銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】最後の決闘裁判

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映画日誌’21-42:最後の決闘裁判
 

introduction:

史実を描いたエリック・ジェイガーによる「最後の決闘裁判」を原作にした歴史ミステリー。アカデミー脚本賞受賞作『グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち』以来のタッグとなるマット・デイモンベン・アフレックによる脚本を、巨匠リドリー・スコット監督が映像化した。マット・デイモンベン・アフレックの他、ドラマシリーズ「キリング・イヴ/Killing Eve」『フリー・ガイ』などのジョディ・カマー、『スター・ウォーズ』シリーズなどのアダム・ドライバーらが出演する。(2021年 アメリカ)
 

story:

1386年、百年戦争さなかの中世フランス。騎士カルージュの妻マルグリットが、夫の旧友ル・グリに乱暴されたと訴えるが、彼は無実を主張し、目撃者もいない。​真実の行方は、夫と被告による生死を懸けた“決闘裁判”に委ねられることに。勝者は正義と栄光を手に入れるが、敗者は罪人として死罪になる。そして、もし夫が負ければ、マルグリットも偽証の罪で火炙りの刑を受けることになるのだ。果たして、カルージュとル・グリのどちらが裁かれるべきなのか、「神による絶対的な裁き」が始まるが...
 

review:

14世紀のフランスで実際に起きた、いまだ真相不明なフランス最後の決闘裁判を描いた歴史ミステリーだ。決闘裁判とは、証人や証拠が不足している告訴事件を解決するために、原告と被告の両当事者が決闘し、どちらが真実なのかを決める究極の裁判。神が正しい者を勝利へを導くと考えられ、どちらかが死ぬか動けなくなるまで闘うというものだ。勝者は英雄扱いだけど、敗者はどっちにしても死罪。おそろしい。
 
被害者である騎士の妻マルグリット、被害者の夫である騎士カルージュ、被告となるも無罪を主張する夫の旧友ル・グリ、三者の視点で描かれていく。ひとつの事象を複数の視点で描くこの手法は、黒澤明の『羅生門』が始まりとされ「ラショーモン・アプローチ」と呼ばれている。最初の視点は騎士カルージュ、その次にル・グリ、最後に被害者であるマルグリット。この順番がミソであり、この作品の面白みでもある。
 
物語の肝であるマルグリット役のジョディ・カマー、細かい所作や視線で演じ分けているのが実に見事。人はいかに自分に都合よく記憶を改ざんしているか、ということを見せつけられ、我々は思いも寄らない境地に連れていかれるのだけど、何と言うか、男のプライドとか見栄とか思い込みとかまじクソ(語彙力)。
 
マルグリットに感情移入しすぎて切ない気持ちになりつつ、決闘シーンは圧巻の一言。本当に手に汗握ってしまった。いやはや、総じて面白かった。マット・デイモンベン・アフレックの脚本も良かったし、それをドラマの巨匠リドリー・スコットが撮ったらそりゃ面白いに決まっている。現在御歳83歳のリドリー・スコット先生、歩く世界遺産にしたいし、できるだけ長生きしていただきたい。
 
本作は、原作『最後の決闘裁判』の著者エリック・ジェイガーによる、10年にもわたる広範囲で詳細なリサーチ研究を基に製作されているが、ジェイガーはコンサルタントというポジションで脚本にも参加し、「脚本家たちのために、系図学に関するものから、婚礼における慣習や葬儀における儀式、軍事的な専門用語など多岐にわたり調査した」んだそうだ。当時の文化風習に触れられるのも興味深い。
 
中世ヨーロッパの街並みだとか城だとか騎士だとか王侯貴族だとか魔法使いだとかファンタジーにつきものだけど、映画なんかで生々しい中世の暮らしを知れば知るほど、野蛮!不潔!悪臭!人権!暗黒時代!!って思うよね・・・。もう絶対この時代のヨーロッパに生まれなくて良かったと思うし、絶対に異世界転生したくなーいー。でもマルグリットが現代に異世界転生してきたら、まじあいつクソだなって盛り上がりたい。
 

trailer: