銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’18-35
『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』(2017年 アメリカ)
 

うんちく

全編iPhoneで撮影した『タンジェリン』で世界を驚かせたショーン・ベイカーが監督・脚本を務め、35mmで撮影。フロリダ・ディズニーワールドに隣接した安モーテルを舞台に、パステルカラーに彩られた風景が広がる世界で暮らす貧困層の人々の日常を子どもの視点で描く。フロリダ出身の子役ブルックリン・キンバリー・プリンス、ベイカー監督自らがInstagramで発掘した新人ブリア・ビネイトが母娘を演じ、モーテルの管理人を演じたウィレム・デフォーは、第90回アカデミー賞助演男優賞にノミネートされた。
 

あらすじ

定住する家を失った6歳の少女ムーニーと母親ヘイリーは、“世界最大の夢の国”フロリダ・ディズニー・ワールドのすぐ外側にある安モーテル「マジック・キャッスル」でその日暮らしの生活を送っている。シングルマザーで無職のヘイリーは厳しい現実に苦しんでいたが、ムーニーは管理人のボビーに見守られながら、モーテルで暮らす子供たちと冒険に満ちた楽しい毎日を過ごしていた。しかし、ある出来事をきっかけに、厳しい現実がムーニーの夢のような日々に暗い影を落とすようになり...
 

かんそう

ものすごく正直な感想を言うと、少し苦手だった。理由はいくつか。映像の質感やカメラワークが好みではないこと。プロットやエピソードは面白いのだが、子供を使ったわざとらしい演出が時折鼻につくこと。シングルマザーを演じたブリア・ビネイトがあまりにも”はすっぱ”で、共感を持てないどころか、嫌悪感を抱いてしまう。だが、そのくらいリアルだったということだろう。無知で無学、怠惰で粗野。社会秩序から逸脱し、定職に就かない(正しくは”就けない”)彼女を断罪することはたやすいが、自己責任論を押し付ける前に、資本主義の最下層で喘いでいる人たちのことを我々は知らねばならない。日本でも貧困の問題は深刻だ。この作品は、彼らの厳しい現実を「無邪気な子どもの視点」を通して間接的に描くことで、その真実をくっきりと浮かび上がらせる。富裕層の笑い声が響き渡る世界最大のアミューズメント・リゾート”ディズニー・ワールド”の外側では、ホームレス寸前の貧困層がモーテル暮らしを余儀なくされているが、その一方でサブプライムローンの崩壊で主人を無くした廃墟が立ち並ぶ。いびつな社会構造の底辺で、蠢くように命をつないでいる母娘の姿に胸が痛む。そして、それを見守るウィレム・デフォーの厳しくも優しい眼差しが素晴らしい。苦手と言いながら、優れた作品として興味深く観た。