銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】アネット

映画日誌’22-16:アネット
 

introduction:

ポンヌフの恋人』『汚れた血』などの鬼才レオス・カラックスが、ロン&ラッセル・メイル兄弟によるポップバンド「スパークス」が書いたロック・オペラ「アネット」を原案に描くダークファンタジー。人気スタンダップコメディアンと一流オペラ歌手のカップル、娘アネットの物語をミュージカル仕立てで描く。『ハウス・オブ・グッチ』『最後の決闘裁判』などのアダム・ドライバー、『エディット・ピアフ ~愛の讃歌~』などのマリオン・コティヤールが出演。2021年・第74回カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞。(2021年 フランス/ドイツ/ベルギー/日本)
 

story:

ロサンゼルス。  攻撃的なユーモアセンスをもった人気スタンダップ・コメディアンのヘンリーと、国際的に有名な一流オペラ歌手のアン。何もかもがかけ離れた”美女と野獣”のカップルは、次第に世間からの注目を浴びるようになっていく。やがて二人の会田に非凡な才能をもった娘のアネットが生まれたことにより、彼らの人生が狂い始めていく。
 

review:

レオス・カラックスと言われると観ないといけない気がする映画ファンは多いだろう。レオス・カラックスは後にも先にも似た作家のいない“唯一無二“の監督であり、現代映画において重要な作家のひとりだ。23歳で長編第1作『ボーイ・ミーツ・ガール』(84年)をカンヌの批評家週間に出品すると「恐るべき子供」「神童」と騒がれた。私もかつて『ポンヌフの恋人』で衝撃を受けた。そんな彼も60歳になったそうだ。寡作なもので、長編7本目となるこの作品も10年振りの新作だ。本作の原案は「スパークス」が書いたロック・オペラである。ポップスの革新的なパイオニアであるロンとラッセルのメイル兄弟のスパークスは、長い間カルト的な支持を得ている謎の多いバンドだが、カラックスも支持者の一人らしい。
 
物語は至ってシンプルだが、寓話的、神話的要素や意味深なメタファーが散りばめられ、なかなかにトリッキーで癖のある仕上がりだ。アダム・ドライバー演じるヘンリーは「The Ape of God(神の類人猿)」を名乗り、バナナをほおばる。一方、マリオン・コティヤール演じるアンは、いつもリンゴをかじっている。いずれも「知恵の樹の実」のことであり、禁断の果実を食べた人間は死へと向かう。実際、アンはオペラ歌手として「毎晩死ぬ」し、繰り返し「怖い」と呟き続ける。アダム・ドライバーは何の映画を観てもパターソンにしか見えないんだが、やっぱりパターソンだった。
 
ヘンリーのスタンダップコメディが腰を抜かすほどおもしろくないんだが、これがやたらと長いんだ・・・。眺めているうちに睡魔が忍び寄ってきて、夢とうつつを行き来する(てへ)。人気の絶頂から凋落し、嫉妬や猜疑で闇に堕ちていくヘンリーも、虚構と現実を行き来する。ヘンリーとアンのあいだに生まれた娘アネットの姿はチャッキー・・・じゃなくて木製人形だ。ヘンリーにとって家族は虚構なのだろう、もはや喜劇である。アネットは「父と娘、野蛮さと幼少期をつなぐリンク」というサルのぬいぐるみを抱いている。カラックスはなぜこの映画を実娘に捧げたのだろうと考える。
 
カラックスらしい、実験的な作品だったと思う。そういう意味では目撃しておく価値はあるだろう。それにしても長くて、ものすごく疲れた。久々に行った渋谷ユーロスペースの座席のシート、めちゃくちゃ尻が痛くなるやんけ。あと、敬語で会話してる結婚相談所かなんかで知り合ったような距離感のカップルが近くに座ってて、完全に映画のチョイス間違ってるし、このあとディナーでどんな会話するんだろうと気になって仕方なかった。敢えて選んでいるとしたら、かなりの猛者。もし心当たりのある方がいたら、ぜひその後の展開を教えていただきたい。
 

trailer: