銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】メッセージ

 
劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’17-28
『メッセージ』(2016年 アメリカ)
 

うんちく

SF映画の金字塔『ブレードランナー』の続編の監督に抜擢されたドゥニ・ヴィルヌーヴが、優れたSF作品に贈られるネビュラ賞を受賞したアメリカ人作家テッド・チャンによる小説「あなたの人生の物語」を原作に映画化。独特の映像美と世界観で、まったく新しいSF作品を生み出した。主演は『アメリカン・ハッスル』を含め5度アカデミー賞にノミネートされたエイミー・アダムス、『ハート・ロッカー』など2度アカデミー賞にノミネートされたジェレミー・レナー、『ラストキング・オブ・スコットランド』などのフォレスト・ウィテカーらが共演。
 

あらすじ

突如地上に降り立った、巨大な球体型宇宙船。世界中が不安と混乱に包まれる中、謎の知的生命体と意志の疎通をはかるために軍に雇われた言語学者のルイーズは、彼らが人類に何を伝えようとしているのか探っていく。試行錯誤しながら彼らが使う言葉を解読するうちに、彼女は時間を遡るような不思議な感覚体験をするようになる。やがて知的生命体「ヘプタポッド」との対話が進むにつれ、彼らが地球を訪れた理由と、人類へのメッセージが判明し...
 

かんそう

言わずもがな、例のアレが「ばかうけ」にそっくりなことで話題になった映画である。英会話クラスの宿題で日記(英文)を書かなくてはいけないのだが、この映画を観たよっていうトピックスで"BAKAUKE" is a rice cracker, and “KAKI-NO-TANE”came out from a big “BAKAUKE”.って書きながら私はどこに向かっているのかと。あっ、巨大ばかうけから柿の種が…って思ったのは私だけじゃないはずだ。
さて、事前にどのくらい情報を仕入れて観るかが肝になってくるが、新鮮なインパクトとハッとするような気付きの瞬間を得たいなら、最小限にしておいたほうがいいだろう。でも、理解するには集中力が必要。例えば、既成概念にとらわれると、ものごとの本質や大切なことが見えなくなってしまう。時間の流れすら、概念にすぎない。そういったことを念頭に置いて観ると分かりやすいかもしれない。SFではあるけれども、これは壮大な愛の物語である。理屈ではなく、愛によって運命を受け入れること、そして私たちは未来を選ぶことができるということ。「彼ら」からのメッセージが、じわじわと胸に押し寄せてくる。もう一度観て、散りばめられた秘密をひとつずつ、紐解いていきたい。
 

【映画】ジェーン・ドウの解剖

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劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’17-27
ジェーン・ドウの解剖』(2016年 アメリカ)
 

うんちく

身元不明の女性の検死を行うことになった検死官の親子が、逃げ場のない空間で怪奇現象に襲われる様子を描いたホラー映画。松竹メディア事業部による企画“戦慄の<遺体安置所(モルグ)>ネクロテラー”第1弾として公開された。『トロール・ハンター』でカルト的な人気を博したアンドレ・ウーヴレダルが監督を務め、『28週後...』など数多くのホラーやスリラーを手掛けたセブ・バーカーが視覚効果を担当。出演は『X-MEN2』『ボーン・アイデンティティー』の名優ブライアン・コックスと『イントゥ・ザ・ワイルド』で一躍脚光を浴びたエミール・ハーシュ。全米最大のジェンル映画の祭典ファンタスティック・フェストでベスト・ホラー賞、シッチェス映画祭では審査員特別賞を受賞した。
 

あらすじ

バージニア州の田舎町。ある一家が惨殺された家の地下で、身元不明の女性の変死体が見つかる。“ジェーン・ドウ”と名付けられた彼女の検死を行うことになった検死官のトミーと息子オースティンだったが、メスを入れる度に、その遺体に隠された戦慄の事実が判明し、次々に不可解な現象が起こり始める。外では嵐が吹き荒れ、遺体安置所という閉ざされた空間で逃げ場のない恐怖が彼らに襲いかかろうとしていた…。
 

かんそう

実はホラー映画が大好きである。無類のオカルト好きである。目に見えない世界のことについて興味がある。それは子供の頃から不思議な体験をしてきたからであるが、それについてこれ以上言及するとイタい人間だと思われるので(イタい人間だけど)やめておこう。さて本作。題材はオーソドックスながら、切り口が斬新で非常に良い。ちなみにジェーン・ドウとは日本で言うところの「名無しの権兵衛」である。謎に包まれた身元不明の遺体を解剖しながら、紐解いていく過程がミステリーのような緊張感をもらたし、少しづつ積み上げられる違和感が言い様のない恐怖心を煽る。その構成は素晴らしいが、時折使い古されたチープなセリフまわしが残念。クライマックスに向かう展開でもたついた感もあり、少々詰めが甘い。もう少し、背筋が凍るようなオカルトの持つ不気味な「恐さ」を演出してくれたら最高だったのになぁ。とは言え、全体のクオリティは「良質なホラー」と呼ぶに値するものであった。
 

【映画】パーソナル・ショッパー

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’17-26
パーソナル・ショッパー』(2016年 フランス)
 

うんちく

フランスの鬼才オリヴィエ・アサヤスが、『アクトレス~女たちの舞台~』に続きクリステン・スチュワートを起用し、カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞したミステリー。忙しいセレブに代わって買い物を代行するパーソナル・ショッパーが自らの欲望を膨らませていくうちに、不可解な出来事に巻き込まれていく様を描く。撮影は、『しあわせの雨傘」などフランソワ・オゾン監督作品で知られるヨリック・ル・ソー。アートとカルチャーの最先端ストリート・パリのカンボン通りを舞台に、シャネルやカルティエなどハイブランドの華やかなファッションが劇中を彩る。
 

あらすじ

忙しいセレブに代わり、服やアクセサリーを買い付ける“パーソナル・ショッパー”としてパリで働くモウリーン。ずば抜けたセンスで仕事をこなしていたが、数カ月前に最愛の双子の兄を亡くし、悲しみから立ち直れずにいた。そんな中、まるでモウリーンを監視しているかのような奇妙なメッセージが携帯電話に届き始める。謎の送り主によって、モウリーンの別人になりたいという秘めた欲望が暴かれるうちに、次々と不可解な出来事が起こるようになり...
 

かんそう

ホラー×サスペンス×ファッションって盛り過ぎちゃったから、演出構成を引き算した結果なんだろうなーと思うのだが、引き算し過ぎた感が拭えない。もう少し手の内をみせてくれたほうが、モウリーンの葛藤に寄り添えたんじゃないかと思うんだけど、どうだろう。モウリーンの雇用主であるキーラを演じている女優さんにそれほどセレブ感やカリスマ性が無いので、そりゃクリステン嬢が着たほうが圧倒的に美しいだろ、ってのはともかく、「今の自分よりも恵まれた別人になりたい願望」の実現が表層的で説得力がないことになってしまってる気がするんだけど、どうだろう。悪くなかったけど、全体的に物足りなさと消化不良。ホラー×サスペンス×ファッションのいずれか、一点集中で掘り下げて振り切っちゃったほうが良かったね、きっと。そして下世話な心配であるが、クリステン嬢の脱ぎ損感が半端ない・・・。
 

【映画】マンチェスター・バイ・ザ・シー

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劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’17-25
 

うんちく

第89回アカデミー賞主演男優賞脚本賞の2冠に輝き、ゴールデン・グローブ賞ほか世界各国の映画賞を総なめにした人間ドラマ。『ギャング・オブ・ニューヨーク』でアカデミー賞脚本賞にノミネートされたケネス・ロナーガンが監督・脚本を手がけた。ハリウッドを代表する俳優マット・デイモンがプロデューサーを務め、彼の親友ベン・アフレック実弟ケイシー・アフレックが主演を演じ、高く評価された。『ブロークバック・マウンテン』『ブルーバレンタイン』などに続き本作で4度目のアカデミー賞ノミネートを果たしたミシェル・ウィリアムズ、『ギルバート・グレイプ』の原作・脚本を手がけた脚本家・監督のピーター・ヘッジズを父にもつルーカス・ヘッジズらが共演。
 

あらすじ

アメリカ、ボストン郊外。アパートの便利屋として働くリー・チャンドラーのもとに、兄のジョーが倒れたという知らせが入る。車を飛ばして故郷のマンチェスター・バイ・ザ・シーに向かうが、ジョーはすでに息を引き取っていた。その後リーは、弁護士に兄の遺言を聞かされ、16歳になる兄の息子パトリックの後見人に指名されていることを知る。甥の面倒を見るため故郷の町に留まったリーは、誰にも心を開かず孤独に生きるきっかけとなった過去の悲劇と向き合わざるを得なくなるが…。
 

かんそう

当初、マット・デイモンが主演を務める予定だったらしい。マット・デイモンのことは大好きだが、本作の主演に限ってはケイシー・アフレックで本当に良かったと思っている。屈託無く笑いあう無邪気な日々を失い、十字架を背負って孤独に生きていく男の業(ごう)を体現するには、マットでは優等生過ぎるのだ。これは、生ぬるい「再生」の物語ではないし、陳腐な「贖罪」の物語でもない。どこか大人になりきれない雰囲気を持ち合わせているケイシーが、絶望とともに生きる「リー」という男の姿を全身全霊で演じきることで、人生には、どんなに時間をかけても乗り越えられないことや、折り合いをつけられない痛みや苦しみがあるのだと、我々に知らしめるのだ。ルーカス・ヘッジズ、ミシェル・ウィリアムズら、脇を固める俳優も素晴らしく、一切の無駄を廃したような脚本と演出、美しい音楽に彩られた端正な映像から、リーの心の痛みがヒリヒリと伝わってくる。それは静かに、心の奥深い場所で波紋のように拡がって、忘れがたい余韻を残す。今年を代表する傑作となるだろう。
 

【映画】スウィート17モンスター

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劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’17-24
『スウィート17モンスター』(2016年 アメリカ)

うんちく

トゥルー・グリット』などのヘイリー・スタインフェルドが、劣等感をこじらせた等身大の17歳を演じ、ゴールデングローブ賞主演女優賞にノミネートされた青春ドラマ。ウェス・アンダーソンキャメロン・クロウの才能を発掘した名プロデューサー・ジェームズ・L・ブルックスに抜擢されたケリー・フレモン・クレイグが自身の脚本を初監督。NY映画批評家協会賞第一回作品賞を受賞したほか、賞レース4受賞18部門ノミネートの快挙を達成し注目を集めた。個性派俳優ウディ・ハレルソン、『クローザー』のキーラ・セジウィック、『glee/グリー』シリーズのブレイク・ジェナーが共演。

あらすじ

恋に恋して膨らんだ妄想が空回り、イケてない毎日を送る17歳のネイディーン。何かと騒動を起こしては、ネイディーンにとっても一番の理解者だった父が他界して以来ずっと情緒不安定な母親や、教師ブルーナーを困らせてばかりいる。たったひとりの親友クリスタだけが自分のすべてだったのだが、自分とは正反対でコンプレックスの元凶となっている、イケメンでエリートの兄ダリアンと彼女が恋仲になってしまい…。

かんそう

コーエン兄弟が見出した才能、ヘイリー・スタインフェルドが、自己中心的で捻じ曲がった自意識と世間とのギャップに劣等感を抱き、迷走して自爆する憎めない17歳を見事に体現している。そんなネイディーンが何故か心を開き、悩みを打ち明ける変わり者の教師ブルーナーを演じたウディ・ハレルソンの存在感が素晴らしい。繊細なお年頃のこじらせ女子高生に、絶妙な皮肉を投げかける教師との会話の応酬が実に面白い。脚本が秀逸。ほろ苦さもありがならコミカルでテンポのよい展開が楽しく、音楽の使い方も心地好い。青春真っ只中にあるネイディーンの不器用な恋模様が思春期あるある過ぎて、懐かしく気恥ずかしく、愛おしい。彼女を取り囲む「大人になれない大人たち」の姿もまた、愛おしい。きっとまた、落ち込んだ時にこの映画を観ると思う。

 

【映画】LION/ライオン 25年目のただいま

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劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’17-23
『LION/ライオン 25年目のただいま』(2016年 オーストラリア)

うんちく

5歳の時にインドで迷子になり、養子としてオーストラリアで育った青年がGoogle Earthを駆使して25年ぶりに家を見つけ出したという実話を元に、『英国王のスピーチ』の製作陣が数奇な人生を辿った男の物語を描く。監督はTVシリーズやCM、短編などで高く評価されているガース・デイヴィス。主演は『スラムドッグ$ミリオネア』のデヴ・パテル、本作でも多くの賞にノミネートされているオスカー女優のニコール・キッドマン、『ドラゴン・タトゥーの女』『キャロル』のルーニー・マーラ、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのデヴィッド・ウェンハムらが共演。

あらすじ

インドのスラム街で母親やきょうだいと暮している5歳のサルー。貧しい暮らしを支えるため仕事をしている兄クドゥと一緒に出掛けるが、ひとりで潜り込んだ列車が走り出してしまい、1000キロ以上離れた駅で迷子になってしまう。やがて彼はオーストラリアの実業家夫婦に養子として引き取られ、優しい養父母のもと成人するが、自分が幸せな生活を送るほど、インドにいる家族への想いは募っていく。ついに自分の家を探すことを決意したサルーは、わずかな記憶を辿り、Google Earth を頼りに捜索を始めるが…

かんそう

5歳の子供の記憶って、こんなにも鮮明なのかと驚いた。幼少時以降、インドでの記憶が上書きされていないからだろうか。しかし、身の危険を察知して人買いの手から逃れるなど非常に賢い子供だったのだろう。それにしても驚くべき実話である。実話だからこそ、一筋縄ではない痛みや苦しみがつきまとい、リアルである。なぜ養子を迎えたのか、サルーに伝えようとする養母スーの「私の苦しみなんてどうでもいいの」というセリフがとても印象的。2つの大きな母の愛が交差する瞬間が深い感動を呼ぶが、涙を煽るような演出は抑えられていて好感が持てる。5歳のサルーを演じた子役の才能に驚かされ、そしてニコール・キッドマンルーニー・マーラの美しさ、その瞳に全てを映し出す演技がとにかく素晴らしい。さらには『スラムドッグ$ミリオネア』や『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』では非常に純朴な印象だったデヴ・パテルが、いつのまにか艶っぽい男前になっていて、苦悩する様子が妙に色っぽいという副産物つきであった・・・

 

【映画】はじまりへの旅

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劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’17-22
『はじまりへの旅』(2016年 アメリカ)

うんちく

第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で監督賞を受賞したことで注目を集め、世界各国の映画祭で賞を獲得。現代社会に背を向け、アメリカ北西部の山奥で自給自足のサバイバルライフを実践している一家の”初めての旅”を描いたロードムービー。わずか4館での封切りでスタートした全米公開は600館まで拡大し、4ヶ月を越えるロングラン・ヒットを記録した。自作のオリジナル脚本を映画化した監督マット・ロスは俳優としても活躍、これが2本目の長編監督作となる。『イースタン・プロミス』などのヴィゴ・モーテンセン、『パレードへようこそ』などのジョージ・マッケイ、『フロスト×ニクソン』などのフランク・ランジェラらが出演。

あらすじ

アメリカ北西部。電気やガスはおろか携帯の電波さえ届かない大森林の中で、高名な哲学者ノーム・チョムスキーを信奉し現代文明社会に背を向けた父親ベン・キャッシュは、6人の子供達と自給自足のサバイバル生活を送っていた。18歳の長男ボウドヴァン、15歳の双子キーラーとヴェスパー、12歳の次男レリアン、9歳の三女サージ、そして7歳の末っ子ナイは学校に通わず、厳格な父親による特訓と教育により、古典文学や哲学を学んで6ヵ国語をマスター。おまけにアスリート並みの体力を誇り、ナイフ1本で生き残る術まで身につけていた。しかしある日、入院していた母レスリーが他界。一家は母の最後の願いを叶えるため、葬儀に出るべく2400キロ離れたニューメキシコを目指して旅に出るが…...

かんそう

なるほど、アメリカ的な資本主義とキリスト教原理主義への痛烈なアイロニーのようだ。一家の奇妙な言動が、資本主義的な消費社会に組み込まれた食形態、考える力を育まない学校教育、宗教を盲信する非論理性といった「現代の価値観」の正しさの是非、本当の幸せとは何かという問いを投げかけてくる。そして面白いことには、登場人物の誰もが正しく、そして間違えている。誰にも共感しないのだが、一家が母親を見送るシーンは否応なしに美しく、泣かされる。様々な音楽に彩られ、哲学、教育論、宗教といった学術的な記号やサバイバル術などの知識が散りばめられているので興味深い。とりあえず鑑賞後、チョムスキーおじさんについてググったよね。そして、珍しく仏教思想について割と正しく理解されていたように思う。