弟の絆、家族のかたちはそれぞれ。血が繋がっていてもいなくても家族は家族。要するに、ほのぼのする映画は良い映画。
 

trailer: