銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】ドリーム・ホース

映画日誌’23-02:ドリーム・ホース
 

introduction:

イギリス・ウェールズを舞台に、ひとりの主婦と片田舎の小さなコミュニティで育てた馬が最高峰のレースに挑んだ実話をもとに描く人間ドラマ。監督はドラマ「HEARTSTOPPER ハートストッパー」などのユーロス・リン。『ヘレディタリー/継承』などの実力派俳優トニ・コレットが主演し、『われらが背きし者』などのダミアン・ルイスをはじめウェールズゆかりの味のあるキャストが集結した。(2020年 イギリス)
 

story:

イギリス、ウェールズ。谷あいの小さな村で夫と二人暮らし、パートと親の介護をするだけの日々を送っている主婦ジャン。そんなある日、馬主経験のあるハワードの話を聴いて強く興味を持った彼女は、競走馬を育てることを思い立つ。貯金をはたいて血統の良い牝馬を購入し、村のみんなに馬主組合の結成を呼びかける。村民たちは週10ポンドずつ出しあって組合馬主となり、「ドリームアライアンス(夢の同盟)」と名付けられた仔馬は奇跡的にレースを勝ち進んで村の人々の人生を変えていくが...
 

review:

無気力な夫と二人暮らしをしながら実家の親の介護をし、スーパーと労働者クラブのバーでパートしている主婦ジャンが、ある日競走馬の育成を決意して村人に共同馬主になることを呼びかける。それだけで充分ドラマチックだし、映画の中でならあり得そうなエピソードだが、イギリス・ウェールズの片田舎、ブラックウッドの旧炭鉱町で起こった奇跡のような実話である。
 
気になって元ネタを調べてみたが、人物も出来事もほぼ実話どおり。ジャンの呼びかけに応じた村人たちは「決して儲けようとしないこと」を確認し合い、「胸の高鳴り(ホウィル)」を求めて馬主組合を結成したそうだ。2015年には、ドリームアライアンスの関係者を題材にしたルイーズ・オズモンド監督のドキュメンタリー映画『ダーク・ホース』も制作されている。
 
週10ポンドずつ出しあい共同馬主になった労働者たちの夢と希望を託され、「ドリームアライアンス」と名付けられた馬は奇跡的にレースを勝ち進んでいく。ドリームアライアンス号の快進撃が彼らの人生に喜びと輝きをもたらし、旧炭鉱町の寂れたコミュニティがつながりと活気を取り戻していく様子は感動的。やや駆け足だったが、主婦ジャンを演じた名優トニ・コレットの存在感も相俟って面白かった。
 
そして、妻の呼びかけにも空返事で「役立たず」と妻の父親に陰口を叩かれている無気力夫のブライアン。妻の突然の決意に戸惑いながらも挑戦を後押しし、何より動物への向き合い方が優しく愛情深く、ジャンがそこに信頼を寄せていることが窺える夫婦愛のさりげない描写が何だかよかった。ちなみに彼には前歯がない(笑)。
 
それにしても馬主組合いいなぁ。生活に圧倒的な「推し」がいるのはもちろん、その悲喜交々と「胸の高鳴り(ホウィル)」を分かち合える仲間がいるのが素晴らしい。目的もなくコミュニティ云々言ってる”まちづくり”の人々は観たらいいと思うよねぇ・・・。
 

trailer: