銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】セイント・フランシス

映画日誌’22-31:セイント・フランシス
 

introduction:

冴えない日々を送る30代女性のひと夏を描き、サウス・バイ・サウスウエスト映画祭2019で観客賞と審査員特別賞を受賞した人間ドラマ。主演のケリー・オサリヴァンが自伝的要素を盛り込んだオリジナル脚本を執筆し、オサリバンの私生活のパートナーでもあるアレックス・トンプソンが長編初監督を務めた。子役のラモナ・エディス=ウィリアムズの他、舞台などで活躍するチャリン・アルバレス、マックス・リプシッツ、リリー・モジェクらが出演。(2019年 アメリカ)
 

story:

レストランの給仕として働く34歳独身のブリジットは、うだつがあがらない日々に憂鬱感を抱えている。ある日、知人から夏限定のナニー(子守)の仕事を紹介された彼女は、一度は不採用になるものの、6歳の少女フランシスの面倒を見ることになる。当初は軽い気持ちで子守をしていたブリジットだったが、フランシスやその両親であるレズビアンカップルとの出会いによって、その心境に少しずつ変化が訪れる。
 

review:

大学を1年で中退し、34歳で独身、今は街のレストランでウェイトレスの仕事をしているブリジット。年相応の生活ができていない自分に向けられる視線が気になる。何者にもなりきれず、自分の人生を生きることができずに鬱々としたまま30代になってしまう若者、古今東西、いつの時代も世界中にいるんだな。日本にいたらダメだという海外志向の人、こういう現実も見たほうがいいよね。
 
私もイマイチ冴えない学生生活を送った上に新卒の就職活動から離脱し、20代の半ばまで、気が向いたら働いて気が向いたら絵を描く、主に寝ている。みたいな腐ったニート生活を送っていたし、やりたいことを見つけて上京した33歳まで、挫折したまま地元で「何となく」生きていたのでよく分かる。特に、他人の充実している(ように見える)人生がSNSで可視化されてしまう現代はしんどいだろう。
 
と、思いきや、この映画の主題はこれでははない。女性の心身の本音を見せたかったというケリー・オサリヴァンさん、これまで映画で描かれることの少なかった生理、避妊、妊娠、中絶といった女性の身体にのしかかる負担やプレッシャーを脚本に落とし込んだ、とのことだが、ちょっと生理の描写がしつこいんだな・・・。そこに6歳の女の子、彼女の両親であるレズビアンカップルとの心の交流が盛り付けられ、よくわからない恋模様までデコレーションされてしまうという有り様。
 
いや意図は分かるんだけど、お腹いっぱい。それで肝心の主題がぼんやりしてしまうという、ちょっと残念な出来栄え。なお、生理に対する男性の反応がそれぞれで、女性をどう捉えているかという価値観が透けて見える点は興味深い。子役のラモナ・エディス=ウィリアムズはかわいいし、二人が遊んでいる描写は微笑ましい。でも終盤のあのシーンは既視感しかない。この直前に観た映画でも同じ演出が使われていたこともあり、使い古された感が否めない。もう子どもの映画でこの演出使うの禁止にしたい。それが何か気になる人はぜひ劇場で・・・
 

trailer:

【映画】1640日の家族

映画日誌’22-30:1640日の家族
 

introduction:

『ディアーヌならできる』などのファビアン・ゴルゲール監督が、幼少期に両親が里子を迎えて4年半一緒に暮らした自身の経験をもとに描くヒューマンドラマ。里子のシモンを演じたのは、公園で母親と遊んでいたところを監督とキャスティング・ディレクターによって見出されたガブリエル・パビ。『海の上のピアニスト』などのメラニー・ティエリー、『負け犬の美学』などのリエ・サレム、『沈黙のレジスタンス ユダヤ孤児を救った芸術家』などのフェリックス・モアティらが出演する。(2021年 フランス)
 

story:

里親のアンナと夫のドリスは、生後18か月のシモンを受け入れて4年半が経った。長男のアドリと次男のジュールは、シモンと兄弟のように成長し、一家は幸せな日々を過ごしていた。そんなある日、月に1度の面会交流を続けてきたシモンの実父エディから、息子との暮らしを再開したいとの申し出を受けてしまう。突然訪れた「家族でいられるタイムリミット」に一家は動揺し、シモンも里親と実父のあいだで揺れ動く。
 

review:

本作はファビアン・ゴルジュアール監督が子どもの頃、両親が生後18ヶ月の子どもを里子として迎えて6歳まで一緒に暮らした経験を、記憶を掘り起こしながら映画化したものだそうだ。また、監督が福祉関係者や里親とのインタビューで知った父と息子のエピソードもモデルになっている。子どもの誕生後すぐに母親が亡くなり、打ちのめされた父親は子どもと引き離されてしまったそうだ。
 
里親制度は、さまざまな理由で家族と離れて暮らす子どもを家庭に迎え入れて養育する制度だ。里親と子どもに法的な親子関係はなく、実親が親権者である。ゴルジュアール監督がインタビューで「里子との出会いと別れは、私たち家族全員に影響を与えました。初めて里親となった私の母がソーシャルワーカーから受けた唯一のアドバイスは、『この子を愛しなさい、でも愛し過ぎないように』という言葉だったそうです。」と語っており、「愛し過ぎない」ことの難しさが描かれる。
 
監督はおそらく、ありのままの現実を写し取り、ありのままの現実を我々の前に差し出そうとしたのだろう。過剰な演出は排され、淡々と物語は進んでいく。暖かい家族の日常が綴られていくが、長男アドリの悪気がない言動も妙にリアルだ。我々も残酷な現実を淡々と受け止めるしかなく、生後18か月から4年半も育てた子を手放すよう迫られる里親のアンナとドリスの心情を考えると胸が締め付けられる。
 
だが実父のエディはもちろん、全員がシモンの幸せを願っていて、全員に共感するしかないのだ。血縁だから幸せになるとは限らないし、だからと言って実父と引き離されたままだった場合将来シモンが後悔するかもしれないし、正解なんてどこにもない。本当の、本物の家族ってなんだろうなぁ。私は子どもを持たない人生を選択したが、考えさせられたし泣かされた。そしてシモンをはじめ、子どもたちがとってもキュート。心に残る佳い映画であった。
 

trailer:

【映画】バッドマン 史上最低のスーパーヒーロー

映画日誌’22-29:バッドマン 史上最低のスーパーヒーロー
 

introduction:

フランス映画『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』などのフィリップ・ラショーが監督・主演を務めたアクションコメディー。ヒーロー映画の主役に選ばれた俳優が撮影途中に事故に遭い、記憶を失ったことで起こる騒動を描く。同作に出演したジュリアン・アルッティ、タレク・ブダリ、エロディ・フォンタンのほか、『ベティブルー 愛と激情の日々』のセザール賞俳優ジャン=ユーグ・アングラードが出演している。(2021年 フランス/ベルギー)
 

story:

警察署長の父親の反対を押し切って夢を追い続ける売れない役者のセドリックは、晴れて新作映画『バッドマン』の主役に抜てきされる。このチャンスを逃してはならないと、セドリックは体を鍛え上げ、武術を学び撮影に挑む。撮影初日が順調に終わろうとした頃、妹から父親が倒れたという知らせが入る。動揺したセドリックは衣装の「バッドスーツ」を着たまま「バッドモービル」に乗って病院へ急行するが、その途中で事故に遭い記憶を失ってしまい...。
 

review:

例によってレビューを書くのが遅すぎ、都内はほぼほぼ上映修了しておるんだが配信で充分だから問題ない。なぜレビューを書くのが遅くなるのかと言うと、夏休みの宿題を最後までとっておくタイプの子どもだったからである。その上、7月で忙しいのが終わるかと思ったら8月もうっすら忙しい上に体調がよろしくなく、仕事以外でMacの前に座るのが非常に苦痛だったからである。しかし配信で充分だから問題ない。
 
日本の大人気漫画「シティーハンター」をフランスで実写化し、日本・フランスで見事大ヒットを記録した『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』のチームが再び集結したそうな。シティーハンターは観ていないが、各サイトのレビューを参照するとそれほど悪くもなかった様子・・・?が、そんなことはどうでもいい。当時疲れ果てていた私はただ、何も考えなくていい映画を観たかった。
 
しかも『ベティブルー 愛と激情の日々』のセザール賞俳優ジャン=ユーグ・アングラードが出演しているだと・・・?情緒不安定で後に精神に異常をきたすベティを優しく包み込む青年ゾルグの今を観たかった。というわけで、さほど期待するでもなく「バットマン」ならぬ「バッドマン」に会いに行ってきた。何と言ってもB級映画の宝庫アルバトロス配給作品である。予想通り実にくだらない下ネタ多め、不謹慎なジョークありのドタバタコメディ。
 
文化というか国民性というか感性の違いもあるのだろう、全体を通して腹を抱えるほど笑えるものじゃないな・・・と思いながら観てたけど、ハリウッドのアメコミヒーロー作品を好きな人なら爆笑できるシーンがある。少々中弛みするが、何ならそのシーンだけで満足。ハリウッドアメコミ映画への愛とリスペクトを感じられるし、83分というコンパクトな尺もよい。ポップコーン片手に気楽に観たらいいね、配信でね。
 

trailer:

【映画】私は最悪。

映画日誌’22-28:私は最悪。
 

introduction:

『母の残像』『テルマ』などのヨアキム・トリアー監督による異色の恋愛ドラマ。主演はトリアー監督作『オスロ、8月31日』などのレナーテ・レインスヴェ。『パーソナル・ショッパー』『ベルイマン島にて』のアンデルシュ・ダニエルセン・リー、ノルウェーの俳優ヘルベルト・ノルドルムらが共演する。2021年・第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で女優賞を受賞、2022年・第94回アカデミー賞では国際長編映画賞と脚本賞の2部門にノミネートされた。(2021年 ノルウェー/フランス/スウェーデン/デンマーク)
 

story:

30歳を迎えたユリヤ。学生時代は優秀で才能に恵まれていたが、いまだに人生の方向が定まらず、人生を浪費している。一方、グラフィックノベル作家として成功した年上の恋人アクセルは家庭を持ちたがり、彼女に母親になることを勧めてくる。ある夜、招待されていないパーティーに紛れ込んだユリヤは、若くて魅力的な青年アイヴィンと惹かれ合う。ほどなくしてユリヤはアクセルと別れ、アイヴィンとの新しい恋に人生の展望を見い出そうとするが・・・
 

review:

邦題がダサい。意味がよく分からないし、映画の本質が伝わらないし、何よりタイトルに句読点つけるのダサい。ダサい邦題を許さない委員会として日本の配給会社に物申したい。と言っても、原題である「The worst person in the world」をどう捉えるかは人それぞれだろう。
 
きらきら輝かしいキャリアを積み、最初からパートナーに恵まれて人生をお送りになっている人はここらへんでそっと閉じていただいていいのだが、大体みんな恥ずかしい黒歴史があるはずだ。性別に関わらず恥の上塗りを積み重ねた若き日々を振り返り、あの頃の自分に向かって「おまえほんと最悪」と呟いたことがあるはずだ。おそらく、そのことだろうと推察する。
 
主人公のユリヤは、医学の道に進むも「やっぱ心理学じゃね」と方向転換。教授と寝たりしながら「やっぱ視覚だわ」と写真家を目指したりするが食えないから本屋でバイトしている。それで、うっかり美人で魅力的だから年上のグラフィックノベル作家と恋に落ちたりする。何者かになりたい女子あるあるなんだけど、優れた男性の中に自分の存在意義を求めがち。でも彼の中に自分はいないんだよ・・・!
 
根拠のない自信、何者かになりたい願望となれるのではないかという期待、いまだ持たざる者ゆえの猛烈なコンプレックス。器用貧乏なんだろうなぁ。何でもそこそこできるけど「コレ」というモノにはならない。それはおそらく、本人の中に本当の動機がないからである。何故わかるかというと、かつての私がそうだったからである・・・!
 
共感するとかそういう次元の話じゃないんだ。そっと封印してきた恥部をスクリーンで見せつけられて、うおおやめろやめてくれと赤面したいつかの若者たちが世界中の映画館にいたことだろう。ラブロマンスというよりもはやスリラー。ていうか、こういうのって世界共通なんだねという新しい気付きを得たよ。
 
ヨアキム・トリアーは、鬱映画を撮らせたら右に出るものがいない鬼才ラース・フォン・トリアーの甥っ子。前作の『テルマ』がそんなにピンとこなかったから半信半疑で観たが、好き嫌い以上にしてやられた感がある。きっと次回作も観るだろう。そしてあの頃の私に言ってあげたい。適職と理想の夫に巡り合うのは44歳だよと・・・(遅)。
 

trailer:

【映画】ボイリング・ポイント/沸騰

映画日誌’22-27:ボイリング・ポイント/沸騰
 

introduction:

イギリス・ロンドンの高級レストランを舞台に、オーナーシェフの波乱に満ちたスリリングな一夜を全編90分ワンショットで捉えた人間ドラマ。主演を務めたのは『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』『アイリッシュマン』のスティーヴン・グレアム。『ポルトガル、夏の終わり』などのヴィネット・ロビンソン、『スナッチ』などのジェイソン・フレミングらが共演する。監督は新鋭フィリップ・バランティーニ。第75回英国アカデミー賞(BAFTA)では4部門にノミネートされ、英国インディペンデント映画賞(BIFA)では最多11部門にノミネート、4部門の受賞を果たした。(2021年 イギリス)
 

story:

一年で最も賑わうクリスマス前の金曜日、ロンドンの人気高級レストラン。妻子と別居し疲れ果てていたオーナーシェフのアンディは、運悪く衛生管理検査があり店の評価を下げられるなど、次々にトラブルに見舞われてしまう。気を取り直して開店するも、オーバーブッキングでスタッフたちの間にはピリピリしたムードが漂う。そんな中、アンディのライバルシェフが有名なグルメ評論家を連れて来店し、脅迫まがいの取引を持ちかけてくるが...。
 

review:

ロンドンに実在するレストランで撮影をおこなった本作は、編集なしCGなし、正真正銘の全編90分ワンカットだ。これまで、「ワンカット映像」で高い評価を受けた作品としては『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』や『1917 命をかけた伝令』があるが、いずれも巧みに繋ぎ合わせワンカットの長回しで撮影されたようにつくられた映像である。それらは十分に驚異的だったが、本作は本物のワンカットであり輪をかけて驚異的であった。
 
レストラン内を縦横無尽に動き回るカメラワーク、俳優たちの即興演技がもたらす圧倒的な臨場感は、とてつもない没入感をもたらす。考えてみれば演劇や舞台はライブなので、NGなしでアドリブを入れながら演じるということに関しては不可能ではないだろう。しかし、撮影となると話は別だ。あっという間に満席になる店内を慌ただしく動き回るスタッフ、そんな彼らを次から次に襲うトラブル、目まぐるしい展開をたった一台のカメラがどこまでも追いかける。編集の痕跡は一切無し。
 
しかも、12年間シェフとして働いた経験のあるフィリップ・バランティーニ監督が紡ぐ人間ドラマが濃密なのだ。タイトルの「ボイリング・ポイント」は沸点のこと。私生活がうまくいっておらず、最初から不安定であることが見て取れるアンディの心身が限界に達するまでの様子をワンカットで切り取っている。アンディの不安定さが負の連鎖を引き起こし職場全体に蔓延していくさま、起こるべくして起きるトラブルの数々に、息つく暇もなく緊張感に絡め取られてしまう。
 
アンディを取り巻く登場人物もそれぞれキャラクターが立っており、90分という決して長くはない尺にひとりひとりのドラマを緻密に描き込まれており見事。あからさまに人種差別する客、女性蔑視する客、SNSのフォロワーを盾に無茶な注文をしてくるインフルエンサー。みんなが言いたい放題やりたい放題で、店内はまるで社会の縮図だ。アンディが肉体的にも精神的にも追い詰められていくと同時にそれぞれが限界を迎え、人間関係も修復不能なまでに壊れていくスリリングな展開は、人間ドラマというよりもはやサスペンスである。凄まじい映画体験だった。
 

trailer:

【映画】ブラック・フォン

映画日誌’22-26:ブラック・フォン
 

introduction:

ホーンズ 容疑者と告白の角』の原作などで知られるジョー・ヒルの短編集「20世紀の幽霊たち」所収の「黒電話」を、『ドクター・ストレンジ』『エミリー・ローズ』のスコット・デリクソンが映像化したサイコ・スリラー。制作は『透明人間』『ゲット・アウト』などを世に送り出してきたハリウッド気鋭の映画制作集団ブラムハウス・プロダクションズ。出演はイーサン・ホークほか。(2021年 アメリカ)
 

story:

アメリカ・コロラド州デンバー北部のとある町で、子どもの連続失踪事件が相次ぐ。気弱な少年フィニーはある日、学校の帰り道にマジシャンだという男から「手品を見せてあげる」と声をかけられ、無理やり車に押し込まれてしまう。気が付くと地下室に閉じ込められており、そこには頑丈な扉と鉄格子の窓、断線した黒電話があった。すると突然、通じないはずの電話が鳴り響く。一方、フィニーの失踪にまつわる不思議な夢を見た妹のグウェンは、夢を手がかりに兄の行方を探し続けていた。
 

review:

あまりに忙しくてレビューを書けずに放置すること1ヶ月前、必死に記憶を手繰り寄せている。ほぼほぼ劇場公開が終わっているのではないかと推測するものの、怖くて確認できない。この事実のほうがよっぽどホラーである。思い起こせば、若者カップルだらけの渋谷で観たっけなぁ。何故にデートでホラーをチョイスするのだ君たちは。この後どんな会話するんだよ。
 
スティーブン・キングの息子ジョー・ヒルが原作ということで、なんとなくスティーブン・キングっぽい。サイコホラーと謳っているが、どちらかというと心霊ホラー要素強め。何しろ、誘拐犯の動機が全く分からないのである。妹に起こる不思議な現象の背景も描かれないし、何で電話つながるんかい。ってツッコミどころだらけ。
 
何よりイーサン・ホークの使い方よ・・・なあこれ、イーサンじゃなくてよくないか。イーサンも仕事選べよ。って思ったけど、結構ホラー作品に出ておられるのでそもそもお好きなのではないかと思われる。ブラムハウス作品は『フッテージ』にも出ておられるしね。関係ないけど『セッション』もブラムハウスだって知ってた?あれはやっぱりホラーなんだな(納得)。
 
閑話休題。ツッコミどころだらけだし、ホラーとして怖いかっていうとそれほど怖くないけど、スリリングでまあまあ楽しめた。これまでのホラーとは少し毛色の違う劇伴が、えも言われぬ不安を煽ってくるのが新鮮。本筋にそれほど関係ない暴力描写が過剰なのが気になったが、妹グウェンが可愛いし、兄妹の絆が微笑ましい。ほぼほぼ劇場公開終わってそうだけど、まあ、配信で見かけたら観たらいいんじゃないかな・・・。
 

trailer:

【映画】エルヴィス

映画日誌’22-25:エルヴィス
 

introduction:

「キング・オブ・ロックンロール」と称され、若くして謎の死をとげたエルヴィス・プレスリーの半生を描く伝記ドラマ。『ムーラン・ルージュ』『華麗なるギャツビー』のバズ・ラーマンが監督を務める。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』などのオースティン・バトラーがエルヴィス役に大抜擢され、圧倒的なパフォーマンスと歌唱は監督に「エルヴィスそのもの」と言わしめた。共演は名優トム・ハンクスカンヌ国際映画祭アウトオブコンペ部門に出品された。(2022年 アメリカ)
 

story:

1950年代、若き日のエルヴィス・プレスリーは歌手としてデビューする。ルイジアナの小さなライブハウスのステージに立ち、セクシーなダンスを交えたパフォーマンスで、当時誰も聴いたことのなかった”ロック“を披露。女性客を中心とした若者たちはたちまち彼に魅了され、その熱狂的な支持は瞬く間に全米へと広がっていく。その一方で、彼のセンセーショナルすぎる存在は中傷の的となり、警察の監視下に置かれることになる。強欲なマネージャーのトム・パーカーは、逮捕を恐れてエルビスらしいパフォーマンスを阻止しようとするが...
 

review:

ロックンロールの誕生と普及に大きく貢献した一人であり、ザ・ビートルズやクイーン、ボブ・ディランなど後進のアーティストたちに多大な影響を与え、「世界で最も売れたソロアーティスト」としてギネス認定もされているエルヴィス・プレスリー。レコード総売り上げ 30億枚、1日で売り上げたレコードの枚数2000万枚、ライブ世界中継 視聴数15億人、連続1500公演ライブチケット完売、最多ヒットシングル記録151曲と、彼が音楽史に残した記録は枚挙にいとまがない。
 
この「キング・オブ・ロックンロール」と称された巨大な存在を、『ムーラン・ルージュ』のバズ・ラーマンが映像に落とし込んだ。劇場を埋め尽くすかつての乙女たちと共に、スーパースターの短い生涯を辿る。ド派手で絢爛豪華な音楽エンターテイメント大作に仕上がっており、さすがバズ・ラーマン。心地よいリズムとテンポで、159分はあっと言う間に過ぎていった。
 
貧しい白人家庭に生まれ、貧しい黒人の労働階級が多く暮らすテネシー州メンフィスで黒人の音楽を聴いて育ったエルヴィス。ブルースやゴスペルに影響を受けながら、個性と才能を育んだ背景がしっかりと描かれている。若き日のB.B.キングファッツ・ドミノやマヘリア・ジャクソンも登場。また、現役のヒップホップ/R&Bミュージシャンによる楽曲がドラマを彩り、彼の黒人音楽に対するリスペクトが後世へと受け継がれていると感じ取ることができる。実はプレスリーことを何にも知らなかったが、彼がなぜ特別な存在だったのか、よく理解できた。
 
中性的な色気を醸し出す若き日のプレスリーも然り、おじさんになっていく様子を生々しく体現したオースティン・バトラーが素晴らしかった。心身がボロボロになるまでコンテンツとして消費されていく姿は痛々しかったが、黒人文化と白人文化の融合を果たした先駆けという意味でも、計り知れない功績を残したアーティストであろう。ジャンルを超えてリスペクトされる理由も分かったし、彼の最愛の娘リサ・マリー・プレスリーが「キング・オブ・ポップマイケル・ジャクソンの最初の妻であったことにも特別なものを感じずにいられない。総じて、最高の映画体験だった。
 

trailer: