銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】Girl/ガール

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’19-40
『Girl/ガール』(2018年 ベルギー)
 

うんちく

トランスジェンダーの少女が、葛藤や苦悩を乗り越えてバレリーナを目指そうとする姿を映し出したドラマ。アントワープ・ロイヤル・バレエ・スクールに通う現役のトップダンサー、ビクトール・ポルスターが500人を超える候補者の中から選ばれ、主演を務めた。ベルギーが世界に誇る振付師でコンテンポラリー界の旗手、シディ・ラルビ・シェルカウイが振り付けを担当。監督はこれが長編デビュー作のルーカス・ドン。2018年・第71回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に出品され、カメラドール(新人監督賞)、主演のビクトール・ポルスターが最優秀俳優賞を受賞。アカデミー賞外国語映画賞に選出され、ゴールデン・グローブ賞外国語映画賞にノミネートされている。
 

あらすじ

バレリーナになることを夢見る15歳のララ。男性の体に生まれてきたトランスジェンダーの彼女にとって、それは簡単なことではなかったが、強い意志と才能、娘の夢を全力で応援してくれる父の支えによって、難関の名門バレエ学校に入学を認められる。ララは夢の実現のため、毎日の厳しいレッスンを通して、血のにじむような努力を重ねていく。やがてララが待ち望んでいたホルモン療法が始まるが、思うような効果がなかなか出ない。対して、否応無しに訪れる思春期の身体の変化に対する焦り、クラスメイトからの心無い仕打ちが、徐々に彼女の心と体を追い詰めていくが…
 

かんそう

2009年、ベルギーの新聞に掲載されたバレリーナになるために奮闘するトランスジェンダーの少女の記事に心を動かされたルーカス・ドンが、“必ず彼女を題材にした映画を撮る”という強い思いからアプローチを重ね、約9年の歳月をかけて一本の映画を作り上げた。それが女性ダンサーとして名門バレエ学校に入学を許された少女、ララの物語である。肉体的なギャップはもちろんのこと、男性ダンサーはトウシューズを履かないし、男女では踊るバリエーションも全く異なり、それは他の生徒と比べると遅いスタートであったことを意味するのだろう。課題は山積みで、彼女が血の滲むような努力を重ねる姿を、その表情を、ひたすらカメラが捉えている。彼女を必死に支え、最大の理解者である父親、彼女の心に寄り添うように治療に取り組む医療関係者たち。それでも肉体と精神の均衡を失い、引き裂かれるような思いを心に抱えてきた彼女の壮絶な苦しみが、静謐なタッチながら、エモーショナルに描かれる。その衝撃のラスト・シークエンスは、我々もその痛みを共に味わうことになり、激しく心を揺さぶられる。ララを演じたビクトール・ポルスターは“性別を超越した美しさ”と絶賛される、アントワープ・ロイヤル・バレエ・スクールに通う現役のトップダンサー。本人はシスジェンダーで且つ、初めての映画出演でありながら、心身の葛藤に揺れるララの心の機微を体現し、その佇まいはまさに、性別を超えた圧倒的な美しさを放つ。素晴らしかった。監督はこれが初めての長編作品とのことだが、丁寧な作品作りに好感が持てた。次回作も楽しみである。