銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】DUNE/デューン 砂の惑星

f:id:sal0329:20211106210349p:plain

映画日誌’21-43:DUNE/デューン 砂の惑星
 

introduction:

かつてデビッド・リンチ監督によって映画化されたフランク・ハーバートSF小説を、『ブレードランナー2049』『メッセージ』のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が新たに映像化したSFスペクタクルアドベンチャーデューンと呼ばれる惑星を舞台に繰り広げられる覇権争いを描く。主演は『君の名前で僕を呼んで』などのティモシー・シャラメ。『ライフ』のレベッカ・ファーガソン、『スパイダーマン』シリーズのゼンデイヤ、『アクアマン』のジェイソン・モモアのほか、ハビエル・バルデムオスカー・アイザックジョシュ・ブローリンステラン・スカルスガルドらが共演する。(2020年 アメリカ)
 

story:

人類が地球以外の惑星に移り住み、宇宙帝国を築いた西暦1万190年。皇帝からの命令で、その惑星を制する者が全宇宙を制すると言われる過酷な砂の惑星デューン」を統治することになったレト・アトレイデス公爵は、妻ジェシカと息子ポールとともに降り立つ。惑星では抗老化作用のある香料「メランジ」が生産され、それはアトレイデス家に莫大な利益をもたらすはずだったが、メランジの採掘権を持つハルコンネン家と皇帝による陰謀によりアトレイデス公爵は殺害されてしまう。母ジェシカとともに逃げ延びたポールは、原住民フレメンの中に身を隠すが...
 

review:

長いこと、「デューン/砂の惑星」は映画界における鬼門であった。原作の「デューン」は、アメリカのSF作家フランク・ハーバートによる古典的名作。時を遡ること半世紀超、プロデューサーのアーサー・P・ジェイコブスが映画権を獲得し、鬼才アレハンドロ・ホドロフスキーを招いて映像化に乗り出した。
 
ホドロフスキーは世界中から最高峰の才能を集めなきゃ!と張り切ってサルバドール・ダリやらミック・ジャガーやらをキャスティングし、12時間の大作にすると豪語。そのためスタジオから資金が集まらず、壮大なプロジェクトは頓挫することに。その顛末はのちに映画『ホロドフスキーのDUNE』で語られている。
 
その後、映画化権を獲得したディノ・デ・ラウレンティスによってリドリー・スコットに白羽の矢が立つものの、原作者とモメたりしつつ降板。そして『エレファント・マン』を観て衝撃を受けたラウレンティスがデヴィッド・リンチにオファーを送り、1984年、ついに「珍品」と名高い伝説のリンチ版『デューン/砂の惑星』が爆誕したのである。
 
デヴィッド・リンチが監督すると聞かされた。ショックだった。彼なら成功させるとね。あの映画を作れる才能を持つ唯一の監督だ。私の夢だった映画を他の監督が作るなんて。(中略)私は病人のようによろよろと映画館に行った。映画が始まった時には今にも泣き出しそうだった。観てる間にだんだん元気が出てきた。あまりのひどさに嬉しくなった」
(『ホドロフスキーのDUNE』より)
 

 

ファンも多いが賛否両論あり、リンチ本人も失敗作と考えているらしく今日に至るまで頑なに作品について語ろうとしないらしい。思い出したくないんだね・・・。という訳で、「デューン/砂の惑星」は半世紀にわたって映像化の試みが繰り返されてきたが、いずれも何となく残念な結果を残し、関わる人の多くを失意のどん底に落としてきた“呪われた企画”だった。
 
それを!『メッセージ』でその手腕を見せつけた、今を代表する比類なき天才ドゥニ・ヴィルヌーヴが!撮る!!と言うニュースが世界を駆け巡り、映画ファンの間に激震が走ったのである。『ブレードランナー2049』は置いといて、『灼熱の魂』で尻子玉を抜かれて以来ドゥニ・ヴィルヌーヴのフォロワーであり、ホドロフスキーの信者である私の心もざわついた。
 
公開後すぐ、グランドシネマサンシャイン池袋のチケット争奪戦に勝てる気がしなかったので二子玉川IMAXレーザーで鑑賞。一言で言うと、2時間35分の「壮大な序章」だった。そらそうだ、原作は6部作(息子たちによる完結編を入れると8部)で、「砂の惑星」はその第1作なのである。起承転結の「起」だけ観た感すごい。
 
そしてただただ、映像と音楽とティモシー・シャラメの美しさを愛でる映画であった。そもそも原作が『スター・ウォーズ』や『風の谷のナウシカ』などの作品に多大な影響を与えてきたこともあり、既視感だらけで新鮮味がないのは仕方のないことだろう。それを荘厳な映像と音楽で魅せたドゥニ・ヴィルヌーヴの仕事は素晴らしいと思う。
 
相変わらず柿の種は浮遊してたし、砂蟲(サンドワーム)はリアルだし、羽ばたき飛行機や母船のフォルムも美しい。193 cmの巨体を奮わせるジェイソン・モモアがよき。はて、ステラン・スカルスガルドがどこかに出てたはずだが、と思ったらあの浮遊してた肥満体かぁ。原型とどめてないやんけ。とりあえず、初見の方は公式サイト等で用語集と人物相関図を眺めてから観ることをおすすめする。ぜひIMAXのスクリーンで。
 

trailer:

【映画】最後の決闘裁判

f:id:sal0329:20211102201931p:plain

映画日誌’21-42:最後の決闘裁判
 

introduction:

史実を描いたエリック・ジェイガーによる「最後の決闘裁判」を原作にした歴史ミステリー。アカデミー脚本賞受賞作『グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち』以来のタッグとなるマット・デイモンベン・アフレックによる脚本を、巨匠リドリー・スコット監督が映像化した。マット・デイモンベン・アフレックの他、ドラマシリーズ「キリング・イヴ/Killing Eve」『フリー・ガイ』などのジョディ・カマー、『スター・ウォーズ』シリーズなどのアダム・ドライバーらが出演する。(2021年 アメリカ)
 

story:

1386年、百年戦争さなかの中世フランス。騎士カルージュの妻マルグリットが、夫の旧友ル・グリに乱暴されたと訴えるが、彼は無実を主張し、目撃者もいない。​真実の行方は、夫と被告による生死を懸けた“決闘裁判”に委ねられることに。勝者は正義と栄光を手に入れるが、敗者は罪人として死罪になる。そして、もし夫が負ければ、マルグリットも偽証の罪で火炙りの刑を受けることになるのだ。果たして、カルージュとル・グリのどちらが裁かれるべきなのか、「神による絶対的な裁き」が始まるが...
 

review:

14世紀のフランスで実際に起きた、いまだ真相不明なフランス最後の決闘裁判を描いた歴史ミステリーだ。決闘裁判とは、証人や証拠が不足している告訴事件を解決するために、原告と被告の両当事者が決闘し、どちらが真実なのかを決める究極の裁判。神が正しい者を勝利へを導くと考えられ、どちらかが死ぬか動けなくなるまで闘うというものだ。勝者は英雄扱いだけど、敗者はどっちにしても死罪。おそろしい。
 
被害者である騎士の妻マルグリット、被害者の夫である騎士カルージュ、被告となるも無罪を主張する夫の旧友ル・グリ、三者の視点で描かれていく。ひとつの事象を複数の視点で描くこの手法は、黒澤明の『羅生門』が始まりとされ「ラショーモン・アプローチ」と呼ばれている。最初の視点は騎士カルージュ、その次にル・グリ、最後に被害者であるマルグリット。この順番がミソであり、この作品の面白みでもある。
 
物語の肝であるマルグリット役のジョディ・カマー、細かい所作や視線で演じ分けているのが実に見事。人はいかに自分に都合よく記憶を改ざんしているか、ということを見せつけられ、我々は思いも寄らない境地に連れていかれるのだけど、何と言うか、男のプライドとか見栄とか思い込みとかまじクソ(語彙力)。
 
マルグリットに感情移入しすぎて切ない気持ちになりつつ、決闘シーンは圧巻の一言。本当に手に汗握ってしまった。いやはや、総じて面白かった。マット・デイモンベン・アフレックの脚本も良かったし、それをドラマの巨匠リドリー・スコットが撮ったらそりゃ面白いに決まっている。現在御歳83歳のリドリー・スコット先生、歩く世界遺産にしたいし、できるだけ長生きしていただきたい。
 
本作は、原作『最後の決闘裁判』の著者エリック・ジェイガーによる、10年にもわたる広範囲で詳細なリサーチ研究を基に製作されているが、ジェイガーはコンサルタントというポジションで脚本にも参加し、「脚本家たちのために、系図学に関するものから、婚礼における慣習や葬儀における儀式、軍事的な専門用語など多岐にわたり調査した」んだそうだ。当時の文化風習に触れられるのも興味深い。
 
中世ヨーロッパの街並みだとか城だとか騎士だとか王侯貴族だとか魔法使いだとかファンタジーにつきものだけど、映画なんかで生々しい中世の暮らしを知れば知るほど、野蛮!不潔!悪臭!人権!暗黒時代!!って思うよね・・・。もう絶対この時代のヨーロッパに生まれなくて良かったと思うし、絶対に異世界転生したくなーいー。でもマルグリットが現代に異世界転生してきたら、まじあいつクソだなって盛り上がりたい。
 

trailer:

【映画】TOVE/トーベ

f:id:sal0329:20211030231837p:plain

映画日誌’21-41:TOVE/トーベ
 

introduction:

世界中で愛される「ムーミン」の原作者トーベ・ヤンソンの半生を描いたドラマ。『マイアミ』などのザイダ・バリルートが監督を務め、2014 年にトーベ・ヤンソン生誕100年を記念して制作された舞台『トーベ』で若かりし頃のトーベ・ヤンソン役を演じたアルマ・ポウスティ、『マイアミ』『ブレードランナー 2049』などのクリスタ・コソネンらが出演している。本国フィンランドでは公開されるや大ヒットし、スウェーデン語で描かれたフィンランド映画としては史上最高のオープニング成績を記録。第93回アカデミー賞国際長編映画フィンランド代表へ選出された。(2020年 フィンランド,スウェーデン)
 

story:

1944年、第2次世界大戦末期のフィンランドヘルシンキ。激しい戦火の中、画家トーベ・ヤンソン防空壕で子供たちに語った物語から、不思議な「ムーミントロール」の世界を描き始める。やがで戦争が終わるとアトリエを借りて移り住み、絵画制作に打ち込んでいくが、著名な彫刻家でもある厳格な父との軋轢、自身の芸術性が保守的な美術界の潮流とズレていく葛藤する日々。それでも若き芸術家たちとの目まぐるしいパーティーや恋愛を楽しみ、自由を渇望するトーベの思いはムーミンの物語とともに成長していく。そんなある日、トーベは舞台演出家のヴィヴィカ・バンドラーと出会い激しい恋に落ちるが...
 

review:

トーベ・ヤンソンは1914年フィンランドヘルシンキ出身。父は彫刻家、母は挿絵画家という環境に育ち、14歳で雑誌の挿絵を手がけ、以降挿絵画家としての仕事をするようになる。ストックホルムヘルシンキ、パリなどでデザインや絵を学び、油彩画家であり、フレスコ画家であり、イラストレーター、風刺画家、児童文学作家、漫画家、絵本作家、作詞家、舞台美術家、商業デザイナー、映像作家、そして小説家でもあった。
 
本作では、トーベ・ヤンソンの私生活や恋愛事情を軸に描かれる。それはムーミンが誕生した背景ではあるし、もちろんムーミンは登場するが、ムーミンそのものにフォーカスされていないのでムーミンファンには多少期待はずれかもしれない。しかも、描かれているトーベ・ヤンソンが、勝手に抱いていたイメージの斜め上をいくものなのだ。
 
エネルギッシュで情熱的、そして古い価値観や体制に迎合することなく、自由奔放。当時のフィンランドでは精神疾患および犯罪扱いだった同性愛に目覚めるのもいいし、それが不倫だったり二股だったりするのもいいとして、人間として不誠実なのである。というか、そういう描き方なのである。当時そういう価値観だったのかもしれないが、共感しづらい。
 
実際のトーベ・ヤンソンは後に出会うトゥーリッキ・ピエティラと生涯添い遂げたが、そこにはあまり触れられない。舞台演出家ヴィヴィカ・バンドラーとの情事が中心になっており、たしかに彼女との出会いはトーベを大きく成長させ、ムーミンの世界を完成に導いたかもしれないが、そこを切り取るのね・・・という気持ちになる。第2次世界大戦の戦火のなかでムーミンの物語が生まれたこと。トゥーリッキとの美しい関係。そこも描けば良かったのになぁ。
 
などと詮無いことを思ったりするが、トーベが著名な彫刻家でもある厳格な父との軋轢、自身の芸術性が保守的な美術界の潮流とズレていく葛藤を抱えながらも自分を肯定して自由に生きていこうとする姿、仕事と芸術を人生の中心に置き、創作に打ち込む姿に、月並みだが勇気づけられる。ムーミンの物語の裏側に、時代に抑圧されることなく生きた女性の人生があったことを知れてよかった。
 

trailer:

【映画】死霊館 悪魔のせいなら、無罪。

f:id:sal0329:20211025214458p:plain

映画日誌’21- 40:死霊館 悪魔のせいなら、無罪。
 

introduction:

IT/イット』『アナベル』の製作スタジオが贈る、大ヒットホラー「死霊館」ユニバースの第7作にして、実在の心霊研究家エド&ロレイン・ウォーレン夫妻の実体験をベースにしたメインストーリー『死霊館』シリーズの第3弾。ホラー界の鬼才であり、ユニバース生みの親であるジェームズ・ワンが製作に名を連ね、『エスター』のデビッド・レスリー・ジョンソン=マクゴールドリックが脚本、『ラ・ヨローナ ~泣く女~』などのマイケル・チャベスが監督を務める。シリーズを通してウォーレン夫妻を演じるパトリック・ウィルソンとベラ・ファーミガが同役を続投。(2021年 アメリカ)
 

story:

1981年、家主を22度刺して殺害した青年アーニー・ジョンソンは、悪魔に取り憑かれていたことを理由に「無罪」を主張。心霊研究家ウォーレン夫妻はアーニーを救うため、彼を凶行に走らせた悪魔の存在を証明するべく立ち上がる。警察の協力を得て調査を進める夫妻だったが、すさまじく邪悪な“何か”に極限まで追い詰められていく。
 

review:

ラノベみたいな邦題のサブタイトル気に入らない。『死霊館』シリーズはホラー映画史に遺る名作だからダメ絶対。超常現象の調査員であり作家でもあるエド&ロレイン・ウォーレン夫妻の身に実際に起きた事件を映画化したジェームズ・ワン監督『死霊館』は2013年に公開されると全世界で興行収入360億円を超えるヒットとなり、以降『死霊館 エンフィールド事件』などシリーズ化され、世界中を恐怖に陥れてきた。原題は「The Conjuring: The Devil Made Me Do It(悪魔が私にそうさせた)」であり、ダサいサブタイトルつけた配給会社はギルティ。
 
というわけで、死霊館ユニバース(The Conjuring Universe)の新作である。今回、アナベルは出てこない。いつもとは少しアプローチが異なり、悪魔祓い+ミステリーである。実際の事件は、1981年2月16日、コネチカット州ブルックフィールドで造園土木業に従事する19歳のアーニー・ジョンソンが家主のアラン・ボノをナイフで複数回刺して殺害したが、彼は弁護士と共に「すべて悪魔のせい」と無罪を主張した、というものだ。ウォーレン夫妻がアーニーの家族から相談を受けていたことも、事件後現地の警察に連絡しアーニーの犯行は悪魔の憑依が原因と主張したことも事実である。
 
霊感探偵ロレイン大活躍でミステリー要素が強いため、『死霊館』シリーズで味わってきた背筋が凍るような恐怖感は少ない。これまでの作品では、実際に起きた心霊現象から浸み出す正体不明の”違和感”が説明のつかない恐怖を生み出してきたが、そうした要素が排除されておりホラー映画としてはマイルド。死霊館ユニバースのコアなファンにとっては若干期待はずれではあったが、とは言えジェームズ・ワンが背後にいるだけのことはあり、これはこれで面白かった。エド&ロレインの夫婦愛もお約束。
 
そんなことよりだな。上演中にずっと後方からヒソヒソと話し声と笑い声が聞こえてきて気になって仕方がなく、しかもエンドロールが始まると同時にスマホのライトで会場内を照らすなど、ずいぶんと非常識な二人連れがいるんだなぁと思っていたんだが。終演後に明るくなって振り返ってみたらそんな二人連れはおらず、一人でニヤニヤ笑いながら一人で喋ってる若い女性がいらっしゃってだな。こわかったよ・・・。
 

trailer:

【映画】007/ノー・タイム・トゥ・ダイ

f:id:sal0329:20211022202441p:plain

映画日誌’21-39:007/ノー・タイム・トゥ・ダイ
 

introduction:

イギリスの敏腕諜報員ジェームズ・ボンドの活躍を描く007シリーズの第25弾。ダニエル・クレイグが5度目のボンドを演じ、前作「007 スペクター」から引き続きレア・セドゥーベン・ウィショーナオミ・ハリスロリー・キニアレイフ・ファインズらが共演。新たに『ボヘミアン・ラプソディ』などのラミ・マレック、『ブレードランナー 2049』などのアナ・デ・アルマス、『キャプテン・マーベル』などのラシャーナ・リンチらが出演し、『ビースト・オブ・ノー・ネーション』の日系アメリカ人キャリー・ジョージ・フクナガが監督を務める。(2020年 イギリス,アメリカ)
 

story:

エージェントを退いた007ことジェームズ・ボンドは、ジャマイカで静かに暮らしていたが、ある日、CIAエージェントの旧友フェリックス・ライターが助けを求めてきたことで平穏な日常は終わりを告げてしまう。誘拐された科学者を救出する任務についたボンドだったが、それは想像を遥かに超えた過酷なものとなり、世界に脅威をもたらす凶悪な最新技術を有する黒幕を追うことになる。
 

review:

2020年4月に世界公開の予定だった本作、新型コロナウイルス感染拡大の影響で公開延期になること数回。もとはと言えば2019年に公開される予定だったが、監督に就任したダニー・ボイルと制作陣のあいだにクリエイティブ面で摩擦が起き、キャリー・フクナガに監督交代したことで公開が一年遅れていた。という訳で、待ちに待ったダニエル・クレイグ最後のジェームズ・ボンドとやっとご対面してきた。
 
前作までのストーリーを復習してから観たほうが良さそうだが、いつもの展開だし、退屈する暇ないから大丈夫。えっとお前誰だっけってなるからマドレーヌが誰かくらいは思い出しておこう。アナ・デ・アルマス演じるボンドガール、パロマの戦闘シーンが美しくて眼福。トヨタ車つよい!つよいぞトヨタ!ランドローバーもぶっ飛ばしちゃうぞ!っていうかボンド不死身過ぎ。いくらなんでも死ななさ過ぎだろう・・・。でもいいのだ、だってダニエル・クレイグだから。
 
007はダニエル・クレイグのシリーズしか観てない不届き者なので、ジェームズ・ボンド哲学的なことはよく分からないが、これほどまでに人間味あふれるボンドは初めてなのでは?良くも悪くもジェームズ・ボンド像を持たないファンとしては問題ないが、なかなか衝撃的な展開がいくつかあったし、古参のファンにとってどうだったんだろう?と思ったりもする。
 
とは言え、15年間我々を楽しませてくれたダニエル・クレイグジェームズ・ボンドともこれでお別れ。抜擢当初は金髪碧眼で身長低めのムキムキマッチョっていう見た目から保守的なファンにバッシングされつつ、それを跳ね返すように懸命に取り組み、新しいジェームズ・ボンド像を見せてくれたダニエル・クレイグには本当にありがとうと言いたい。知らんけど。次のボンドがどうなるのか気になる。知らんけど。まこと見事な、有終の美であった。
 

trailer:

【映画】マルジェラが語る“マルタン・マルジェラ”

f:id:sal0329:20211019211504p:plain

映画日誌’21- 38:マルジェラが語る“マルタン・マルジェラ
 

introduction:

謎に包まれたファッションデザイナー、マルタン・マルジェラ氏の素顔に迫るドキュメンタリー。監督は『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』などのライナー・ホルツェマーが難攻不落と思われたマルジェラ本人の信頼を勝ち取り、「顔は映さない」「このドキュメンタリーのためだけ」という条件のもと、ドローイングや膨大なメモ、初めて自分で作った服などプライベートな記録を初公開。これまで一切語ることのなかったキャリアやクリエイティビティについて、マルジェラ本人が語る。ファッションデザイナーのジャン=ポール・ゴルチエ氏やカリーヌ・ロワトフェルド氏らが出演。(2019年 ドイツ,ベルギー)
 

story:

1957年4月9日ベルギーのルーヴェンに生まれたマルタン・マルジェラは、アントワープ王立芸術学院ファッション学科で学ぶ。ジャン=ポール・ゴルチエ氏のアシスタントを経て、ジェニー・メレンズと共同で自身のブランド「メゾン マルタン マルジェラ」を立ち上げ、パリ2区レオミュール通り103番地のアパルトマンで開業した。
 

review:

メゾン・マルジェラと言えば、おしゃれ番長さんたちが必ず持ってるTabiシューズと、タグが縫い付けられた白いステッチ。私もTabiが欲しいけれど、折り紙にインスパイアされた「ジャパニーズ」のバッグと、小さなお財布しか持っていない。それほどマルタン・マルジェラことを知っている訳ではなかったが、その独創性な世界がどのように構築されたのか知りたくて劇場に足を運んだ。
 
時代の美的価値に挑戦し、服の概念を解体し続けたマルタン・マルジェラは、キャリアを通して一切公の場に姿を現さず、あらゆる取材や撮影を断り続け匿名性を貫いたそうだ。彼の写真をネットで探してみたけれど、若い頃のものと思われる一枚だけが見つかった。「顔を出さずに名を成すのはすごく難しい」と本人も語っていたが、「作品が全て」と言い切る姿勢が尊い
 
初めて自分で作った服、ドローイングや膨大なメモなど、プライベートな記録を初公開し、ドレスメーカーだった祖母の影響、ファッションデザイナーを夢見た幼少期、ジャン=ポール・ゴルチエのアシスタント時代、メゾン・マルタン・マルジェラの立ち上げ、エルメスのデザイナー就任、そして51歳にして突然の引退について、初めてマルジェラ自身がカメラの前で語る。
 
対象者に対して極めて誠実な態度を貫き、粘り強くマルジェラの信頼関係を築いたライナー・ホルツェマーだから撮れた、貴重なドキュメンタリー映像だ。ホルツェマーは実に長い時間をかけて、マルタン自身がごく自然に語る声を記録し続けた。顔が映っていないにもかかわらず、マルジェラのエレガントな手の動きをとらえた美しい映像によって、彼の精神の奥深いところまで旅をすることができる。
 
創作することの美しさ。表現することの美しさ。天才の所業。そういうものを目の当たりにして、自分の中の何かに火がついたような気がした。真に価値ある時間だった。
 

trailer:

【映画】スイング・ステート

f:id:sal0329:20211016002332p:plain

映画日誌’21- 37:スイング・ステート
 

introduction:

ブラッド・ピット率いるPLAN Bが制作する、選挙エンタテインメントコメディ。米大統領選でトランプに敗北した民主党選挙参謀が、起死回生を狙い大統領選挙の勝敗の鍵を握る激戦州「スイング・ステート」の町長選挙で大波乱を巻き起こす。監督・脚本は、16年間にわたりコメディ・セントラルの「ザ・デイリー・ショー」の司会を務め、アカデミー賞授賞式でも2度司会を担当したジョン・スチュワート。『フォックスキャッチャー』などのスティーヴ・カレルアカデミー賞助演男優賞受賞の名優クリス・クーパー、『オデッセイ』『ブレードランナー2049』などのマッケンジー・デイヴィスが出演する。(2020年 アメリカ)
 

story:

アメリカ大統領選挙ヒラリー・クリントンが敗北した民主党選挙参謀ゲイリー・ジマーは打ちのめされていたが、ウィスコンシン州の小さな町役場で不法移民のために立ち上がる退役軍人ジャック・ヘイスティングス大佐のYouTube動画を見て、彼こそが中西部の農村で民主党の票を取り戻す秘策だと確信。ディアラケンへと赴き、大佐に民主党からの町長選出馬を要請する。大佐の娘ダイアナや住民のボランティアたちと地道な選挙活動をスタートさせると、共和党対立候補の現役町長ブラウンの選挙参謀としてゲイリーの宿敵フェイス・ブルースターを送り込む。小さな町の町長選をめぐって、ゲイリー対フェイス、民主党共和党の巨額を投じた代理戦争の幕が切って落とされた。
 

review:

アメリカでは19世紀後半以降、共和党民主党が二大政党として圧倒的な力を維持してきた。近現代の大統領は、いずれかの党から輩出されてきた。「スイングステート(Swing States)」とは、アメリカ大統領選の際に共和党または民主党が拮抗し、選挙毎に結果が変わる州のことなんだそうだ。勝敗の鍵を握っている州とも言える。
 
共和党は保守、中西部から南部、農業地帯の敬虔なキリスト教者や白人、労働者からの支持を集め、歴代大統領にはブッシュやトランプがいる。民主党はリベラル、東海岸や西海岸、大都市の富裕層や高学歴層、マイノリティの支持を集め、歴代大統領にはオバマクリントンがいる。
 
2016年11月8日、トランプ氏がアメリカの第45代大統領に当選し、全米どころか世界に激震が走ったことは記憶に新しい。これは、トランプにまさかの大敗を喫した民主党ヒラリー・クリントン陣営の選挙参謀ゲイリーが、起死回生を狙ってスイング・ステートウィスコンシンを足掛かりに地盤を広げるべく、田舎町ディアラケンの町長選挙に乗り込む物語だ。
 
到着した翌日には街じゅうに自分のことが知れ渡っていたりWi-Fiがなかったり、田舎町ならではの洗礼を受けながらもゲイリーはあの手この手でヒト・モノ・カネと情報を集め、共和党が送り込んだ宿敵、トランプの選挙参謀フェイス・ブルースターを相手に選挙戦を闘う。参謀ってサイコパスじゃないと無理だな。
 
架空の小さな田舎町の選挙が民主党共和党の代理戦争になっていくストーリーをコミカルに描き、アメリカの政治システムを滑稽かつ辛辣に批判している。まさかの結末にゲイリーじゃなくても狐につままれたような気分になったが、アメリカの選挙の仕組みが解りやすく描かれており、面白かった。上映館が多くないのが残念だが、観る価値あり。
 

trailer: