銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】カモン カモン

映画日誌’22-17:カモン カモン
 

introduction:

20センチュリー・ウーマン』『人生はビギナーズ』のマイク・ミルズ監督が、気鋭の映画スタジオA24と再びタッグを組んだヒューマンドラマ。『ジョーカー』の怪演でアカデミー主演男優賞を獲得したホアキン・フェニックス演じる男が、9歳の甥との共同生活に戸惑いながらも歩み寄っていく日々を美しいモノクロームの映像で描く。共演は新星ウッディ・ノーマン、『わたしに会うまでの1600キロ』などのギャビー・ホフマンらが共演。音楽をロックバンド「ザ・ナショナル」のアーロン・デスナーとブライス・デスナーが担当する。(2021年 アメリカ)
 

story:

ニューヨークで独身生活を送るラジオジャーナリストのジョニーは、ロサンゼルスに住む妹に頼まれ、9歳の甥ジェシーの面倒をみることに。突然始まった共同生活に戸惑うジョニーだったが、好奇心旺盛なジェシーは、ジョニーがいまだ独身でいる理由や自分の父親の病気に関する疑問をストレートに投げかけてくる。ジェシーに困惑させられる一方で、彼はジョニーの仕事や録音機材にも興味を示し、それをきっかけに二人は次第に心の距離を縮めていく。やがて仕事のためニューヨークに戻ることになったジョニーは、ジェシーを連れていくことを決めるが...。
 

review:

問題作を世に送り出す「A24」謹製だわ、『ジョーカー』で狂気を体現したホアキン・フェニックスが主演だわで、躊躇ってしまう人もいるかもしれないが、安心してください。マイク・ミルズの作品はとにかく心地よい。抑圧気味なのにエモーショナルな演出、気が利いた、それでいて無駄のない脚本。そして、どこを切り取っても、映像と音楽が素敵だ。前作の『20センチュリー・ウーマン』も、20世紀後半の世相を映すドキュメンタリーのようにリアルな日常の描写を積み上げる、素晴らしい作品だった。A24はアリ・アスターに胸糞映画撮らせたりしながら5本に1本くらい、ハートに優しいヒューマンドラマ創るよね・・・(適当)。
 
マイク・ミルズは一貫して、「一番近い他人」である家族との「分かり合えなさ」を描いてきた。彼の言葉を借りれば、”すべての家族はどこか「壊れて」いて、それでも一緒にいる” ものであり、その在り方はさまざま。よって、彼の作品にありきたりな家族の概念や古臭い家族観などは登場しないし、”普通”ではない家族を異質なものとして扱うこともない。ごく自然にありのまま、「とある家族の物語」を映し出していくのだ。
 
本作でも、伯父と甥っ子が戸惑いと衝突を繰り返しながら毎日を積み重ね、信頼関係を築いていく過程が描かれる。柔らかい手触りのモノクローム映像で紡がれる、痛ましくも優しい世界にじっ・・・と見入ってしまった。また、彼らの交流と呼応するように、ラジオジャーナリストのジョニーによる子どもたちへのインタビューが挿入される。これは実際に取材した9〜14歳の子どもたちの生の声だそうだ。自分たちの生活について、世界や未来について率直に語る彼らの言葉が、「とある家族の物語」にとてつもない瑞々しさをもたらしている。
 
それはこれまでに体験したことのない感覚だったし、何かがじんわりと胸の奥で広がった。仕事で子どもと関わりながら子を持たないジョニーが、ひとりの子どもと人として向かい合うことで、子どもの声に耳を傾けること、子どもの存在と未来に対する大人の責任を実感したように。私自身がジョニーと似たような境遇だからこそ、余計にそう思うのかもしれない。デトロイト、ロサンゼルス、ニューヨーク、ニューオリンズ。歴史も風景もまったく異なるアメリカの4都市をめぐるジョニーの心の旅路。ずっと眺めていたい、愛おしい時間だった。
 

trailer: