銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】ムーンライト

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劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’17-20
『ムーンライト』(2016年 アメリカ)

うんちく

戯曲「In Moonlight Black Boys Look Blue(月の光の下で、美しいブルーに輝く)」を原案として、マイアミの貧困地域で生まれ育ち、自分の居場所を探し求める主人公の姿を「リトル」「シャロン」「ブラック」という3つの時代で綴る人間ドラマ。長編2作目となるバリー・ジェンキンスが監督を務め、エグゼクティブプロデューサーはブラッド・ピット。『マンデラ 自由への長い道』などのナオミ・ハリス、『グローリー/明日への行進』などのアンドレ・ホランド、『ハンガー・ゲーム FINAL』シリーズなどのマハーシャラ・アリが出演。第74回ゴールデン・グローブ賞では作品賞、第89回アカデミー賞では作品賞、助演男優賞マハーシャラ・アリ)、脚色賞を受賞し、NY批評家協会賞およびLA批評家協会賞などでも高く評価された。

あらすじ

マイアミの貧困地区で、ドラッグ常習者の母親ポーラと暮らしているシャロン。学校では“リトル”というあだ名でいじめられ、母親からは育児放棄をされている彼にとって、何かと面倒を見てくれる麻薬ディーラーのホアンとその恋人のテレサ、唯一の友達ケヴィンだけが心の支えだった。高校生になっても相変わらずいじめられ、母親はますますドラッグに溺れている。家にも学校にも居場所を失ったシャロンは、密かに同性のケヴィンに心を寄せていたのだが...

かんそう

-あの夜のことを、今でもずっと、覚えている。「最も純粋で美しい、愛の物語」は、シャロンの少年時代から青年期、成人期までを綴りながら、貧困、麻薬、虐待、人種差別、セクシャル・マイノリティへの偏見など、アメリカに蔓延する様々な社会問題をリアルに描き出す。それでいて、初恋の切なさ、ぬぐえない後悔、誰かを愛した記憶--誰もが抱く普遍的な感情がつぶさに、丁寧に描かれ、いつの間にか心がシャロンに寄り添ってしまうのだ。「泣きすぎて、自分が水滴になりそうだ。」というセリフが印象的な脚本が秀逸。叙情的な音楽、色彩豊かな映像は端正で美しかったが、エモーショナルな、言い換えると「革新的」とも言えるカメラワークは少し苦手だったかもしれない。月明かりの下で密やかに映し出されるシャロンの心象風景が、深い余韻を残す。メランコリックで美しい作品。