銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】私は最悪。

映画日誌’22-28:私は最悪。
 

introduction:

『母の残像』『テルマ』などのヨアキム・トリアー監督による異色の恋愛ドラマ。主演はトリアー監督作『オスロ、8月31日』などのレナーテ・レインスヴェ。『パーソナル・ショッパー』『ベルイマン島にて』のアンデルシュ・ダニエルセン・リー、ノルウェーの俳優ヘルベルト・ノルドルムらが共演する。2021年・第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で女優賞を受賞、2022年・第94回アカデミー賞では国際長編映画賞と脚本賞の2部門にノミネートされた。(2021年 ノルウェー/フランス/スウェーデン/デンマーク)
 

story:

30歳を迎えたユリヤ。学生時代は優秀で才能に恵まれていたが、いまだに人生の方向が定まらず、人生を浪費している。一方、グラフィックノベル作家として成功した年上の恋人アクセルは家庭を持ちたがり、彼女に母親になることを勧めてくる。ある夜、招待されていないパーティーに紛れ込んだユリヤは、若くて魅力的な青年アイヴィンと惹かれ合う。ほどなくしてユリヤはアクセルと別れ、アイヴィンとの新しい恋に人生の展望を見い出そうとするが・・・
 

review:

邦題がダサい。意味がよく分からないし、映画の本質が伝わらないし、何よりタイトルに句読点つけるのダサい。ダサい邦題を許さない委員会として日本の配給会社に物申したい。と言っても、原題である「The worst person in the world」をどう捉えるかは人それぞれだろう。
 
きらきら輝かしいキャリアを積み、最初からパートナーに恵まれて人生をお送りになっている人はここらへんでそっと閉じていただいていいのだが、大体みんな恥ずかしい黒歴史があるはずだ。性別に関わらず恥の上塗りを積み重ねた若き日々を振り返り、あの頃の自分に向かって「おまえほんと最悪」と呟いたことがあるはずだ。おそらく、そのことだろうと推察する。
 
主人公のユリヤは、医学の道に進むも「やっぱ心理学じゃね」と方向転換。教授と寝たりしながら「やっぱ視覚だわ」と写真家を目指したりするが食えないから本屋でバイトしている。それで、うっかり美人で魅力的だから年上のグラフィックノベル作家と恋に落ちたりする。何者かになりたい女子あるあるなんだけど、優れた男性の中に自分の存在意義を求めがち。でも彼の中に自分はいないんだよ・・・!
 
根拠のない自信、何者かになりたい願望となれるのではないかという期待、いまだ持たざる者ゆえの猛烈なコンプレックス。器用貧乏なんだろうなぁ。何でもそこそこできるけど「コレ」というモノにはならない。それはおそらく、本人の中に本当の動機がないからである。何故わかるかというと、かつての私がそうだったからである・・・!
 
共感するとかそういう次元の話じゃないんだ。そっと封印してきた恥部をスクリーンで見せつけられて、うおおやめろやめてくれと赤面したいつかの若者たちが世界中の映画館にいたことだろう。ラブロマンスというよりもはやスリラー。ていうか、こういうのって世界共通なんだねという新しい気付きを得たよ。
 
ヨアキム・トリアーは、鬱映画を撮らせたら右に出るものがいない鬼才ラース・フォン・トリアーの甥っ子。前作の『テルマ』がそんなにピンとこなかったから半信半疑で観たが、好き嫌い以上にしてやられた感がある。きっと次回作も観るだろう。そしてあの頃の私に言ってあげたい。適職と理想の夫に巡り合うのは44歳だよと・・・(遅)。
 

trailer: