銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】TOVE/トーベ

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映画日誌’21-41:TOVE/トーベ
 

introduction:

世界中で愛される「ムーミン」の原作者トーベ・ヤンソンの半生を描いたドラマ。『マイアミ』などのザイダ・バリルートが監督を務め、2014 年にトーベ・ヤンソン生誕100年を記念して制作された舞台『トーベ』で若かりし頃のトーベ・ヤンソン役を演じたアルマ・ポウスティ、『マイアミ』『ブレードランナー 2049』などのクリスタ・コソネンらが出演している。本国フィンランドでは公開されるや大ヒットし、スウェーデン語で描かれたフィンランド映画としては史上最高のオープニング成績を記録。第93回アカデミー賞国際長編映画フィンランド代表へ選出された。(2020年 フィンランド,スウェーデン)
 

story:

1944年、第2次世界大戦末期のフィンランドヘルシンキ。激しい戦火の中、画家トーベ・ヤンソン防空壕で子供たちに語った物語から、不思議な「ムーミントロール」の世界を描き始める。やがで戦争が終わるとアトリエを借りて移り住み、絵画制作に打ち込んでいくが、著名な彫刻家でもある厳格な父との軋轢、自身の芸術性が保守的な美術界の潮流とズレていく葛藤する日々。それでも若き芸術家たちとの目まぐるしいパーティーや恋愛を楽しみ、自由を渇望するトーベの思いはムーミンの物語とともに成長していく。そんなある日、トーベは舞台演出家のヴィヴィカ・バンドラーと出会い激しい恋に落ちるが...
 

review:

トーベ・ヤンソンは1914年フィンランドヘルシンキ出身。父は彫刻家、母は挿絵画家という環境に育ち、14歳で雑誌の挿絵を手がけ、以降挿絵画家としての仕事をするようになる。ストックホルムヘルシンキ、パリなどでデザインや絵を学び、油彩画家であり、フレスコ画家であり、イラストレーター、風刺画家、児童文学作家、漫画家、絵本作家、作詞家、舞台美術家、商業デザイナー、映像作家、そして小説家でもあった。
 
本作では、トーベ・ヤンソンの私生活や恋愛事情を軸に描かれる。それはムーミンが誕生した背景ではあるし、もちろんムーミンは登場するが、ムーミンそのものにフォーカスされていないのでムーミンファンには多少期待はずれかもしれない。しかも、描かれているトーベ・ヤンソンが、勝手に抱いていたイメージの斜め上をいくものなのだ。
 
エネルギッシュで情熱的、そして古い価値観や体制に迎合することなく、自由奔放。当時のフィンランドでは精神疾患および犯罪扱いだった同性愛に目覚めるのもいいし、それが不倫だったり二股だったりするのもいいとして、人間として不誠実なのである。というか、そういう描き方なのである。当時そういう価値観だったのかもしれないが、共感しづらい。
 
実際のトーベ・ヤンソンは後に出会うトゥーリッキ・ピエティラと生涯添い遂げたが、そこにはあまり触れられない。舞台演出家ヴィヴィカ・バンドラーとの情事が中心になっており、たしかに彼女との出会いはトーベを大きく成長させ、ムーミンの世界を完成に導いたかもしれないが、そこを切り取るのね・・・という気持ちになる。第2次世界大戦の戦火のなかでムーミンの物語が生まれたこと。トゥーリッキとの美しい関係。そこも描けば良かったのになぁ。
 
などと詮無いことを思ったりするが、トーベが著名な彫刻家でもある厳格な父との軋轢、自身の芸術性が保守的な美術界の潮流とズレていく葛藤を抱えながらも自分を肯定して自由に生きていこうとする姿、仕事と芸術を人生の中心に置き、創作に打ち込む姿に、月並みだが勇気づけられる。ムーミンの物語の裏側に、時代に抑圧されることなく生きた女性の人生があったことを知れてよかった。
 

trailer: