銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】クローブヒッチ・キラー

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映画日誌’21-26:クローブヒッチ・キラー
 

introduction:

ゲティ家の身代金』『荒野にて』などで注目を集めるチャーリー・プラマー主演のサスペンススリラー。監督は新鋭ダンカン・スキルズ、脚本は『クラウン』などのクリストファー・フォードが手掛けた。『ザ・シークレット・サービス』や「アメリカン・ホラー・ストーリー」などのディラン・マクダーモット、『ブロークン・アロー』『愛と呼ばれるもの』のサマンサ・マシス、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』などのマディセン・ベイティらが出演している。(2018年 アメリカ)
 

story:

信仰を重んじる小さな町の、貧しくも幸せな家庭で暮らす16才の少年タイラー。ある日、ボーイスカウトの団長も務め、町でも信頼の厚い父親ドンのガレージに忍び込み、猟奇的なポルノや不穏なポラロイド写真を見つけてしまう。不審に思ったタイラーは調べを進めるうちに、10年前に起きた未解決事件「巻き結び(クローブヒッチ)連続殺人事件」の犯人が父親ドンなのではと疑念を抱くようになる。同じく事件を追う少女カッシに協力を求め、真相を究明しようとするが...
 

review:

クローブヒッチは「巻き結び」のこと。ある田舎町で10年前に起きた、未解決の連続殺人事件の犯人の特徴だ。つまらなくはないけれど、サスペンスやサイコスリラーと思って観ると肩透かしをくらう。真犯人をめぐってサスペンスフルな描写があるかと思っていたら、割とどストレートな展開で伏線の回収とかどんでん返しとか、ない。何のひねりもない。もしかしたらお父ちゃんがSM趣味のシリアルキラーかもしれない!と閉鎖的なコミュニティのなかで揺れ動くタイラー少年の心を捉えた青春ドラマ(なわけはないが)と思ったほうが、見応えがある。
 
典型的なバイブル・ベルトのキリスト教右派白人コミュニティが舞台だ。彼らはキリスト教原理主義で、共和党支持である。教会と家族を重視し、進化論や同性愛や人工妊娠中絶に反対し、フェミニズムへの反発、ポルノを含むカウンターカルチャーへの反発を唱え、徹底的に異端を排除する。SM趣味のポルノ写真が車の中から発見されようものなら、変態の烙印を押されて村八分。変態扱いされて失恋するわ、地元民に頼られてるお父ちゃんはど変態のシリアルキラーかもしれないわ、でタイラー少年の心は乱れまくりである。
 
少しだけ、ケヴィン・スペイシー主演の『アメリカン・ビューティー』を彷彿とさせる。本作で少女カッシを演じるマディセン・ベイティは、どことなく『アメリカン・ビューティー』のソーラ・バーチとムードが似ているし、「普通」の仮面をつけた気持ち悪い家族から、自分たちを解放しようとする男の子と女の子、という相違点がある。でも、『アメリカン・ビューティー』のような盛大なカタルシスが本作にはなかった。
 
比べるものではないと思うが、序盤はそれなりに面白かったので、終盤の凡庸さが残念。真犯人が自分の欲望を持て余し、それを何とか解消しようと一人で頑張ってる様子が一番面白かった。人にはそれぞれ、他人には計り知れない秘密があるものだ。何の変哲もないと思っているあなたのパートナーも、本当の性癖を隠して家庭生活を送っているかもしれないよ...。
 

trailer: