銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】ディア・エヴァン・ハンセン

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映画日誌’21-49:ディア・エヴァン・ハンセン
 

introduction:

トニー賞で6部門を受賞し、グラミー賞エミー賞にも輝いたブロードウェイミュージカルを映画化。監督は『ワンダー 君は太陽』などのスティーヴン・チョボスキー、『ラ・ラ・ランド』『グレイテスト・ショーマン』の名コンビ、ベンジ・パセック&ジャスティン・ポールが楽曲を手がける。主演は舞台版に続きベン・プラットが務め、『メッセージ』などのエイミー・アダムス、オスカー女優ジュリアン・ムーア、『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』などのケイトリン・デヴァーらが共演する。(2021年 アメリカ)
 

story:

学校に友達もなく、家族にも心を開けずにいる高校生のエヴァン・ハンセン。ある日、自分宛てに書いた“Dear Evan Hansen(親愛なるエヴァン・ハンセンへ)”から始まる手紙を、同級生のコナーに持ち去られてしまう。後日、コナーは自ら命を絶ち、その手紙を見つけた彼の両親はエヴァンを息子の親友だったと勘違いすることに。悲しみに暮れる遺族を苦しめたくない一心で話を合わせて嘘をつき、ありもしないコナーとの思い出を語るエヴァンだったが、そのエピソードが人々を感動させSNSを通じて世界中に広がっていき...
 

review:

ミュージカル「ディア・エヴァン・ハンセン」はブロードウェイで初めてSNSを題材に扱い、初上演後たちまち全米で社会現象となりチケットは連日完売する大人気作品となったそうだ。 映画化にあたり、ブロードウェイ版の初代エヴァン役で繊細な演技と抜群の歌唱力が大絶賛されたベン・プラットが起用されている。
 
が、主人公のエヴァンが高校生には見えないおっさん顔で困惑。撮影当時28歳だったらしいけど、冴えないヘアスタイルも相俟って無理がある。フレッシュ感のないおっさん高校生、基本ひとりぼっちなのでモブが出てこず、ひらすら朗々と独唱。しかも歌の尺は長いのに、それ以外が駆け足で描き方が雑。エヴァンやコナーの心が追い詰められてしまった背景すら語られないので感情移入できない。
 
ミュージカルは思いや心情を歌にのせて表現するものだが、『レ・ミゼラブル』の「夢やぶれて」や『グレイテスト・ショーマン』の「This Is Me」みたいに胸に迫り来るようなものはなく、なぜか心に響かない。ミュージカルであることが全く効果的でないのである。この映画のハイライトでもある、人々の共感を呼ぶシーンにも全く共感できない。だって嘘だし。
 
そう、元も子もないことを言ってしまうと、そもそも、設定とストーリー構成がよろしくない。とっさについた”嘘”が大きな出来事に発展してしまうのだけど、”自死”というシリアスで重いテーマを絡めてしまったことでモヤモヤしてしまう。息子を失った遺族に対してスラスラと嘘をつく主人公にドン引きするし、これ幸いと妹に近付くのも冷静に考えたら気持ち悪すぎる。
 
死んだから、バズったから手のひらを返したようにすり寄ってくる人々、薄っぺらい友情ごっこを延々と見せられる。コナーにもエヴァンにも誰ひとり心から寄り添ってないのに、「あなたはひとりじゃない」って言われても何の説得力もない。面白い面白くないという次元ではなく、これは好きじゃなかったなぁ。ジュリアン・ムーアの存在感と、”家族の友達”であるジャレットのコミカルな演技に笑わされたのが救い。
 

trailer:

【映画】マリグナント 狂暴な悪夢

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映画日誌’21-48:マリグナント 狂暴な悪夢
 

introduction:

大ヒットシリーズ『ソウ』『死霊館』の生みの親、ジェームズ・ワンがオリジナルストーリーで描くホラー。ジェームズ・ワンが製作と監督を務め、『スカイスクレイパー』などのエリック・マクレオド、『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』などのジャドソン・スコットらが製作総指揮に名を連ねる。『アナベル 死霊館の人形』などのアナベル・ウォーリス、『アイ・ソー・ザ・ライト』などのマディー・ハッソン、『ギフテッド』などのマッケンナ・グレイスが出演する。(2021年 アメリカ)
 

story:

あることがきっかけで、目の前で恐ろしい殺人が繰り広げられるのを目撃する悪夢に悩まされるようになったマディソン。謎めいた漆黒の殺人鬼が超人的な能力で次々と人を殺めていく現場に、為す術なく居合わせてしまうのだ。しかも夢の中で見たものが現実世界の殺人事件となり、殺人が起きるたびにマディソンは夢と現実の境目が曖昧になっていく。同時に、自らの過去の秘密が明らかになっていき...
 

review:

ワン君、ヤキが回ったな。ジェームズ・ワンはね、『ソウ』シリーズで世界中を絶望のどん底に突き落とし、『死霊館』シリーズで世界中を恐怖に震え上がらせた、ホラーの申し子。そんなジェームズ・ワンの新作ホラーとなれば、嬉々として映画館に行くでしょうよ。そんな輩が世界中にいたでしょうよ。その一人が私だったのであるが、蓋を開けてみるとそれは、みんなで酒飲んで笑いながら観る”アレ”なB級ホラー映画であった。
 
ホラーのお約束が盛りだくさん。これから怖いことが起きますよの音楽はもはや様式美。しかしホラーとしては全然怖くない。驚くほど怖くない。その代わり、え、うそや〜ん、今の笑うところだよね・・・。ってシーンがちょいちょい。展開は想定の範囲内で、手塚治虫萩尾望都を読んで育った子にはあるあるなので途中で先が読めた。もう一捻りできただろうに、脚本が作り込めてない印象。いろいろやりっ放しで設定を回収できてない。
 
途中からただのモンスターアクションになり、アジア系の俳優さんが演じてたケコア・ショウ刑事の身体能力すげぇーとしか思ってなかった。妹ちゃん夜の廃病院に一人でいくなやだし、あっさり物証見つかりすぎやし、電気系統を操作できるようになった理由は分からんし、ラストシーンはかーちゃんの満面の笑顔に失笑。てか、そこで終わるんか〜い。結局何を見せられていたんだろうという気持ちになるが、結構楽しめたのも事実。
 
ところで幼少期のマディソンを演じていたのは『ギフテッド』のマッケンナ・グレイス。大きくなりましたのう。ショウ刑事もノックアウトされてたマディソン妹役の女優さんがキュートだった。そしてマディソン夫役の俳優さんがいかにもDV夫でホラーですぐ死んじゃう顔してるんだが、ああいう俳優さんって将来の展望はどうなってるんだろうと、マディソンの今後(裁判でどうやって証明すんのよ)より気に掛かったのであった・・・。
 

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【映画】皮膚を売った男


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映画日誌’21-47:皮膚を売った男
 

introduction:

チュニジアのカウテール・ベン・ハニア監督が、芸術家ヴィム・デルボア氏が2006年に発表した作品「TIM」に影響を受け、オリジナル脚本を書き上げた人間ドラマ。自由を求めて自らがアート作品となる契約を交わした男の運命を描く。普段はシリアで弁護士をしているヤヤ・マヘイニが映画初出演で主演を勤めたほか、『オン・ザ・ミルキー・ロード』などのモニカ・ベルッチ、『Uボート:235 潜水艦強奪作戦』などのケーン・デ・ボーウらが出演する。第93回アカデミー賞国際長編映画賞ノミネート、第77回ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門男優賞受賞。(2020年 チュニジア,フランス,ベルギー,スウェーデン,ドイツ,カタール,サウジアラビア)
 

story:

内戦の続くシリアから脱出し難民となったサムは、偶然出会った芸術家から驚くべき提案をされる。それは、大金と自由を手に入れる代わりに、背中にタトゥーを施し彼自身が「アート作品」になることだった。美術館に展示されれば世界を自由に行き来できるようになり、サムは離れ離れになっていた恋人に会いにいくためそのオファーを受け入れる。世界中の注目を集め、高額で取引される身となったサムだったが、やがで精神的に追い詰められていき...。
 

review:

本作はベルギーのネオ・コンセプチャル・アーティスト、ヴィム・デルボア氏が2006年に発表した作品「TIM」に影響を受けている。「作品」となったティム・ステイナー氏は、年に何度か展覧会に「出展」される。また、2008年に個人のアートコレクターに購入されており、彼の死後はタトゥー部分を額装しアート作品として提供する契約を結んでいるそうだ。
 
シリア難民の男性が離れ離れになった恋人に会うため、自らアート作品となることで「自由に」外国を行き来できる権利を手に入れる。プロットはとても興味深いのに、如何せん映画のつくりが全体的に雑。そしてサムとアビールの関係が腑に落ちない。文化の違いなのか、生き抜くためにはそうするしかなかったのかもしれないが、互いをかけがえなく思い合っているようには見えないし、二人の絆も感じられず脚本に説得力がない。
 
その上、どの役者も下手でやや興醒める。納得づくで契約してるはずなのに自分の役割をきちんと果たそうとせず、何かと自我を出し、挑発的な態度のサムにイライラさせられる。サムに振り回されてるこの金髪の派手なおばちゃん気の毒と思ってたら、イタリアの至宝モニカ・ベルッチやないかいー!いつかのボンドガールが全然美しく映ってないのもギルティ。
 
ただ、人間の自由、尊厳とはなにかということを唸るほど考えさせられた。そういう意味では見応えがあった。シリア国外に脱出したサムが働くヒヨコの工場は、支配され運命を自分で決められない人間のメタファーだろうか。自らの肉体と引き換えに手に入れたはずの自由は幻想にすぎず、もっと不自由な身の上になってしまう。そして塀の中に舞い戻ることで自由になる皮肉。
 
恵まれた人と呪われた人とで交わされる契約を通して、難民問題をめぐる偽善や現代アートにはびこる知的欺瞞を描いているものの、風刺と呼ぶには中途半端で社会派ドラマとは呼べるものではない。が、理不尽な世界をシニカルに描き、エンターテイメントとしては面白さがあった。
 

trailer:

【映画】リスペクト

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映画日誌’21-46:リスペクト
 

introduction:

「ソウルの女王」と称されるアレサ・フランクリンの半生を描いた伝記ドラマ。『ドリームガールズ』でアカデミー賞助演女優賞を受賞、歌手としてもグラミー賞を制したジェニファー・ハドソンが、本人から指名されアレサ役を演じる。監督はドラマ「ウォーキング・デッド」などに携わってきたリーズル・トミー。『ラストキング・オブ・スコットランド』でオスカーを獲得したフォレスト・ウィテカーのほか、『最凶赤ちゃん計画』などのマーロン・ウェイアンズ、『ボディカメラ』などのメアリー・J・ブライジらが共演する。(2021年 アメリカ)
 

story:

子どもの頃から圧倒的な歌唱力で天才と称され、ショービズ界で成功を納め世界的なスターへと上り詰めたアレサ・フランクリン。しかし華々しい活躍の裏には、尊敬する父、愛する夫からの束縛や裏切りがあった。精神的に追い詰められたアレサは、全てを捨て自分の力で生きていく決断をする。やがてアレサの心の叫びを込めた歌声は世界を熱狂させ、人々を歓喜と興奮で包み込んでいった。
 

review:

2018年8月16日、惜しくもこの世を去ったアレサ・フランクリン。ローリング・ストーン誌が選ぶ「史上最も偉大な100人のシンガー」の第1位に選ばれた伝説的存在だ。幼少期から父の教会でゴスペルを歌い育ったアレサ。最初に契約したコロンビア・レコードでは鳴かず飛ばずだったが、その後移籍したアトランティック・レコードでは持ち前の才能を開花させヒットを飛ばし、スターダムへと駆け上がっていく様子が描かれる。
 
アレサとセッションし、彼女の元来の音楽性を引き出したスタジオミュージシャンたちが白人なのが興味深かった。元々は白人のカントリーを演奏していた彼らが、アレサとの共創を通して無敵のR&Bを奏でる集団になったそうだ。彼らと作り上げた”I Never Loved a Man”や姉妹たちと生み出した”Respect”など、アレサの名曲たちが生まれる瞬間を目撃できる至福。スクリーンから彼らが生み出すグルーヴが伝わってくる。音が「鳴る」映画は理屈抜きで楽しいし、否応無しに興奮させられる。
 
アレサが世俗音楽に身を転じた60年代は、公民権運動が高まりを見せていた時代だ。大変有名な牧師を父に持つアレサ自身、幼少の頃よりマーティン・ルーサー・キング牧師との交流があり、公民権運動に積極的に関わってきた。そうした背景もきちんと描かれている。輝かしい成功の影でさまざまな苦悩や問題を抱え、人として、女性として真の自由を求めて闘い続けるアレサの姿に心を揺さぶられた。
 
そしてアレサは、自らのルーツであるゴスベル・アルバムの製作を決意する。それが『至上の愛 ~チャーチ・コンサート~(Amazing Grace)』だ。1972年1月、カリフォルニアのワッツ地区にあるニュー・テンプル・ミッショナリー・バプティスト教会で本物の聴衆の前で二晩にわたり収録されたライヴ音源は200万枚を超えるセールスとなり、彼女の歌手人生の中で最も売れたゴスペル・アルバムとなったのである。
 
その感動的な夜はワーナー・ブラザーズから公開される予定で撮影されていたのだが、長編劇映画を専門とし音楽ドキュメンタリーの撮影に慣れていなかったシドニー・ポラック監督が音と映像を合わせるための「カチンコ」を使うことを知らなかったため、編集ができず40年近く封印されてしまった。しかし収録から46年後、最新デジタル技術を使って映像と音声を同期させる作業がおこなわれ、ライブ・ドキュメンタリー『アメイジング・グレイスアレサ・フランクリン』として国内でも公開され話題となったことは記憶に新しい。
 
本作は、アレサがその「帰郷」を果たすまでの長い旅路、彼女の歌声の裏にある数多の歴史と物語が紡がれている。そして辿り着いたニュー・テンプル・ミッショナリー・バプティスト教会のシーンでは感極まって涙が止まらなかった。それを圧巻の歌唱力で体現したジェニファー・ハドソンが素晴らしいし、エンドロールで流れるアレサ本人の歌声に魂が震える。
 
私たちが進むべき道を照らしてくれるような気がして、あれからずっと、アレサを聴いている。
 
「自分自身のアーティストであれ。そして自分のやっていることに常に自信を持て」──アレサ・フランクリン
 

trailer:

【映画】ビルド・ア・ガール

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映画日誌’21-45:ビルド・ア・ガール
 

introduction:

作家やコラムニストとして活動するキャトリン・モランの自伝的小説を原作にした青春ドラマ。1990年代前半のUKロックシーンを舞台に、冴えない女子高生が辛口音楽ライターに変貌を遂げる姿を描く。主演は『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』や『レディ・バード』などのビーニー・フェルドスタイン。『ジョジョ・ラビット』などのアルフィー・アレン、『マイ・ベスト・フレンド』などのパディ・コンシダイン、『いつか晴れた日に』などのエマ・トンプソンらが共演する。(2019年 イギリス)
 

story:

1993年、イギリス郊外に家族7人で暮らす16歳のジョアンナは、底なしの想像力と文才を持て余し悶々とした日々を送っていた。そんな日常を変えたがっていた彼女は、音楽マニアの兄クリッシーの勧めで大手音楽情報誌「D&ME」のライターに応募。単身ロンドンへ乗り込んで仕事を手に入れることに成功する。しかし取材で出会ったロックスターのジョン・カイトに夢中になり、冷静な記事を書けずに大失敗してしまう。生き残るため、過激な毒舌記事を書きまくる“ドリー・ワイルド”として再び音楽業界に返り咲き、人気が爆発した彼女だったが...
 

review:

オアシス、ブラー、プライマル・スクリームハッピー・マンデーズマニック・ストリート・プリーチャーズ・・・90年代前半のUKロックシーンを背景に描かれる、音楽ライターとしてロック・ジャーナリズム業界をたくましく渡り歩く16歳の少女の物語だ。原作はイギリスの作家キャトリン・モランの半自伝的小説「How To Build A Girl(女の子をつくる方法)」で、脚本もモランが手がけている。
 
青春ドラマだが、ジョアンナには優しい家族はいても、親友はいない。モランは自分がそうだったように、一人ぼっちの女の子に向けた映画をつくりたかったんだそうだ。そして労働者階級の貧困家庭で育った女の子がどうやってお金を稼げるようになるか、が重要なポイントだったと言う。何かが起こるのを待っていても人生は変わらない、という若い女性たちへのメッセージでもある。
 
モラン自身、8人きょうだいの長女で4人の妹と3人の弟がいる。父はアイルランド人で、元ドラマー。「ウルヴァーハンプトン唯一のヒッピー」だった家庭で、モランと兄弟たちは学校に通っておらず、両親からもまともな教育を受けていない。図書館に通い詰め、ほとんどの知識を本から得たモランは、10代の頃から作家になると決めていたそうだ。
 
モランは15歳でイギリスの新聞『オブザーバー』紙の若者レポーター賞を受賞し、1991年に16歳で初の小説『ナルモ年代記』を出版。同年、週刊音楽雑誌『メロディ・メイカー』で歴代最年少のロック評論家として活躍し始めた。17歳で『タイム』紙の週刊コラムニストとなり、音楽番組『ネイキッド・シティ』の司会者に抜擢されている。と言う訳で、多少のフィクションはあるものの、映画のようなストーリーはほぼ実話。
 
ちょっと過剰と思える演出もあったが、安易な恋愛ドラマに落とし込まないプロットには好感が持てたし、冴えないけど内なる何かを持て余してこじらせた女子高生を演じさせたら当代きってのビーニー・フェルドスタインが、ジョアンナこと“ドリー・ワイルド”としてがむしゃらに突き進む(そして挫折する)姿に勇気をもらえたりする。エマ・トンプソンに出会えるのもイギリス映画ならでは。楽しかった。
 

trailer:

【映画】Our Friend/アワー・フレンド

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映画日誌’21-44:Our Friend/アワー・フレンド
 

introduction:

Esquire」誌に掲載され、栄えある全米雑誌賞を受賞したマシュー・ティーグの実体験に基づくエッセイを映画化。余命宣告を受けた妻とその夫、彼らを献身的に支え続けた親友との間に結ばれた友情と絆を映し出す。『マンチェスター・バイ・ザ・シー』でオスカーを獲得したケイシー・アフレックと『サスペリア』などのダコタ・ジョンソン、『ザ・マペッツ』などのジェイソン・シーゲルが出演。監督はドキュメンタリー作品「Blackfish」で英国アカデミー賞にノミネートされたガブリエラ・カウパースウェイト。巨匠リドリー・スコットがエグゼクティブ・プロデューサーとして参加している。(2019年 アメリカ)
 

story:

2人の幼い娘を育てながら、仕事に打ち込むジャーナリストのマットと、妻で舞台女優のニコル。ある日ニコルが末期がんの宣告を受けたことから、家族の生活は一変してしまう。妻の介護と子育ての負担が重くのしかかり、追い詰められたマットに救いの手を差し伸べたのは、夫婦の長年の親友デインだった。かつて人生に絶望し、生きる希望を失いかけた時に夫婦から心を救われた過去を持つ彼は、住み込みで一家をサポートすため遠方から駆け付けるが...
 

review:

数年間、自分の生活や恋人を犠牲にして、友人の最期と向き合う。並大抵のことではないが、実話だ。2015年に雑誌「エスクァイア」に掲載されたマシュー・ティーグのエッセイ「The Friend: Love Is Not a Big Enough Word」をもとに、末期がんで余命宣告を受けた妻ニコル、彼女の夫で原作者のマシュー、彼らに寄り添った親友デイン、3人の愛と友情の物語が紡がれる。
 
題材やストーリーも悪くないし、ジェイソン・シーゲルケイシー・アフレックダコタ・ジョンソンら俳優陣の演技が素晴らしくて3人の友情に心打たれるし、子どもたちはかわいいし、人生は美しいな...とか思ったし涙が滲んだし、滲んだっていうか嗚咽したけどさ。いい映画の要素は揃っているはずなのに、何だかとても惜しいのである。
 
まず構成がいまいち。演出のためか、過去と現在を行き来しながら描かれる。告知の何年前、何年後というテロップが入るのは親切だし、確かにそれが効果的な部分もあったのかもしれないが、時系列ではないので散漫な印象になる。メッセージが曖昧になり、で、一番言いたかったことは何ですか?という気持ちになるのだ。
 
原作のタイトルは「The Friend」なので、作者が一番伝えたかったことはマシューからデインへのメッセージだったのではないかと思う。彼らの友情にきちんとフォーカスせず、デインの存在を中途半端に描いてしまったことで、使い古された感のある、ありきたりな作品になってしまったのではないだろうか。それが少し残念だった。嗚咽したけどね...。
 

trailer:

【映画】DUNE/デューン 砂の惑星

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映画日誌’21-43:DUNE/デューン 砂の惑星
 

introduction:

かつてデビッド・リンチ監督によって映画化されたフランク・ハーバートSF小説を、『ブレードランナー2049』『メッセージ』のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が新たに映像化したSFスペクタクルアドベンチャーデューンと呼ばれる惑星を舞台に繰り広げられる覇権争いを描く。主演は『君の名前で僕を呼んで』などのティモシー・シャラメ。『ライフ』のレベッカ・ファーガソン、『スパイダーマン』シリーズのゼンデイヤ、『アクアマン』のジェイソン・モモアのほか、ハビエル・バルデムオスカー・アイザックジョシュ・ブローリンステラン・スカルスガルドらが共演する。(2020年 アメリカ)
 

story:

人類が地球以外の惑星に移り住み、宇宙帝国を築いた西暦1万190年。皇帝からの命令で、その惑星を制する者が全宇宙を制すると言われる過酷な砂の惑星デューン」を統治することになったレト・アトレイデス公爵は、妻ジェシカと息子ポールとともに降り立つ。惑星では抗老化作用のある香料「メランジ」が生産され、それはアトレイデス家に莫大な利益をもたらすはずだったが、メランジの採掘権を持つハルコンネン家と皇帝による陰謀によりアトレイデス公爵は殺害されてしまう。母ジェシカとともに逃げ延びたポールは、原住民フレメンの中に身を隠すが...
 

review:

長いこと、「デューン/砂の惑星」は映画界における鬼門であった。原作の「デューン」は、アメリカのSF作家フランク・ハーバートによる古典的名作。時を遡ること半世紀超、プロデューサーのアーサー・P・ジェイコブスが映画権を獲得し、鬼才アレハンドロ・ホドロフスキーを招いて映像化に乗り出した。
 
ホドロフスキーは世界中から最高峰の才能を集めなきゃ!と張り切ってサルバドール・ダリやらミック・ジャガーやらをキャスティングし、12時間の大作にすると豪語。そのためスタジオから資金が集まらず、壮大なプロジェクトは頓挫することに。その顛末はのちに映画『ホロドフスキーのDUNE』で語られている。
 
その後、映画化権を獲得したディノ・デ・ラウレンティスによってリドリー・スコットに白羽の矢が立つものの、原作者とモメたりしつつ降板。そして『エレファント・マン』を観て衝撃を受けたラウレンティスがデヴィッド・リンチにオファーを送り、1984年、ついに「珍品」と名高い伝説のリンチ版『デューン/砂の惑星』が爆誕したのである。
 
デヴィッド・リンチが監督すると聞かされた。ショックだった。彼なら成功させるとね。あの映画を作れる才能を持つ唯一の監督だ。私の夢だった映画を他の監督が作るなんて。(中略)私は病人のようによろよろと映画館に行った。映画が始まった時には今にも泣き出しそうだった。観てる間にだんだん元気が出てきた。あまりのひどさに嬉しくなった」
(『ホドロフスキーのDUNE』より)
 

 

ファンも多いが賛否両論あり、リンチ本人も失敗作と考えているらしく今日に至るまで頑なに作品について語ろうとしないらしい。思い出したくないんだね・・・。という訳で、「デューン/砂の惑星」は半世紀にわたって映像化の試みが繰り返されてきたが、いずれも何となく残念な結果を残し、関わる人の多くを失意のどん底に落としてきた“呪われた企画”だった。
 
それを!『メッセージ』でその手腕を見せつけた、今を代表する比類なき天才ドゥニ・ヴィルヌーヴが!撮る!!と言うニュースが世界を駆け巡り、映画ファンの間に激震が走ったのである。『ブレードランナー2049』は置いといて、『灼熱の魂』で尻子玉を抜かれて以来ドゥニ・ヴィルヌーヴのフォロワーであり、ホドロフスキーの信者である私の心もざわついた。
 
公開後すぐ、グランドシネマサンシャイン池袋のチケット争奪戦に勝てる気がしなかったので二子玉川IMAXレーザーで鑑賞。一言で言うと、2時間35分の「壮大な序章」だった。そらそうだ、原作は6部作(息子たちによる完結編を入れると8部)で、「砂の惑星」はその第1作なのである。起承転結の「起」だけ観た感すごい。
 
そしてただただ、映像と音楽とティモシー・シャラメの美しさを愛でる映画であった。そもそも原作が『スター・ウォーズ』や『風の谷のナウシカ』などの作品に多大な影響を与えてきたこともあり、既視感だらけで新鮮味がないのは仕方のないことだろう。それを荘厳な映像と音楽で魅せたドゥニ・ヴィルヌーヴの仕事は素晴らしいと思う。
 
相変わらず柿の種は浮遊してたし、砂蟲(サンドワーム)はリアルだし、羽ばたき飛行機や母船のフォルムも美しい。193 cmの巨体を奮わせるジェイソン・モモアがよき。はて、ステラン・スカルスガルドがどこかに出てたはずだが、と思ったらあの浮遊してた肥満体かぁ。原型とどめてないやんけ。とりあえず、初見の方は公式サイト等で用語集と人物相関図を眺めてから観ることをおすすめする。ぜひIMAXのスクリーンで。
 

trailer: