銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】1640日の家族

映画日誌’22-30:1640日の家族
 

introduction:

『ディアーヌならできる』などのファビアン・ゴルゲール監督が、幼少期に両親が里子を迎えて4年半一緒に暮らした自身の経験をもとに描くヒューマンドラマ。里子のシモンを演じたのは、公園で母親と遊んでいたところを監督とキャスティング・ディレクターによって見出されたガブリエル・パビ。『海の上のピアニスト』などのメラニー・ティエリー、『負け犬の美学』などのリエ・サレム、『沈黙のレジスタンス ユダヤ孤児を救った芸術家』などのフェリックス・モアティらが出演する。(2021年 フランス)
 

story:

里親のアンナと夫のドリスは、生後18か月のシモンを受け入れて4年半が経った。長男のアドリと次男のジュールは、シモンと兄弟のように成長し、一家は幸せな日々を過ごしていた。そんなある日、月に1度の面会交流を続けてきたシモンの実父エディから、息子との暮らしを再開したいとの申し出を受けてしまう。突然訪れた「家族でいられるタイムリミット」に一家は動揺し、シモンも里親と実父のあいだで揺れ動く。
 

review:

本作はファビアン・ゴルジュアール監督が子どもの頃、両親が生後18ヶ月の子どもを里子として迎えて6歳まで一緒に暮らした経験を、記憶を掘り起こしながら映画化したものだそうだ。また、監督が福祉関係者や里親とのインタビューで知った父と息子のエピソードもモデルになっている。子どもの誕生後すぐに母親が亡くなり、打ちのめされた父親は子どもと引き離されてしまったそうだ。
 
里親制度は、さまざまな理由で家族と離れて暮らす子どもを家庭に迎え入れて養育する制度だ。里親と子どもに法的な親子関係はなく、実親が親権者である。ゴルジュアール監督がインタビューで「里子との出会いと別れは、私たち家族全員に影響を与えました。初めて里親となった私の母がソーシャルワーカーから受けた唯一のアドバイスは、『この子を愛しなさい、でも愛し過ぎないように』という言葉だったそうです。」と語っており、「愛し過ぎない」ことの難しさが描かれる。
 
監督はおそらく、ありのままの現実を写し取り、ありのままの現実を我々の前に差し出そうとしたのだろう。過剰な演出は排され、淡々と物語は進んでいく。暖かい家族の日常が綴られていくが、長男アドリの悪気がない言動も妙にリアルだ。我々も残酷な現実を淡々と受け止めるしかなく、生後18か月から4年半も育てた子を手放すよう迫られる里親のアンナとドリスの心情を考えると胸が締め付けられる。
 
だが実父のエディはもちろん、全員がシモンの幸せを願っていて、全員に共感するしかないのだ。血縁だから幸せになるとは限らないし、だからと言って実父と引き離されたままだった場合将来シモンが後悔するかもしれないし、正解なんてどこにもない。本当の、本物の家族ってなんだろうなぁ。私は子どもを持たない人生を選択したが、考えさせられたし泣かされた。そしてシモンをはじめ、子どもたちがとってもキュート。心に残る佳い映画であった。
 

trailer: