銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】ドリームプラン

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映画日誌’22-11:ドリームプラン
 

introduction:

世界最強のテニスプレイヤーと称されるビーナス&セリーナ・ウィリアムズ姉妹を世界チャンピオンに育てあげた実父リチャードの実話をもとに描いた伝記ドラマ。監督はレイナルド・マーカス・グリーン、『幸せのちから』などのウィル・スミスが主演・製作を務める。第94回アカデミー賞では作品賞、主演男優賞、助演女優賞ほか計6部門にノミネートされ、ウィル・スミスがオスカーを獲得した。(2021年 アメリカ)
 

story:

リチャード・ウィリアムズは、優勝したテニスプレイヤーが4万ドルの小切手を受け取る姿をテレビで見て、自分の子どもをテニスプレイヤーに育てることを決意する。テニスの経験がない彼は独学で指導法を研究し、78ページにも及ぶ計画書「ドリームプラン」を作成。ギャングがはびこるカリフォルニア州コンプトンの公営テニスコートで、周囲からの批判やさまざまな困難に立ち向かいながら、ビーナスとセレーナ姉妹を史上最強のテニス選手に育て上げていく。
 

review:

リチャード・ウィリアムズはかつての奴隷市場の街、ルイジアナ州シュリーブポートの出身である。白人至上主義KKKクー・クラックス・クラン)が根を張る人種差別が激しい地域で抑圧されながら育った彼は、白人社会への憎悪を募らせつつ、強烈な上昇志向を抱くようになる。2回目の結婚をした頃「エホバの証人」と出会い、厳しい家父長制、忍耐や勤勉、非暴力を敷くこの宗教に飛びつく。
 
貧困層の黒人が這い上がれない原因のひとつとしてコミュニケーションに暴力が介在してしまいがちな側面があると考え、品行方正かつ道徳的に生き、すばらしい功績を残せる子どもを育てる家庭を築こうとしていた彼にとって、都合のよい教義だったからだ。そして、一家は治安のよい豊かな湾岸都市カリフォルニアのロングビーチに暮らしていたが、リチャードは治安の悪いコンプトンに引っ越すことを突然決めてしまう。
 
「コンプトンに家族を連れて行ったのは、偉大なチャンピオンは“ゲットー”から生まれると信じていたから。モハメド・アリのようなスポーツの成功者やマルコムXのような偉大な思想家がどこから来たのか研究していたからね」「コンプトンほど荒れた場所はなかった。“ゲットー”は人間を激しくし、タフで強くしてくれる。だから俺は家族とコンプトンに行ったんだ」
 
それが本作に登場する、ギャング蔓延る治安の悪そうな街である。娘たちに反骨精神を埋め込むためわざわざ引っ越したってことを考えるとホントにヤバい奴だなって思し、間違いなく「毒親」の類である。リチャードのヤバさも描かれていたし、原題の ”King Richard”は「リチャード3世」になぞらえて揶揄したものだと思うが、ずいぶん美化して描いていると思われる。ヴィーナスとセリーナのサクセスストーリーのように見えて、要するに毒親の功罪を描いている。
 
結果、ビーナスとセレーナは、アフリカ系女子選手がほとんどいなかったテニス界に絶対王者として君臨し、人種差別や男女格差と闘いテニスの歴史を塗り替え、世界中の人々に影響を与える存在となった。文武両道を貫いた頭脳明晰な姉妹は数か国語を操り、現地の言葉で取材に応じる。クリエイティブな面を開拓していくことを母オラシーンに勧められてファッションスクールに入学し、デザイナーとしても才能を発揮している。
 
が、それは姉妹がたまたま成功しただけの生存者バイアスにすぎず、彼女たちがどこかで壊れてしまい挫折していたら、子どもを自己実現の道具にした毒親でしかない。とは言え、リチャードの毅然とした態度が姉妹を守った側面は否めない。ジュニア大会で子どもたちに強いプレッシャーをかける親、天才と持て囃された子どもが破滅していく現実に批判的だったリチャードは、子どもであるうちは子どもとして過ごさせようとする。
 
そして姉妹が何を背負って闘ってきたのか、マイノリティの代表として前人未到の道を切り開き、後に続く少女たちにどれほど勇気を与えたか、ということがきちんと描かれており、それは胸に迫るものがあった。ウィル・スミス平手打ち問題とリチャード毒親問題はおいといて、テンポのよいドラマチックな展開に引き込まれたし、映画としてよく出来ており楽しめた。でも、暴力はダメ絶対。
 

trailer: