銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】わたしはダニエル・ブレイク

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劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’17-16
『わたしは、ダニエル・ブレイク』(2016年イギリス,フランス,ベルギー)

うんちく

前作の『ジミー、野を駆ける伝説』を最後に引退を表明していた巨匠ケン・ローチ監督が、母国イギリス、そして世界中で拡大する格差や貧困にあえぐ人々の現実を目の当たりにして引退を撤回。貧しくとも人としての尊厳を失わずに生きようと格闘する男の姿に迫った人間ドラマを創り上げた。主演はコメディアンとして活躍し、これが映画初出演となるデイヴ・ジョーンズ。『ロイヤル・ナイト 英国王女の秘密の外出』のヘイリー・スクワイアーズが共演。第69回カンヌ国際映画祭で『麦の穂をゆらす風』に続く2度目のパルム・ドールを獲得した。

あらすじ

イギリス北東部ニューカッスルに暮らす59歳のダニエル・ブレイク。大工として実直に働いてきたが、心臓の病を患い医者から仕事を止められてしまう。失業した彼は国の援助を受けようとするが、理不尽で煩雑な制度や事務手続きが立ちはだかり、必要な援助を受けることが出来ず、経済的にも精神的にも追い詰められていく。そんな中、偶然出会ったシングルマザーのケイティと二人の子供たちを助けたことから交流が生まれ、お互いに助け合い、絆を深めるうちに希望を取り戻していくが...

かんそう

御年80歳、長編映画を撮り続けて50年。ケン・ローチの眼差しは一貫して労働者や社会的弱者に向けられ、彼らを取り巻く厳しい現実と、その毎日をひたすらに生きようとする人々の姿を描き続けてきた。で、そんなケン・ローチ作品が好きかって言われると、微妙。「観ることに意義がある」フォルダに入れてた監督の一人だったのだけど、今作は心から賞賛したい。どんな屈辱にも人間としての尊厳を失わず、困っている人を見れば迷いなく助けようとするダニエルの真っ直ぐな視線、どん底にいる弱者を救わない社会制度、そんな社会に見切りをつけ不労所得を得ようと奮闘する若者たち、人間としての尊厳を切り売りせざるを得ないまでに追い詰められるシングルマザーのケイティ。徹底したリアリズムのなかにユーモアを差し込みつつ、静かに淡々と描かれる彼らの姿を通して、ケン・ローチの社会に対する強い怒りが映し出される。やるせなさに心をえぐられ、ありとあらゆる感情が揺さぶられる。「ケン・ローチ監督の集大成であり最高傑作」という呼び声も納得の秀作。一人でも多くの人に観てほしい。