銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】summer of 85

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映画日誌’21-32:summer of 85
 

introduction:

フランス映画界の巨匠フランソワ・オゾンが、自身が17歳の時に出会い深く影響を受けたエイダン・チェンバーズの小説「Dance on my Grave」(おれの墓で踊れ)を映像化。運命的な出会いを果たした美しき少年たちの、初めての恋と永遠の別れが描かれる。主演はオーディションで選ばれたフェリックス・ルフェーヴルとバンジャマン・ヴォワザン、『歓びのトスカーナ』などのヴァレリア・ブルーニ・テデスキや『背徳と貴婦人』などのメルヴィル・プポーらが共演する。第73回カンヌ国際映画祭でオフィシャルセレクションに選出、第15回ローマ国際映画祭で観客賞を受賞、第46回セザール賞では作品賞や監督賞など11部門12ノミネートされた。(2020年 フランス)
 

story:

セーリングを楽しもうとヨットで一人沖に出た16歳のアレックスは、突然の嵐に見舞われ転覆し、近くを通りかかった18歳のダヴィドに救出される。運命の出会いを果たした二人は友情を深めるが、それはやがて恋愛感情へと発展し、アレックスにとって初めての恋となった。深い絆で結ばれた二人は、ダヴィドの提案で「どちらかが先に死んだら、残された方はその墓の上で踊る」という誓いを立てる。しかし不慮の事故によって、ダヴィドは命を落としてしまう。
 

review:

その名を見れば食指が動いてしまうフランソワ・オゾンの新作となれば観るしかないのだが、全編フィルム撮影されたノスタルジックな映像美、その曖昧でざらざらとした手触り、THE CUREの代表曲「In Between Days」の軽快なイントロで始まる1985年の夏。フランソワ・オゾンの世界を無心で堪能してしまったためロクな感想が残っていないが、瑞々しく、不器用で不格好な初恋の一部始終を眩しく眺めていたような気がする。作品を彩るロッド・スチュワートの名曲「Sailing」が印象的だ。
 
オーディションでアレックス役に抜擢されたフェリックス・ルフェーヴルのムードがいい。どことなく80年代に人気だったリヴァー・フェニックスを思い出させる。当初、ダヴィド役のバンジャマン・ヴォワザンがアレックス役を希望していたそうだが、美形すぎないバンジャマンの「じゃないほう」感のバランスがいい。ワム!ジョージ・マイケルアンドリュー・リッジリーみたいで、そこはかとない80年代。
 
原作小説であるエイダン・チェンバーズ著「Dance on my Grave」に出会った当時17歳のオゾンは衝撃を受け、「いつか長編映画を監督する日がきたら、その第一作目はこの小説だ」と決意したのだそうだ。自身の作品づくりに影響を与え続けてきた作品を、映画監督として円熟したいま映像化した意味など考える。いろんな側面で、成熟させることに時間がかかったのだろう。
 
80年代はまだ、今よりもずっとゲイが偏見と闘っていた時代だろうが、そのあたりの描写はない。普遍的な青春の物語としてストレートに描かれており、我々も素直に少年たちの恋愛模様を享受することができる。初めての恋と永遠の別れ、傷付き悶え苦しみ、成長する。ただそれだけが描かれており、誰の心にも甘く切ない余韻を残すだろう。フランソワ・オゾンのフォロワーは必ず観ることをお勧めする。
 

trailer: