銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】スペシャルズ!政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話

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映画日誌’20-36:スペシャルズ!政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話
 

introduction:

最強のふたり』などのエリック・トレダノオリヴィエ・ナカシュの監督コンビが、社会からはじかれた子どもたちを救おうと奮闘する男たちの実話を映像化。『たかが世界の終わり』でセザール賞にノミネートされたフランスの名優ヴァンサン・カッセルと、『ゼロ・ダーク・サーティ』『永遠のジャンゴ』などのレダ・カテブが主演するほか、本物の介護者と自閉症の若者、その家族たちがキャスティングされている。スペインのサンセバスチャン映画祭で観客賞に輝き、セザール賞では9部門にノミネートされた。(2019年 フランス)
 

story:

自閉症の青少年を支援する団体<正義の声>を運営しているブリュノ。どんな問題を抱えていても断らないため、各所で見放された子どもたちで施設はあふれ、ブリュノは朝から晩まで大忙しだ。この施設では、ブリュノの友人マリクが運営する団体<寄港>で教育されたドロップアウトした若者たちが働いている。社会からはじかれた子どもたちをまとめて救おうとしている二人だったが、無許可で赤字経営の<正義の声>に監査が入ることになり、施設閉鎖の危機に迫られてしまう。

 

review:

原題に「!」と説明臭いサブタイトルをつけたことで、映画を台無しにしている邦題が本当にダサすぎる。どうしてこうなる。監督コンビの前作『最強のふたり』の鼻につくヒューマニズムが苦手だったけど、フランスの名優ヴァンサン・カッセルにつられて鑑賞。思いがけず良作だった。ぜひ、監督の前作のイメージと、邦題の胡散臭さに目を瞑って、この社会問題に関心を寄せて欲しい。
 
ブリュノが運営する「正義の声」は、受け入れ先がない重度の自閉症スペクトラムの子どもたちをケアしている。それを支えるのは、ブリュノの友人マリクが運営している、社会からドロップアウトした若者たちを社会復帰させる団体<寄港>で教育を受けた若者たちである。しかし施設は無認可で赤字経営だ。しかも、<寄港>からやってくる支援員は無資格。監査局の調査が入ることになり、不適切な組織だと判断されれば閉鎖させられてしまうという。
 
一口で自閉症スペクトラムと言っても、その症状は十人十色で、重度軽度の度合いも幅広い。そして、重度の子どもたちが一般の施設や病院、社会でどのような扱いを受けているのかまざまざと見せつけられ、多くの支援を必要とする重度の人ほど公的支援からこぼれ落ちてしまう矛盾を突きつけられる。鳴り止まないブリュノの携帯電話が、その問題の根深さを物語っているようだ。
 
彼らには<TOP GAN CLUB>のステファン・べナム、<Relais Lle de France>のダーウド・タトウというモデルがおり、その事実に基づいて淡々と、しかしテンポよく描かれている。わざとらしい、お涙頂戴の演出はなく、ヒューマニズムの押し付けもない。社会からこぼれ落ちてしまった若者たちを無償の愛で支えようとしているのが、カトリックでもプロテスタントでもない、どちらかと言えば対立関係にあるユダヤ教徒イスラム教徒である点も興味深い。様々なことを考えさせられる作品だった。
 

trailer: