銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン

映画日誌’23-48:キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン

introduction:

巨匠マーティン・スコセッシ監督が、レオナルド・ディカプリオと6度目のタッグを組んだサスペンス。ジャーナリストのデビッド・グランがアメリカ先住民連続殺人事件について描いたノンフィクション「花殺し月の殺人 インディアン連続怪死事件とFBIの誕生」を原作に、『DUNE/デューン 砂の惑星』のエリック・ロスとスコセッシ監督が共同脚本を手がけた。共演はスコセッシの長年の盟友ロバート・デ・ニーロジェシー・プレモンス、リリー・グラッドストーンら。スコセッシ監督作品でデ・ニーロとディカプリオが共演するのは初である。(2023年 アメリカ)

story:

1920年代のアメリカ、オクラホマ州オーセージ郡。戦争帰りのアーネスト・バークハートは、地元の有力者となっていた叔父のウィリアム・ヘイルを頼ってオクラホマへと移り住む。その土地の先住民オセージ族は、石油を発掘したことで莫大な富を手に入れていた。やがてアーネストは、そこで暮らすオセージ族の女性モリー・カイルと恋に落ち夫婦となるが、2人の周囲で不可解な連続殺人事件が起き始める。

review:

20世紀初頭のオクラホマで実際に起こった先住民オセージ族の連続殺人事件が、スコセッシ、ディカプリオ、デ・ニートの夢のトリプルタッグで映画化された。当時のオセージ族は、アメリカ政府に追いやられて移り住んだ居留地から米国最大の油層が発見されたことで、多額のオイルマネーを手にしていた。大富豪となった彼らに目をつけ、彼らの富を奪い取ろうと群がる白人たち。政府によって資産管理能力無しと烙印を押されたオセージ族には白人の後見人がつき、後見人はあらゆる手段を使って彼らの資金を着服し、婚姻関係を結んで相続を狙う。そして、何十人ものオセージ族が次々に謎の死を遂げたのだ。

3時間26分て、はぁ!?巨匠だからって許されない尺だぞ!?インド映画じゃあるまいし!!といささか腹立ち紛れに劇場に乗り込んだが、さすが巨匠。3時間26分あっという間でしたわ・・・。鼓動のように鳴り続ける低音が心をかき乱し、スリリングでエモーショナルな展開から目が離せない。聡明さを讃えながら、寡黙に夫を信じ続けたオセージ族の女性モリーを演じたリリー・グラッドストーンの存在感。そして妻を愛しながら誘惑に負けてしまう、アーネストの得体の知れなさを体現したディカプリオの演技があまりにも素晴らしく、モリーと対峙する終盤のシーンなんてもはや神懸かっている。何だあれ。

当初ディカプリオは、事件の捜査のためFBIの前身となる捜査局から派遣された捜査官トム・ホワイトを演じる予定だったという。しかし企画が進むうちに、監督やディカプリオ自身が「よくある白人捜査官の英雄譚」になることを危惧し、オセージ族の女性モリーの夫アーネスト・バークハートを演じることになったんだそうだ。イーストウッド監督作品でJ・エドガーを演じたディカプリオがJ・エドガーに派遣された捜査官に捜査されるという映画マニア的面白さは置いといて、この夫婦を軸にオセージ族の視点から物語られることで、白人に財産や命を脅かされ続ける彼らの不安や恐怖が生々しく伝わってくる。

アメリカ先住民の殺人事件や失踪事件は昔からよくあることらしいが、警察もメディアも滅多に取り合わないのだという。そのため当時の新聞にも取り上げられておらず、この映画の原作でもあるデヴィッド・グランによるノンフィクション『花殺し月の殺人 インディアン連続怪死事件とFBIの誕生』が出版されるまで、分からないことだらけだったらしい。「花殺し月」は5月を表すオセージ族の言葉だ。4月、大地を覆うように小さな花が咲き乱れるが、5月になるとそれよりも丈の高いムラサキツユクサなどの草花が生い茂って光と水を奪い取り、先に咲いていた小さな花たちは枯れ果て、死んでいく。

かつて、2017年の映画『ウインド・リバー』でネイティブ・アメリカンを取り巻く闇を目の当たりにして戦慄したが、私たちはきっと、ネイティブ・アメリカンのことを知らなすぎる。もっとこの壮絶な物語の背景や歴史を知りたくなり、とりあえずパンフレットを購入しようと思ったが、そもそもパンフレットが作られていないとのこと。調べてみるとどうやら原作本には被害者遺族の後日談まで記されており、これがなかなかずっしり重たい内容のよう。気になって仕方がないので原作本をポチってしまったよ・・・。積読が増えたがな。

trailer: