銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】ゆれる人魚

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劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’18-10
 

うんちく

2016年サンダンス映画祭、ワールドシネマコンペティションドラマ部門審査員特別賞をはじめ世界各国の映画祭で数々の受賞を果たしたホラー・ファンタジー。アンデルセンの『人魚姫』をベースに、人間を捕食する人魚姉妹が少女から大人へと成長していくさまを描く。ポーランドの新鋭女性監督アグニェシュカ・スモチンスカ監督の長編デビュー作となる。出演は『アンナと過ごした4日間』『ソハの地下水道』のキンガ・プレイスのほか、『夜明けの祈り』などのマルタ・マズレク、『ワルシャワ、二つの顔を持つ男』などのミハリーナ・オルシャンスカら。
 

あらすじ

1980年代のポーランドワルシャワ。海から現れた美しい人魚の姉妹は、ストリップや音楽を楽しむナイトクラブにたどり着く。得意な歌やダンスを披露した姉妹は一躍スターとなるが、そんなある日、姉のシルバーがベーシストの青年と恋に落ちてしまう。初めての恋に浮かれるシルバーだったが、人魚にとって人間の男は“餌”でしかなく、妹のゴールデンは複雑な眼差しで姉を眺めていた。やがて2人は限界に達し、残虐で血なまぐさい行為へと駆り立てられていくが……
 

かんそう

共産主義下にあった1980年代のポーランドを舞台にした「大人のおとぎばなし」である。不安定な社会情勢を背景に退廃的なムードが漂っていた当時のポーランドでは、酒と音楽と踊りを愉しむ大人の社交場「ダンシング・レストラン」が盛んだったそうだ。ナイトクラブのバックヤードで育ったスモチンスカ監督は、同じような境遇のヴロンスキ姉妹(ポーランドのインディー・ミュージックシーンに君臨する)の人生からこの作品を着想しており、物語を彩るどこか懐かしいサウンドはヴロンスキ姉妹の手によるものだ。奇妙奇天烈、摩訶不思議なミュージカル調に最後まで気持ちがついていけるのか不安だったが、杞憂であった。彼らが子供時代に体験した旧東欧文化への深い郷愁が込められており、キッチェでシュールな音楽、衣装、演出のすべてがロマンチックに昇華している。何かを喪いながら少女から大人へと成長し、恋の幸福感に包まれて浮かべる甘美の表情が、切なく胸に迫る。しかし人魚は東西を問わず、不吉の象徴だ。アンデルセンの人魚姫でもどの言い伝えでも、幸福な結末は迎えない。ああ、恋とはこういうものであったかと、海に還っていく人魚の姉妹を見送ったのであった・・・。