銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】私がやりました

映画日誌’23-51:私がやりました

introduction:

フランス映画の巨匠フランソワ・オゾンの最新作は、監督の作品群の中でも高い人気を誇る『8人の女たち』『スイミング・プール』など女性を魅力的に描くミステリー・エンターテイメント。映画プロデューサー殺人事件の“犯人の座”をめぐって3人の女たちが繰り広げる顛末をユーモラスに描く。『悪なき殺人』のナディア・テレスキウィッツ、『シモーヌ フランスに最も愛された政治家』のレベッカ・マルデールのほか、フランスを代表する大女優イザベル・ユペールが出演する。(2023年 フランス)

story:

パリの大豪邸で有名映画プロデューサーが殺害された。容疑をかけられたのは、貧乏暮らしの新人女優マドレーヌ。法廷に立たされた彼女は、ルームメイトの弁護士ポーリーヌが書いた「自分の身を守るために撃った」と正当防衛を訴える台詞を完璧に読み上げ、裁判官や大衆の心を掴んで見事無罪を勝ち取る。それどころか悲劇のヒロインとして時代の寵児となり、一躍スターの座へと駆け上がっていく。そして優雅な生活を手に入れた彼女たちの前に、かつての大女優オデットが現れて真犯人は自分であると主張し始め…

review:

みんなお待たせ、フランスの巨匠フランソワ・オゾンの新作はブラックジョーク満載のコミカルなクライムミステリーだよ!コンスタントに多彩な作品を生み出すオゾンの才能に脱帽するが、勝手にもっと重みのあるドラマを期待していたのかも、少しだけ肩透かしにあった感は否めない。クライムミステリーというより、1930年代のムードを味わうコメディ映画と思って観た方が素直に楽しめる気がする。

8人の女たち」以来21年ぶりにオゾン監督作品に出演したフランスの大女優イザベル・ユペールが、コメディエンヌとして存在感を放っている。ていうか、犬も歩けばイザベル・ユペールにあたるっていうくらい、毎月ペースくらいで見かける。ちょっと出過ぎな気もするが、日本に入ってくるフランス映画に出演している率が高いだけ?日本人がイザベル好きなの?

1930年代の華やかなパリを舞台に権威と闘い、未来を切り開く逞しき女性たちの奮闘が爽快。戯曲ベースということもあり、よく作り込まれた舞台劇を観ているようでもある。若い女優に下心を出すプロデューサー、働きたくないから親が決めた婚約者と結婚するけど君と別れる気はないよのアホ息子、ずさんな捜査をする刑事と検事、女たちの手のひらの上で転がされる資産家。愚かしい男たちとのコントラストが鮮やか。

何しろフランスといえば20世紀後半まで強固な家父長制度が組まれ、中絶は違法、女性は夫の許可なしに就業できない、銀行口座も開けないような社会だったのである。フランスで女性参政権が認められたのは1944年のことなので、この物語の舞台を「1930年代のフランス」にしたことは、オゾンによる男性優位主義への痛烈なアンチテーゼでもあるだろう。肩透かしをくらいつつも、しっかりオゾン節に踊らされたひとときであった。

trailer: