銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】パーフェクト・ケア

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映画日誌’21-50:パーフェクト・ケア
 

introduction:

デヴィッド・フィンチャーの『ゴーン・ガール』で失踪した妻エイミーを怪演したロザムンド・パイクが主演し、第78回ゴールデングローブ賞主演女優賞に輝いたクライムサスペンス。高齢者の財産を合法的に騙し取る法的後見人が辿る運命を描く。監督は『アリス・クリードの失踪』のJ・ブレイクソン。『ゲーム・オブ・スローンズ』のピーター・ディンクレイジ、『ベイビー・ドライバー』などのエイザ・ゴンザレス、オスカー女優ダイアン・ウィーストらが共演する。(2020年 アメリカ)
 

story:

判断力の衰えた高齢者を守り、ケアする法定後見人のマーラは、裁判所からの信頼も厚く、たくさんの顧客を抱えている。しかしその実体は、医師や介護施設と結託して高齢者たちから資産を搾り取る悪徳後見人だった。パートナーのフランとともに順調にビジネスを進めるマーラだったが、新たに獲物として狙いを定めた資産家の老女ジェニファーをめぐり不穏な出来事が怒り始める。身寄りのないはずのジェニファーの背後には、なぜかロシアン・マフィアの存在があり...
 

review:

なんと、2021年12月3日から「3週間限定」の劇場公開だそうだ。レビューを書くのが遅いことを棚に上げて言う、面白かったから今すぐ劇場で観ろください。デヴィッド・フィンチャーの『ゴーン・ガール』で、愛がなくなった夫を社会的に抹殺すべく巧妙な罠で追い詰める自作自演妻エイミーを演じて人々を震え上がらせたロザムンド・パイクさん、今回は高齢者の財産を騙し取る悪徳後見人を怪演しておられて実に胸糞悪いので観ろください。
 
後見人制度、つい最近だと「#FreeBritney(ブリトニーを自由に)」の運動が記憶に新しい。成年後見制度の解除を求めて闘うブリトニー・スピアーズを応援するものだ。ブリトニーは精神的な精神的に不安定な行動が見られた2008年から12年間にわたって父親ジェイミーが後見人となり、彼女の財産を管理するだけでなく、連絡や移動、交際など生活のすべてを監視していたそうだ。
 
本人の証言によると、自身の意志に反して避妊リングを入れられ、妊娠する自由さえ奪われていたという。裁判の末、父親ジェイミーが後見人から外され、ブリトニーはパートナーとともに新しい人生を歩き始めた。ファンでも何でもないが、長いこと毒親と後見人制度、メディアの餌食になってきた彼女の幸せを願わずにはいられない。話がそれたが、障がい者や高齢者からカネを奪う卑劣な悪徳後見人は我が国でも問題になっている。
 
本作では、「人間は”奪う者”と”奪われる者”の二種類がいる」と語るマーラが、後見人制度の抜け穴を利用して狙いを定めた獲物の後見人となり、結託している施設に閉じ込め自由を奪い孤立させ、合法的に資産を根こそぎ奪っていく様子が描かれる。その徹底した悪女っぷりに辟易する。それはまったく共感できるものではないし、早く天罰が降ってマーラが成敗されますようにと多くの観客が祈っていたことだろう。
 
マーラと対峙するロシアンマフィアの面々、ボスも手下も弁護士もキャラクターが濃くて何故か親近感が湧くし、中盤、マーラがこれまでやってきたことの結果、自業自得ともいえる展開を期待してカタルシスを感じそうになる。が、反面、暴力でねじ伏せようとする男に対して絶対に引かないし脅しに屈しない、マーラのタフな姿を眺めていると何だかよく分からない感情が芽生えてくる。
 
マーラ自身も虐げられてきた弱者であったことがさりげなく描かれており、人生をかけて世の中に復讐していることが見え隠れすると、どちらが黒幕で何が正義なのか分からなくなるのだ。よく練られたストーリーと巧妙な演出、二転三転し最後の最後まで予想の斜め上をいく展開で、まったく飽きさせない。ロザムンド・パイクの存在感とスタイリッシュな映像に引き込まれる。怪作であった。
 

trailer: