銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】T2 トレインスポティング

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劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’17-21
『T2 トレインスポッティング』(2017年 イギリス)

うんちく

1996年に公開され、世界中を熱狂させた青春映画の金字塔『トレインスポッティング』。アーヴィン・ウェルシュの小説を基に、スコットランドで暮らす4人のジャンキーたちの明るく悲惨な青春像を斬新なスタイルで描いたこの作品は、90年代のポップ・カルチャーの代名詞となった。そして21年後の今年、世界中が待ち望んだ続編が完成。監督のダニー・ボイル、脚本のジョン・ホッジ、製作のアンドリュー・マクドナルドらオリジナルスタッフとともに、主演のユアン・マクレガーほか、ユエン・ブレムナージョニー・リー・ミラーロバート・カーライルら、お馴染みのキャストが再集結した。

あらすじ

舞台はスコットランドエディンバラ。かつて3人の仲間を裏切り、大金を持って逃走したマーク・レントンが20年振りに故郷に戻ってくる。親友だったシック・ボーイことサイモンは表向きパブを経営しながら売春やゆすりに手を染め、ジャンキーのスパッドは家族に愛想を尽かされ人生に絶望し、ベグビーは殺人罪で刑務所に服役中で、いつまでも大人になれないダメな男たちは相変わらず荒んだ人生を送り続けていた...

かんそう

私の青春には『トレインスポッティング』があったのだ。スリリングでショッキングなストーリーはさることながら、セオリーに従わない自由奔放でスタイリッシュな映像と音楽、そしてファッション、すべてが刺激的で、すべてに影響された。ドラッグ以外。それは社会現象にもなり、『トレインスポッティング』を観たかどうかが試金石にもなるような、そんな「アイコン」だった。堂々と好きって言うのがちょっぴり恥ずかしい時期もあった。そして20年の時を超え、おそるおそる再会した「青春」は、絶妙に最高だった。やっぱり『トレインスポッティング』が大好きなんだってことや、そしてそのほかのことも、話したいことがたくさんある。でも、心の中に色んな感情が渦巻いて上手く言葉に出来ないから、レントンの言葉を借りる。

”Choose your future, Choose life !”

 

【映画】ムーンライト

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劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’17-20
『ムーンライト』(2016年 アメリカ)

うんちく

戯曲「In Moonlight Black Boys Look Blue(月の光の下で、美しいブルーに輝く)」を原案として、マイアミの貧困地域で生まれ育ち、自分の居場所を探し求める主人公の姿を「リトル」「シャロン」「ブラック」という3つの時代で綴る人間ドラマ。長編2作目となるバリー・ジェンキンスが監督を務め、エグゼクティブプロデューサーはブラッド・ピット。『マンデラ 自由への長い道』などのナオミ・ハリス、『グローリー/明日への行進』などのアンドレ・ホランド、『ハンガー・ゲーム FINAL』シリーズなどのマハーシャラ・アリが出演。第74回ゴールデン・グローブ賞では作品賞、第89回アカデミー賞では作品賞、助演男優賞マハーシャラ・アリ)、脚色賞を受賞し、NY批評家協会賞およびLA批評家協会賞などでも高く評価された。

あらすじ

マイアミの貧困地区で、ドラッグ常習者の母親ポーラと暮らしているシャロン。学校では“リトル”というあだ名でいじめられ、母親からは育児放棄をされている彼にとって、何かと面倒を見てくれる麻薬ディーラーのホアンとその恋人のテレサ、唯一の友達ケヴィンだけが心の支えだった。高校生になっても相変わらずいじめられ、母親はますますドラッグに溺れている。家にも学校にも居場所を失ったシャロンは、密かに同性のケヴィンに心を寄せていたのだが...

かんそう

-あの夜のことを、今でもずっと、覚えている。「最も純粋で美しい、愛の物語」は、シャロンの少年時代から青年期、成人期までを綴りながら、貧困、麻薬、虐待、人種差別、セクシャル・マイノリティへの偏見など、アメリカに蔓延する様々な社会問題をリアルに描き出す。それでいて、初恋の切なさ、ぬぐえない後悔、誰かを愛した記憶--誰もが抱く普遍的な感情がつぶさに、丁寧に描かれ、いつの間にか心がシャロンに寄り添ってしまうのだ。「泣きすぎて、自分が水滴になりそうだ。」というセリフが印象的な脚本が秀逸。叙情的な音楽、色彩豊かな映像は端正で美しかったが、エモーショナルな、言い換えると「革新的」とも言えるカメラワークは少し苦手だったかもしれない。月明かりの下で密やかに映し出されるシャロンの心象風景が、深い余韻を残す。メランコリックで美しい作品。

 

【映画】未来よこんにちは

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劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’17-19
『未来よ こんにちは』(2016年 フランス・ドイツ)

うんちく

第66回ベルリン国際映画祭コンペティション部門に出品され、銀熊(監督)賞に輝いた人間ドラマ。50代後半の女性が、思いがけず様々な問題に直面し、自分の人生を見つめ直す姿を映す。監督は『あの夏の子供たち』『EDEN/エデン』などで高く評価されているミア・ハンセン=ラブ。主演は『ピアニスト』『愛、アムール』などフランスを代表する大女優イザベル・ユペールで、脚本は彼女を想定して書かれた。『偉大なるマルグリット』などのアンドレ・マルコン、『EDEN/エデン』のロマン・コリンカ、『夏時間の庭』のエディット・スコブらが共演。

あらすじ

パリの高校で哲学を教えているナタリーは、同じ哲学教師の夫ハインツと既に独立した二人の子供を持ち、パリ市内に一人で暮らす高齢の母を世話しながら、哲学書の執筆にも追われ、忙しいながらも充実した日々を暮らしていた。そんな折、結婚25年目にして夫から「好きな人ができた」と告げらる。唖然としながら夫と別れ、しばらくすると母親が亡くなり、売上主義に舵を切った出版社からも契約を切られてしまう。バカンスシーズンを前にひとりぼっちになってしまったナタリーは、可愛がっていた教え子のファビアンを訪ねてフレンチ・アルプス近くのヴェルゴール山へ向かうが...

かんそう

原題は『L’AVENIR』=『未来』なんだから、そのまんまでよくない?『未来よ こんにちは』って、なんで「こんにちは」付けちゃうですか…「悲しみよ こんにちは」のつもりですか...配給会社の邦題がダサすぎる問題を叫び続ける会代表として、今回も物申す。さて閑話休題。男女の激しい情愛を描いた純然たるフランス恋愛映画を見たあと、立て続けに本作を観てしまうという痛恨のミステイクを犯したっていうのもあるけど、全体に抑揚が乏しい印象。心象風景の描写が少ない上にあっさりしているので、感情移入しづらい。抑圧的で繊細な描写と言えば聞こえがいいが、演出にメリハリがないので、ちょっと退屈。元来そういう作風は好物だけど、本作は胸に響かなかったなぁ。イザベル・ユペールという大女優の圧倒的な存在感がこの映画の軸になっているが、イザベルたん、もっと輝いてほしかった…。

 

【映画】モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由

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劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’17-18
『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』(2015年 フランス)

うんちく

期待の新鋭監督マイウェンが描く、10年間にわたる男と女の激しく官能的な愛の物語。『太陽のめざめ』などで監督としても高く評価されるエマニュエル・ベルコと、『ブラック・スワン』『たかが世界の終わり』のヴァンサン・カッセルが夫婦を演じる。名匠フィリップ・ガレル監督の息子で『SAINT LAURENT/サンローラン』で注目されたルイ・ガレル、『ふたりのヌーヴェルヴァーグ ゴダールトリュフォー』のイジルド・ル・ベスコらが共演。第68回カンヌ国際映画祭でエマニュエル・ベルコが女優賞を受賞、第41回セザール賞主要8部門にノミネートされた。

あらすじ

スキー事故によって大怪我を負い、リハビリセンターに入院することになった弁護士のトニー。彼女はリハビリに取り組みながら、元夫ジョルジオとの波乱に満ちた日々を思い返していた。遡ること10年前、学生時代にバイトしていた店の常連客で、密かに憧れていたレストラン経営者のジョルジオとクラブで偶然再会したトニーは、機転の利いた印象的なアプローチで彼の心を掴む。激しい恋に落ちた二人は命に導かれるように結婚し、トニーのお腹には新たな命が宿るが...

かんそう

ヌーヴェルヴァーグ以後のフランス映画界に「新しい波」をもたらし、“恐るべき子供たち”と呼ばれたリュック・ベッソン、ジャン=ジャック・ベネックス、レオス・カラックス。あまりにも刹那的で激しい男女の愛を映し出した『ベティ・ブルー 愛と激情の日々』『ポンヌフの恋人』といった彼らの作品群を彷彿とさせる。剥き出しの愛を見せつけられた、あの頃の衝撃だ。愛し合いながら、なぜ男と女はすれ違うのか。一緒に歩むことが出来ないのに、なぜ離れられないのか。惹かれ合うほど傷付け合い、愚かと知っていながら割り切れない愛を、知っている。華やかで楽しく魅力的である反面で、女やお金にだらしなく身勝手なジョルジオのダメ男ぶりが絶妙。所謂ろくでなし、こういう男にどうしようもなく支配されてしまう女の性(さが)も、知っている。あの頃は何も知らなかったけれど、今となっては身に覚えがあることだらけで身につまされるのだ。それでも、あの頃と同じ、微熱にうかされたように茫然と、激情の渦に身を任せて彼らの愛を追体験してしまった。何という映画。10年に渡る激しく濃密な愛の物語に、海が見えるリハビリ施設で再生しようともがくトニーの「いま」が差し込まれることで、程良い軽やかさと抑揚がもたらされる構成が良い。トニーを演じたエマニュエル・ベルコが素晴らしかった。

 

【映画】おとなの事情

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劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’17-17
『おとなの事情』(2016年 イタリア)

うんちく

友人の家に集まった男女7人が、それぞれの携帯電話にかかって来た電話やメールを公開し合うというゲームを始めたことによって繰り広げられる人間模様を描いたシチュエーションドラマ。監督はCM界出身の遅咲きパオロ・ジェノヴェーゼ。俳優陣は『ある海辺の詩人 -小さなヴェニスで-』などのジュゼッペ・バッティストン、『夏をゆく人々』のアルバ・ロルヴァケル、『天使が消えた街』のヴァレリオ・マスタンドレア、『カプチーノはお熱いうちに』のカシア・スムトゥニアクなど、イタリアを代表する実力派が顔を揃えた。イタリアのアカデミー賞にあたるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で作品賞および脚本賞を獲得。世界中の映画祭で脚本賞・観客賞など16冠の栄誉に輝いた。

あらすじ

ある夜、幼馴染の仲間がパートナーを連れて、ディナーの席に集まった。新婚のコジモとビアンカ、倦怠期の夫婦レレとカルロッタ、思春期の娘との確執を抱えているエヴァとそんな妻と娘の間に板挟みに合って悩むロッコ、そして、最近できた「彼女」を連れてくるはずが、一人でやってきたバツイチのペッペ。秘密なんてない、と豪語する気心の知れた7人は、それぞれのスマートフォンに電話がかかってきたらスピーカーにして全員の前で話し、メールが届いたら皆の前で開いて読み上げる、というゲームを始めるが...

かんそう

あかん、あかんて。スマホと財布の中は覗いたらあかん。本人ですら気付いていないかもしれない秘密がつまった、現代のパンドラの箱。そんなん絶対開けたらあかんですやん・・・。あああああ、と思っているうちに、電話が鳴り、メールが届き始め、ひとつずつ秘密が暴かれていく。浮気はおろか、ひた隠してきた性癖や豊胸手術の予定まで。斜め上をいくウィットに富んだ会話とスリリングな展開に引き込まれてしまう。登場人物のキャラクターがきちんと立っていて、それぞれの背景をいつとはなしに把握できる脚本と構成が素晴らしい。人生には、知らなくていいことがあるのだ。そのほうが幸せなことがあるのだ。そんなことを改めて思いつつ、どこか滑稽な人間の可笑しみを象徴したようなラストシーンがとても良かった。

 

【映画】わたしはダニエル・ブレイク

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劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’17-16
『わたしは、ダニエル・ブレイク』(2016年イギリス,フランス,ベルギー)

うんちく

前作の『ジミー、野を駆ける伝説』を最後に引退を表明していた巨匠ケン・ローチ監督が、母国イギリス、そして世界中で拡大する格差や貧困にあえぐ人々の現実を目の当たりにして引退を撤回。貧しくとも人としての尊厳を失わずに生きようと格闘する男の姿に迫った人間ドラマを創り上げた。主演はコメディアンとして活躍し、これが映画初出演となるデイヴ・ジョーンズ。『ロイヤル・ナイト 英国王女の秘密の外出』のヘイリー・スクワイアーズが共演。第69回カンヌ国際映画祭で『麦の穂をゆらす風』に続く2度目のパルム・ドールを獲得した。

あらすじ

イギリス北東部ニューカッスルに暮らす59歳のダニエル・ブレイク。大工として実直に働いてきたが、心臓の病を患い医者から仕事を止められてしまう。失業した彼は国の援助を受けようとするが、理不尽で煩雑な制度や事務手続きが立ちはだかり、必要な援助を受けることが出来ず、経済的にも精神的にも追い詰められていく。そんな中、偶然出会ったシングルマザーのケイティと二人の子供たちを助けたことから交流が生まれ、お互いに助け合い、絆を深めるうちに希望を取り戻していくが...

かんそう

御年80歳、長編映画を撮り続けて50年。ケン・ローチの眼差しは一貫して労働者や社会的弱者に向けられ、彼らを取り巻く厳しい現実と、その毎日をひたすらに生きようとする人々の姿を描き続けてきた。で、そんなケン・ローチ作品が好きかって言われると、微妙。「観ることに意義がある」フォルダに入れてた監督の一人だったのだけど、今作は心から賞賛したい。どんな屈辱にも人間としての尊厳を失わず、困っている人を見れば迷いなく助けようとするダニエルの真っ直ぐな視線、どん底にいる弱者を救わない社会制度、そんな社会に見切りをつけ不労所得を得ようと奮闘する若者たち、人間としての尊厳を切り売りせざるを得ないまでに追い詰められるシングルマザーのケイティ。徹底したリアリズムのなかにユーモアを差し込みつつ、静かに淡々と描かれる彼らの姿を通して、ケン・ローチの社会に対する強い怒りが映し出される。やるせなさに心をえぐられ、ありとあらゆる感情が揺さぶられる。「ケン・ローチ監督の集大成であり最高傑作」という呼び声も納得の秀作。一人でも多くの人に観てほしい。

 

【映画】ラビング 愛という名前のふたり

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劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’17-15
『ラビング 愛という名前のふたり』(2016年 アメリカ)

うんちく

愛する家族と暮らしたい一心で、異人種間における結婚を禁止する法律に立ち向かったラビング夫妻。この実話に深い感銘を受けた俳優のコリン・ファースがプロデューサーを名乗り出て、映画化が実現したヒューマンドラマ。カンヌ国際映画祭で高い評価を受けた『テイク・シェルター』『MUD マッド』などのジェフ・ニコルズが監督・脚本を務め、『スター・ウォーズ』シリーズや『ゼロ・ダーク・サーティ』に出演したジョエル・エドガートン - リチャードと『コンフィデンスマン/ある詐欺師の男』『JIMI:栄光への軌跡』などのルース・ネッガ - ミルドレッドが主演。

あらすじ

1958年のアメリカ、バージニア州。大工のリチャード・ラビングは恋人の黒人女性ミルドレッドから妊娠を告げられ、結婚を申し込む。しかし当時、ここバージニア州では異人種間の結婚が法律で禁止されていた。二人は法律で許さていれるワシントンDCで結婚し、地元に新居を構えて新婚生活を始めるが、ある日の夜中突然乗り込んできた保安官に逮捕されてしまう。ラビング夫妻は離婚するか、生まれ故郷を捨てるかという苦渋の決断を迫られるが...

かんそう

1960年代、今からわずか60年前。第二次世界大戦後、日本ではいわゆる『高度成長期』を迎えていた頃、アメリカのいくつもの州で異人種間の結婚が禁じられていたと考えると、アメリカってやっぱり大きい田舎なんだなと思ったりする。そして公民運動が高まりを見せ、マルコムXマーティン・ルーサー・キング牧師が暗殺の標的になっているあいだに、ごく普通の労働者階級の夫婦の愛が国を動かし、法律を変えた驚くべき史実。それを知るためには充分に観る価値のある作品なのだが、ただ、裁判よりもラビング夫妻の夫婦愛に焦点を絞り、あまりにも静かに淡々と二人の愛が綴られるので、た、退屈なんだなぁ・・・これが・・・うん・・・でも観て良かったよ?