銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】エルヴィス

映画日誌’22-25:エルヴィス
 

introduction:

「キング・オブ・ロックンロール」と称され、若くして謎の死をとげたエルヴィス・プレスリーの半生を描く伝記ドラマ。『ムーラン・ルージュ』『華麗なるギャツビー』のバズ・ラーマンが監督を務める。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』などのオースティン・バトラーがエルヴィス役に大抜擢され、圧倒的なパフォーマンスと歌唱は監督に「エルヴィスそのもの」と言わしめた。共演は名優トム・ハンクスカンヌ国際映画祭アウトオブコンペ部門に出品された。(2022年 アメリカ)
 

story:

1950年代、若き日のエルヴィス・プレスリーは歌手としてデビューする。ルイジアナの小さなライブハウスのステージに立ち、セクシーなダンスを交えたパフォーマンスで、当時誰も聴いたことのなかった”ロック“を披露。女性客を中心とした若者たちはたちまち彼に魅了され、その熱狂的な支持は瞬く間に全米へと広がっていく。その一方で、彼のセンセーショナルすぎる存在は中傷の的となり、警察の監視下に置かれることになる。強欲なマネージャーのトム・パーカーは、逮捕を恐れてエルビスらしいパフォーマンスを阻止しようとするが...
 

review:

ロックンロールの誕生と普及に大きく貢献した一人であり、ザ・ビートルズやクイーン、ボブ・ディランなど後進のアーティストたちに多大な影響を与え、「世界で最も売れたソロアーティスト」としてギネス認定もされているエルヴィス・プレスリー。レコード総売り上げ 30億枚、1日で売り上げたレコードの枚数2000万枚、ライブ世界中継 視聴数15億人、連続1500公演ライブチケット完売、最多ヒットシングル記録151曲と、彼が音楽史に残した記録は枚挙にいとまがない。
 
この「キング・オブ・ロックンロール」と称された巨大な存在を、『ムーラン・ルージュ』のバズ・ラーマンが映像に落とし込んだ。劇場を埋め尽くすかつての乙女たちと共に、スーパースターの短い生涯を辿る。ド派手で絢爛豪華な音楽エンターテイメント大作に仕上がっており、さすがバズ・ラーマン。心地よいリズムとテンポで、159分はあっと言う間に過ぎていった。
 
貧しい白人家庭に生まれ、貧しい黒人の労働階級が多く暮らすテネシー州メンフィスで黒人の音楽を聴いて育ったエルヴィス。ブルースやゴスペルに影響を受けながら、個性と才能を育んだ背景がしっかりと描かれている。若き日のB.B.キングファッツ・ドミノやマヘリア・ジャクソンも登場。また、現役のヒップホップ/R&Bミュージシャンによる楽曲がドラマを彩り、彼の黒人音楽に対するリスペクトが後世へと受け継がれていると感じ取ることができる。実はプレスリーことを何にも知らなかったが、彼がなぜ特別な存在だったのか、よく理解できた。
 
中性的な色気を醸し出す若き日のプレスリーも然り、おじさんになっていく様子を生々しく体現したオースティン・バトラーが素晴らしかった。心身がボロボロになるまでコンテンツとして消費されていく姿は痛々しかったが、黒人文化と白人文化の融合を果たした先駆けという意味でも、計り知れない功績を残したアーティストであろう。ジャンルを超えてリスペクトされる理由も分かったし、彼の最愛の娘リサ・マリー・プレスリーが「キング・オブ・ポップマイケル・ジャクソンの最初の妻であったことにも特別なものを感じずにいられない。総じて、最高の映画体験だった。
 

trailer: