銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】かごの中の瞳

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’18-65
『かごの中の瞳』(2016年 アメリカ)
 

うんちく

『チョコレート』『007/慰めの報酬』などのマーク・フォースターが監督・脚本を務めたサスペンス。角膜移植手術によって視力を取り戻した妻と、その夫が辿る運命を描く。ドラマシリーズ「ゴシップガール」や『ロスト・バケーション』などのブレイク・ライヴリーと『ターミネーター:新起動/ジェニシス』『ウィンチェスターハウス アメリカで最も呪われた屋敷』などのジェイソン・クラークが夫婦を演じ、『ワンダーウーマン』のダニー・ヒューストンなどが共演。
 

あらすじ

タイ・バンコクで暮らすジーナは、保険会社に勤める夫のジェームズと幸せな結婚生活を送っていた。彼女は子供の頃に両親の命を奪った交通事故で視力を失っていたが、夫の献身的な支えで何の不自由もなく暮らしていた。そんなある日、医師の勧めで角膜移植手術を受けたジーナは、片目の視力を取り戻す。喜び合う夫婦だったが、ジーナの瞳に映る夫の姿は想像と違い、地味で平凡な中年男だった。色褪せて見える世界に落胆を隠せないジーナだったが、これまで眠っていた好奇心や冒険心が目を覚まし、美しく着飾り外の世界へと飛び出していく。生まれ変わったように毎日を楽しむジーナとは正反対に、徐々に嫉妬と疑念の思いを抱き始めたジェームズは失意のなかにいた...
 

かんそう

おい夫つまんねー男だな!って何度も思ってしまったが、人間の冷ややかな本質を抉り出した極上のサスペンスだ。幼い頃の交通事故で視力を失った妻と、自分無しでは生きていけない妻を支えることが生き甲斐だった夫。共依存の関係にあった夫婦は、視力が回復した妻の自立によってその均衡を失う。妻が光を手に入れてもっと幸せになれるはずだったが、想像と異なり色褪せて見えた世界への絶望や、優位的に支配できなくなったものへの執着によって、二人の歯車が狂っていく。パワーバランスが崩れ、その主導権が入れ替わったことを見事な演出で描き出していく。満たされない欲望を持て余す美しい妻と、嫉妬や疑念にかられる冴えない夫、それぞれの緻密な心理描写も秀逸。物語が展開するにつれ視界が変化するジーナの感覚を様々な手法で映し出しながら、異国情緒漂うバンコクバルセロナの街を舞台にしたスタイリッシュな映像は不思議な視覚体験をもたらし、愛が所詮幻想にすぎないことを我々に突きつける。衝撃的にして語り過ぎない結末が、観る者の感性に委ねる余白となり、深い余韻を残す。深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだ・・・。もう誰も信じられない・・・。人間の複雑な心情を巧みに表現したブレイク・ライヴリージェイソン・クラークのキャスティングも完璧ながら、マーク・フォースター監督の仕事が素晴らしかった。『チョコレート』も傑作だもんな。って、『プーと大人になった僕』もおのれの仕事かーーーい(つい最近コキ下ろした